桜才学園での生活   作:猫林13世

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あり得そうだから困る


遅れた理由

 カナに出迎えられて、我々桜才学園生徒会役員は英稜高校生徒会室へ向かうことに。何度か行ったことがあるので出迎えなど不要なのだが、一応形式的に出迎えはした方が良いだろうと、両校の副会長の意見でそう言うことになっているのだ。

 

「(ウチもだが、英稜も副会長が実権を握っているようだな)」

 

 

 ここ最近は私もカナも大人しくなってきていると思うのだが、我々と副会長コンビ、どちらが信頼されているかは考えるまでもないだろう。

 

「すみません、ちょっとトイレに寄ってから行きますね」

 

「分かった。それじゃあタカ君、先に行ってるね」

 

 

 タカトシがトイレに立ち寄るとのことで、私たちは先に生徒会室へと向かった。

 

「あれ? 津田先輩はどうしたんすか?」

 

「タカ君はトイレだよ。先に始めてていいって言ってたから」

 

「そうっすか。せっかく掃除したのに」

 

「掃除?」

 

 

 いったい何のことかと我々が首を傾げると、カナが恥ずかし気に説明してくれた。

 

「実は、シノっちたちを出迎える前に、大慌てで生徒会室の掃除を行ったんですよ」

 

「確かに、何時もよりは綺麗な生徒会室になってるな」

 

「今度ウチでもやる?」

 

「ですが先輩、ウチの生徒会室はタカトシが定期的に掃除をしているので、我々が下手に掃除すると余計に散らかす可能性が……」

 

 

 タカトシの掃除スキルは私たちでは太刀打ちできないレベルなので、下手に掃除すれば逆に散らかしてしまう可能性が高い。

 

「津田先輩って相変わらずレベル高いんですね」

 

「そりゃタカ君は主夫ですし、普通の女子高生が太刀打ちできるわけないよね」

 

 

 カナの言葉に私たちは力なく頷く。私たちもそれなりにできる部類だとは思うが、タカトシと比べると霞んでしまう程度だしな……

 

「ところでそのタカトシ君、ちょっと遅くないかな?」

 

「大の方じゃないっすか?」

 

「広瀬さん、この前タカトシ君に怒られてなかった? もうちょっとデリカシーをって」

 

「言われましたけど、これくらい同性の間なら普通ですし、まして運動部なら尚更っす」

 

「そういう問題では無くて……」

 

「まさか、タカ君の身に何か……いや、あり得ないですね」

 

「その話詳しく!」

 

 

 何故かアリアがカナの冗談に喰いついたが、何か気になることでもあったのか?

 

「『タカ君のミニナニ』って」

 

「タカ君のはミニじゃないですよ? まぁ、直接見たことは無いですが、コトちゃん曰く」

 

「そういえばそんなこと言ってたな」

 

「あの……タカトシ君来たんですが」

 

「「「なっ!?」」」

 

 

 森の言葉に慌てて私たちは振り返る。すると青筋を浮かべているタカトシがそこに立っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三人を説教してから、何故遅れたのかを尋ねると、トイレから出て生徒会室へ向かう途中、プリントをぶちまけていた女子生徒がいたらしい。その手伝いとして職員室までそのプリントを運び、そこから生徒会室へ向かおうとして、怪我をした女子部員がいて、保健室まで連れていき手当をし、最終的に英稜の先生の手伝いをしていたとのこと。

 

「アンタ、相変わらずお人好しね」

 

「まぁ、見てみぬふりはできないからね」

 

「さすがは津田先輩っすね」

 

「英稜内でも人気が高いのは納得ですよね」

 

 

 畑さんが桜才新聞にタカトシの写真を載せて販売してからというもの、タカトシの人気は爆発的に広まったらしい。元々文才だけで人を魅了していたのに、その作者がこの様な見た目だと知り、余計に魅了されたということらしい。

 

「ところで、慌てて掃除でもしたんですか?」

 

「何故そう思ったんすか?」

 

「いや、ところどころ掃除しきれてない箇所が目立つから」

 

 

 タカトシが指摘するまで私たちも気付かなかったが、確かに微妙に掃除しきれていない箇所がちらほらとある。それを一瞬で見つけるなんて、相変わらずタカトシの家事スキルは凄いわよね……

 

「森先輩が慌てて掃除しようって言いだしたんでしたんすけど、やっぱり津田先輩レベルには仕上げられませんから」

 

「そもそも広瀬さんたちが私物を持ち込んでなければあそこまで散らかったりしなかったんですけどね」

 

「青葉さんだって生徒会室で歯磨きしてたじゃないっすか。ニンニク臭いからって」

 

 

 一年同士の曝露合戦に、森さんが頭を抱える。そりゃ会長が説教され後輩たちが言い争いを始めたら頭を抱えたくなる気持ちもわかるが……

 

「ところで、三人は反省したんですか?」

 

「「「もちろんです!」」」

 

「なら、さっさと続きをしましょう。別に今日は説教する為に英稜に来たわけじゃないですから」

 

「説教したアンタが言う、それ?」

 

「俺以外にできないんだから仕方ないだろ」

 

 

 確かにタカトシ以外が説教したところで三人には響かないだろう。個々で説教する分には反省させることができるかもしれないが、三人纏めてとなるとなかなか難しい……その点でもタカトシに頼りっきりになってしまっているのだ。

 

「森さん……」

 

「何でしょう、萩村さん……」

 

「私たちでもう少しタカトシの手助けができるようにならないとダメみたいですね」

 

「そうですね……」

 

 

 森さんもタカトシに頼りっきりだということは自覚しているようで、私と同じようにため息を吐いた。

 

「(まぁ、森さんはタカトシと精神的に近しいし、私にはできない方法でタカトシの助けになってるのかもしれないけどね)」

 

 

 ここにいる面子で、誰が一番タカトシと近しいかと問われれば、親戚であり義姉である魚見会長か森さんかのどちらかだろう。つまり我々は、同じ学校、同じ生徒会役員だというのに二人より近しくないのだ。

 

「(もうちょっと頑張らないと)」

 

 

 具体的に何を頑張ればいいのか分からないけども、私はそう決意したのだった。




先輩組はところどころダメだからな……

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