桜才学園での生活   作:猫林13世

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特権というよりただの付き添い


一人だけの特権

 タカトシとの見回りの権利を掛けて三人で裏でじゃんけんをしているのだが、最近は天草会長が一人勝ちすることが多い。偶に七条先輩が勝つこともあるけど、私は中々勝てない。

 

「萩村はじゃんけんが弱いのか?」

 

「どうなんでしょう……普段はここまで負けることは無いと思うんですけど、このじゃんけんだけは勝てないんですよ」

 

「それじゃあ今日はスズちゃんがタカトシ君と一緒に見回りする?」

 

「それは駄目ですよ。平等にするためにじゃんけんで決めてるんですから」

 

 

 ここで私が権利を受け取ってしまったら、平等性を欠いてしまう。天草会長は普段タカトシと一緒に行動することが少ない分ここで挽回していると思えば許せるが、同じクラスでそれなりに一緒に行動している私が特例を認められたら、外部からクレームが来そうだ。

 

「今日こそは自力で権利を勝ち取ります」

 

「それでこそ萩村だな」

 

 

 どうやら会長も私が特例を断ると思っていたようで、やる気満々で拳を突き出してきた。私は会長の拳に自分の拳をぶつけ、集中して勝負に挑む。

 

「おっ、会長とスズ先輩が殴り合いでもするんですか?」

 

「コトミ、今我々は真剣勝負前なんだ。邪魔をするんじゃない」

 

「おぉ! 何だかカッコいいですね。それじゃあ私はその勝負を見届けますね。ところで、タカ兄は何処にいるんですか?」

 

「タカトシ君なら、先に生徒会室にいると思うけど」

 

「なる程。タカ兄争奪戦というわけですか……まぁ、この程度でタカ兄が手に入ると思っているなら、随分とおめでたい奴らだな」

 

「何故敵側みたいなセリフを?」

 

 

 会長のツッコミに満足したのか、コトミは黙って私たちから距離を取る。大人しく見ているだけなら良いが、タカトシに告げ口しそうなので後で釘を刺しておかないと。

 

「行くぞ!」

 

 

 会長の音頭でじゃんけんをし、珍しく私が一人勝ちした。

 

「今日は萩村か……」

 

「こればっかりは時の運だしね」

 

「スズ先輩とタカ兄が一緒にいても、兄妹か親子にしか見えないですけどね~」

 

「はったおーす!」

 

 

 親子まではさすがに言われたこと無いわ!

 

「まぁまぁ、タカ兄がロリに目覚めて襲われるより良いんじゃないですか?」

 

「アンタ、タカトシに報告するわよ?」

 

「それだけは勘弁してください! これ以上問題を起こしたらどうなるか……」

 

 

 がたがたと震えだしたコトミを見て、私たちは「あぁ、また何かやらかしたんだな」と察知する。やらかすことに関してだけは事欠かないからな、コトミは……

 

「それじゃあ、我々も生徒会室に行くぞ!」

 

「あんまり遅いとタカトシ君に不審がられちゃうもんね~」

 

「タカ兄なら既に気付いていそうですけどね……というか、タカ兄に謝りに行くのでついてきてください」

 

「今回は何をやらかしたんだ?」

 

 

 会長がコトミに問いかけると、鞄から一枚の紙を取り出した。

 

「英語の小テストか……これは酷い」

 

「抜き打ちだとこれが限界なんですよ……」

 

「素直に怒られた方が良いな」

 

「だから、付き合ってください」

 

 

 泣きつかれても怒られるのに付き合うなんて御免だ。ただでさえタカトシに睨まれるとすくみ上るというのに、コトミの説教に付き合ったら私たちまで怒られてる気になってしまう。

 

「怒られるなら家でするのね。私たちはこれから見回りなんだから」

 

「そ、そんなー……」

 

 

 絶望するコトミを置いて、私たちは生徒会室へ向かう。毎回こんな風に時間を掛けてタカトシと見回る人を決めるので、他の仕事の殆どはタカトシが片付けてしまうのだ。今度お礼でもしなきゃ怒られそうよね、これ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タカトシと萩村が見回りしているのが気になってしまい、私は見回りに身が入っていない。隣にいるアリアも同じようで、さっきからタカトシたちがいるであろう方向を見詰めている。

 

「天草会長、七条さん、見回りならもう少ししっかりしてもらいたいんですけど」

 

「五十嵐か……」

 

「何かあったんですか?」

 

「タカトシ君とペア組めなくて残念だなーって思ってるだけだよ」

 

「普段天草会長がペアなことが多いですけど、どうやって決めてるんですか?」

 

「公平で文句のつけようのないじゃんけんだ」

 

「それで今日は萩村さんが勝ったんですか」

 

 

 五十嵐はそれ程気にしている様子はないが、ただでさえ同じクラスということでタカトシと行動を共にすることが多い萩村だ。見回りの時くらいは私かアリアに譲ってもらいたいと思ってしまうのは悪いことだろうか?

 

「タカトシ君が気になるのは分かりましたが、見回りはちゃんとしてください。生徒会の方でもしっかり見回りをしてくれていれば、校内の風紀が乱れることは無いでしょうから」

 

「私たちが多少気の抜けた見回りをしていたとしても、タカトシの目が光ってるから大丈夫だろ」

 

「そもそもタカトシ君なら見回る必要無さそうだけどね」

 

 

 タカトシの気配察知の範囲はかなりのものだ。校内ならその範囲内だろうから、不審な動きをしていればすぐに見つけることができる。

 

「実際、この前なんか横島先生が男子生徒を空き教室に連れ込もうとしたところを未然に防いだりしてたしな」

 

「その後こっ酷く怒られてたよね、横島先生」

 

「どっちが教師か分からない構図ですよね、それって……」

 

「あの二人に関して言えば、あれが普通だと思うぞ」

 

 

 そもそも横島先生に教師の威厳なんてないだろうし、タカトシはタカトシで説教に慣れているだろうから。




怒られるのも権利といえば権利……

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