桜才学園での生活   作:猫林13世

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一発で撃退


乱れる心中

 バイト中に聞き覚えのある声が聞こえてきたと思い振り返ると、生徒会の後輩の津田君の姿があった。隣には見覚えのない女子がいるが、恋人か何かか?

 

『サクラ――綺麗だな』

 

「っ!?」

 

 

 あの津田君がそんなことを言うとは思わなかった……天草や七条に冷たい目をしていたあの津田君が、彼女を褒める時は歯の浮くようなセリフを使うんだな……

 

「これは天草たちに報告しなければ――」

 

「何を報告するんです?」

 

「そりゃ津田君が――?」

 

 

 私は誰に声を掛けられたんだ? ゆっくりと声の主を確認する為に振り返ると、そこには素敵な笑顔を浮かべている津田君の顔が……

 

「タカトシ君、この人は?」

 

「桜才OGで天草会長の前任の生徒会長、古谷さんだ」

 

「初めまして、英稜高校生徒会副会長の森サクラです」

 

「英稜?」

 

 

 英稜って確か、津田君の義姉が通っている高校だったよな……まさかその繋がりで二人は恋人に?

 

「何を勘違いしているかは知りませんけど、俺とサクラは特別な関係ではありませんよ?」

 

「そうなのか? 天草たちより明らかに距離が近い様に感じるんだが」

 

「そりゃシノさんたちは先輩ですから、精神的に距離ができてしまうのは自然な流れではないでしょうか? 加えて、あの人たちは以前酷い発言を連発していたという前科があります。ある程度距離を保とうとするのも当たり前かと」

 

「相変わらず先輩に対して酷い評価をする子だ。だが、それが普通なのかもしれないな」

 

 

 天草や七条の発言の酷さは私も知っている。というか、一緒になってふざけていた側の人間だからな、私は。

 

「それじゃあさっきの『綺麗』ってどういう意味だったんだ?」

 

「綺麗? あぁ、字が綺麗だって話をしてたのを盗み聞きしてたんですか」

 

「畑じゃないんだ。偶々聞こえただけだって」

 

「ところで、古谷さんはこんなところでバイトですか?」

 

「一人暮らしの女子大生は労働しないとやっていけないんだよ」

 

「ならこんなところで油を売ってる場合ではありませんね。どうぞ労働に勤しんでください」

 

「厄介払いしようとしてないか?」

 

「気のせいです」

 

 

 イマイチ納得いかないが、津田君の言うように油を売ってる場合ではない。私は若干納得いかないまま仕事に戻ることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宿題を終わらせ、気分転換にテレビを観ていると、見知った場所が映った。

 

「ここってあそこじゃない?」

 

「ホントだ。生放送って事は、知ってる人がいたら電話掛けれるね」

 

「くだらねぇことを……そもそも恋人同士の意識調査なんだろ? 知り合いに付き合ってるヤツなんかいねぇじゃねぇかよ」

 

「そうだね」

 

 

 桜才学園は校内恋愛禁止。校外なら問題ないと言われているが、内外でちゃんと切り替えられないと言われているので、全面禁止にするか解禁するかで意見が割れているという噂まであるくらいだ。

 

『インタビューよろしいですか? 今恋人同士の意識調査をしてまして――』

 

『では他を当たってください。自分たちは恋人同士ではないので』

 

「あっ、タカ兄」

 

 

 インタビュアーに声を掛けられて自然と返事をするタカ兄。その隣にはサクラ先輩の姿。まぁこの二人が一緒にいたら恋人だって勘違いされても不思議ではないよね。

 

「何で二人が一緒に……」

 

「タカ兄は生徒会の備品を買いに行ってたし、サクラ先輩の手にも同じ袋が見えるから、英稜の生徒会も備品の買い出しがあったんじゃない?」

 

「あっ、兄貴がその荷物を持ってやってる」

 

 

 カメラが未練たらしく二人を映していると、タカ兄がサクラ先輩の荷物を持ってあげるシーンが映った。相変わらずのジェントルマン……

 

「電話してみようか」

 

「両手塞がってるんだろ? 無理じゃね?」

 

「確かに」

 

 

 冷やかしてやろうとも思ったけど、タカ兄に怒られる未来しか見えないので、私はからかうのを止めてゲームをする為にテレビを操作したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨日の生放送を見ていた私たちは、タカトシと森が恋人同士に見られたという事実に少なからず焦りを覚えた。

 

「まぁ、シノちゃんが隣にいてもインタビューされていたと思うけど」

 

「アリアがいてもそうだろ?」

 

「というか、何故タカトシと森さんが一緒にいたんでしょうか?」

 

「備品の買い出しと言ってデートをしていたのか……けしからんな」

 

 

 そんなことを言いながら生徒会室に近づくと、中からタカトシの声が聞こえてきた。

 

『やっぱり……なら後で会うしかないな』

 

「「「っ!?」」」

 

 

 その前の会話は聞こえなかったが、恐らく相手は女子だ。そして敬語を使っていないことからカナではないことは分かる。

 

「外で何をしてるんです?」

 

「た、タカトシ……誰と会うんだ?」

 

「サクラですよ。店員が袋を間違えて渡していたようで、買ったものが英稜に行っていたので」

 

「な、なる程……それで、何故昨日は森と一緒にいたんだ?」

 

「偶々ですよ。店の前で会って、目的が同じなら別々に行動する必要もないだろうってことで」

 

「街頭インタビューされたのは偶々?」

 

「えぇ。勘違いも甚だしいのでまともに相手をせずに帰りましたけど」

 

 

 確かに取り付く島もないくらいの態度だったな。タカトシがあんな態度をとるなんて珍しかったが、元々そう言うのが好きじゃないって言ってたし、勘違いで近づいてこられてたんだから機嫌も悪くなるか。

 

「そういうわけでスズ」

 

「な、何?」

 

「昨日の精算は明日以降で」

 

「わ、わかったわ」

 

 

 買ったものが手元に無いんじゃ精算もできないということで、タカトシは領収書を仕舞い、別の仕事に取り組む。こちらの気持ちは穏やかではないが、タカトシは相変わらずということだな。




周りはモヤモヤが残るでしょうね

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