桜才学園での生活   作:猫林13世

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横島先生の精神が……


立場の置き換え

 以前生徒会の紹介記事に書かれていたコメントのことで、私は頭を悩ませていた。別に小学生に見られたことに関して怒っているわけではないのだが、あれ以降横島先生が私に同情的な目を向けてくるのが気になるのだ。

 

「どうすればいいのかしら……」

 

「スズちゃん、どうかしたの?」

 

「悩みがあるなら聞くよー?」

 

「ムツミに相談してもね……」

 

「?」

 

 

 脳筋気味なムツミに相談しても解決策が出てくるとは思わない。失礼な気もするけど、ムツミからヒントが貰える気がしないのだ。

 

「私たちじゃ役に立てないなら、タカトシ君に相談してみれば?」

 

「タカトシに相談するのもね……」

 

 

 タカトシが横島先生に注意すれば収まるかもしれないけども、何となく子供っぽいと思ってしまう。だって自分で解決できないからタカトシを頼ったと思われてしまいそうだし……

 

「(って、こんなこと考えている方が子供っぽいのかもしれないわね)」

 

「そういえばスズちゃん、桜才学園のブログでウチの部活も紹介されることになったんだよ~」

 

「大丈夫なの?」

 

 

 ネネの部活と言うのはロボット研究会だ。表向きは健全な気がするが、ネネ個人がやっていることはとても健全とは言えない。この前のパリィの記事だってギリギリだったというのに、ネネのことが記事になれば炎上するかもしれない。

 

「大丈夫だよ。ちゃんと見せられる部分だけ取材してもらうから」

 

「部活動で見せられない部分があるってどういうことだ!」

 

「そりゃ、研究中のものだったり、大会に向けて開発してるロボットの部品だったりは見せられないよ」

 

「………」

 

 

 てっきり不健全なものが散乱してるのかと思ったが、意外とちゃんとした理由だったので私は言葉を失った。これじゃあ私の方が不健全な考えを持っているようじゃないか。

 

「それに、改造中のバ〇ブとか新感覚オ〇ホとか、企業案件もあるんだし」

 

「やっぱり不健全じゃないか! というか、部活動に案件を持ち込むな」

 

「言葉の綾だよ。訴訟沙汰にならないように、そこは写さないようお願いするのに、案件って言葉を使った方が良いでしょ?」

 

「だったら部室で改造するの止めろや……」

 

 

 やっぱりネネはネネだったと安心した反面、もうあの部室に行きたくないという気持ちが芽生えてきた。だって、同類だって思われたくないし……

 

「そうそう、この間の柔道部の記事、ちゃんと修正してくれたんだね」

 

「その辺は畑さんにお願いしたわ。私たちじゃそんな技術無いし」

 

「まさかトッキーが賞状を逆さまに持ってるなんてね~」

 

 

 ムツミの願いはボサボサ髪を修正してもらいたいという、ちょっと女の子っぽいお願いだったのに対して、時さんのは何時ものドジっ子が原因の修正だ。

 

「そういえば、津田君はブログには参加してないんだよね?」

 

「タカトシは別のことで忙しいから」

 

 

 会長や七条先輩がタカトシの文才を恐れて担当させていないとは言えないので、私はそれらしい理由で誤魔化した。しかし、だいたいの人には分かってるんだろうな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スズが気にしていた件は、轟さんたちが気にする前から知っていた。なので横島先生にはそれとなく注意をしていたのだが、どうやら解消はしていないようだった。

 

「横島先生、以前話した件ですが、まだ止めてなかったんですか?」

 

 

 なので俺は授業合間の休み時間に横島先生を捕まえて確認することにした。

 

「な、何だよ……男子生徒を資料室に連れ込むのは止めただろ?」

 

「そっちは止めて当たり前のことです。それではなくスズに対する憐みの視線です」

 

「だって、高校生にもなって――しかも制服を着てるのに小学生に間違われるなんて……憐憫の気持ちを懐いてしまっても仕方ないだろ?」

 

「なら逆の立場になって考えてみては如何でしょう?」

 

「逆の立場?」

 

 

 本来ならこんなこと言いたくないし、世の中には大勢いるだろうが、横島先生を反省させるにはこれくらい言わなければ駄目なようだ。

 

「いい歳して特定の相手がいないことを憐れんで見られたら、どうでしょう?」

 

「………」

 

 

 スズの立場に自分を当てはめているのだろう。横島先生の顔からみるみる生気が抜けていく。

 

「わ、私は何て失礼なことを萩村にしていたんだ……」

 

「ご理解いただけましたか?」

 

「あぁ……今後萩村に憐憫の視線を向けるのは止める。私だったら立ち直れないくらいのダメージを負ってしまいそうだ」

 

「そうですか。ではそうしてあげてください」

 

 

 既に小さくないダメージを負っているようにもみえるが、これくらいで済んで良かったかもしれない。もしこれ以上のダメージを負っていたら、今度は横島先生のことで頭を悩ませる結果になっていただろうし……

 

「それで、廊下で盗み聞きしている人は、何時になったら反省してくれるんですかね?」

 

『っ!?』

 

「以前も言いましたが、事実無根の記事を書くつもりなら、今後新聞部のお手伝いはしません。エッセイもご自身で用意してくださいね」

 

『これからはクリーンな新聞部を目指す所存であります! 失礼しました!!』

 

「畑も相変わらずだな……」

 

「あの人も横島先生には言われたくないと思いますけどね」

 

 

 相変わらず度で言うのならこの人も相当だ。何度注意しても改善されないのは二人ともだし、むしろ横島先生の方が注意されている。だからそう言ったのだが、横島先生は何故か恍惚の表情を浮かべている。

 

「はぁ……」

 

 

 これは学園長に相談するしかないのかとも思ったが、それはそれで面倒なので放っておくことにした。だって、俺が抱え込むべき悩みじゃないし……




自分は言われても気にしませんね

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