タカ兄からの電話で、パリィ先輩を満足させることができる場所を思いついた私は、先輩たちを引き連れて近所のスーパーで食材の買い出しをする事にした。
「私一人じゃ目利きなんてできなかったからテキトーに買っていたでしょうが、シノ先輩やスズ先輩がいれば安心ですね」
「そもそもタカトシはコトミに簡単な買い物しか頼んでなかったんだろ? 私たちがお邪魔することになったから、それなりの量を買うことになっただけで」
「ところでコトミちゃん。どうして私の名前が出てこなかったの~?」
「だってアリア先輩はお嬢様ですから。自分で食材の買い出しをしてる光景が想像できなかったんです」
「そっか~」
機嫌を損ねたのかとも思ったが、アリア先輩は純粋に自分の名前が呼ばれなかったことが疑問だっただけのようだ。
「以前タカトシの料理は食べたことがあるし、また食べてみたいと思ってたけど、まさかこんな感じでその願いが叶うとはなー」
「タカトシ君の料理は、それこそ行列に並んででも食べたいくらいのおいしさがあるからね~」
「それをほぼ毎日当たり前のように食べられてる私は、実は勝ち組なのかも」
ふとそんなことを思い口にしたのだが、シノ会長やスズ先輩が怖い顔をして睨んできたので、恐らくは私のことを羨んでいるのだろう。
「そして、タカ兄の料理の腕がいいのは、私が全くできなかったから。つまり、タカ兄を育てたのは私ということに!?」
「くだらないことを言ってないでさっさと会計してきなさい!」
「あいたっ!?」
スズ先輩に脛を蹴り上げられ、私は痛みと共に快感を覚える。これがタカ兄に蹴られたとなれば快感なんて言ってられないくらいの痛みが襲ってきただろうが、スズ先輩は容姿相当な威力しかないので安心だ。
「それじゃあシノ会長、また並びましょうか」
「そうだな」
今度は会計の為にレジの列に並ぶことに。まぁさっき程並ぶこともないでしょうし、私一人じゃないから安心できるだろうしね――タカ兄が。
急遽津田家で昼食を済ませるとお嬢様から連絡をいただいたので、私は急ぎ津田家へ向かった。
「――というわけですので、こちらもお使いくださいませ」
「いきなりやってきてなんですかいったい……」
タカトシ様に屋敷から持ってきた食材を差し出すと、引き攣った顔をしながらも私を追い返すことなく招き入れてくれた。
「買い出しならコトミがしてるので食材の心配は無いんですが」
「ですが、せっかくお嬢様がご友人たちと外で食事をするというので、不詳出島サヤカ、こうして食材を持って参上仕った次第なのです」
「時代劇でも見てたんですか?」
タカトシ様は呆れながら私に紅茶を用意してくださいました。以前美味しい紅茶の淹れ方をレクチャーしたからなのかは分かりませんが、タカトシ様が用意してくださった紅茶は大変美味しいものでした。
「ただいまーって、タカ兄がメイドさんを家に連れ込んでる!?」
「何だってっ!? ――って、出島さんじゃないですか」
「お嬢様、お待ちしておりました。そして皆様もお帰りなさいませ」
「貴女はこの家の住人じゃないでしょうが……」
タカトシ様にツッコまれてしまいましたが、お嬢様をお出迎えするのは私の仕事ですので。
「それで、出島さんはここで何をしてたのかな~?」
「タカトシ様に食材の差し入れと、お嬢様をお出迎えする為に待機していました。決してタカトシ様に躾けられていたとかではありませんのでご安心を」
「そんなので安心するわけ――」
「なら安心だね」
「するんかいっ!?」
萩村様の軽快なツッコミに満足しながら、私はタカトシ様を手伝う為にキッチンへ向かおうとしたのですが――
「出島さんもお客さんですので、今日は任せてください」
――と手伝いを拒否されてしまった。
急遽大人数の食事を用意しなければいけなくなってしまったが、やることは大して変わらない。さすがに二人分を用意するのと同じ時間――というわけにはいかないが、それ程変わらない時間で用意することができた。
「はい、お待たせしました」
「さっすがタカ兄! もうちょっと時間が掛かると思ってたのに」
「せっかくだからこの後コトミは皆さんに勉強を教えてもらったらどうだ? 後から義姉さんも来るし」
相変わらずの成績なので、ここにいる皆さんに勉強を見てもらったら少しは身になると思い提案したのだが、何故かシノさんたちがノリノリで勉強を見てくれることになった。
「タカトシは午後はどうするんだ?」
「俺は三時からバイトです」
「なら家事は私たちに任せておくんだな! カナも来るなら安心だろ?」
「まぁ、その点に関してだけは安心ですね。くれぐれも脱線しないようにお願いします」
「私が見張ってるから大丈夫よ。まぁ、本格的に暴走したら私一人じゃ対処できないけど……」
「コトミがふざけ出したら容赦なく小遣いを減らすから、スズはコトミがふざけ出したら動画に収めておいてくれればいいよ。そうすれば証拠になるし」
「そ、そんなことしなくても自分の成績の酷さは自覚してるって……」
どうやら俺がいなければどうとでもなると思っていたのか、コトミは明らかに動揺している。こんなこと自慢にもならないが、長年こいつの兄をしていたから分かったことだな。
「もう食べて良い?」
「えっ? あぁ、どうぞ」
どうやらパリィの空腹が限界だったようで、俺はとりあえずコトミに釘をさすことを止め食事にすることにした。美味しそうに食べてくれるのは、作った側としてもありがたいことだが、さっき何か食べてきたんじゃなかったのか? すごい勢いで食べてるが大丈夫なのだろうか……
この後スズの胃に多大なるダメージが蓄積されたのは言うまでもない……