桜才学園での生活   作:猫林13世

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実にデートっぽい光景だ


備品の買い出し

 生徒会の備品を買いに行く予定だったのだが、直前で俺以外の三人の予定が合わなくなってしまった。だがそれ程多く買うわけではないので問題は無い。

 

「そもそも最初から俺一人で行くと言っていたのに、どうしてついてきたがってたんだ?」

 

 

 そんなことを考えながら店の前に到着する。すると正面から同じような状況の知り合いがやって来る気配を感じ取った。

 

「タカトシ君?」

 

「サクラも買い物?」

 

「うん」

 

 

 こういう場所で鉢合わせるのは義姉さんの可能性の方が高いのだが、義姉さんは今日バイトだ。家にコトミ一人にするのは不安だったのだが、八月一日さんと時さんが一緒に宿題をすると言っていたので安心して置いてきたのだ。

 

「生徒会の備品を買いに来たんだけど、私以外予定が合わなくて」

 

「そっちも?」

 

「えっ、タカトシ君も?」

 

「俺は元々一人で来る予定だったんだ。何かどうしても同行したいとか言っていたけどな」

 

 

 何の用事かは聞いていないが、それぞれ家の用事だということでそちらを優先してもらうことにしたのだ。三人が三人とも、別の理由で忙しいということで納得し、深入りしないように逃げてきたとも言えるだろう。

 

「タカトシ君とお買い物に行きたかったんじゃない?」

 

「生徒会の備品だぞ? そんな物一緒に買いに来ても意味ないだろ」

 

「タカトシ君と一緒ってところに意味があるんだよ」

 

「そんなものか……」

 

 

 そう言った感情はイマイチ理解できないが、サクラが言っているのだからそうなのだろう。だが俺と一緒と言っても、二人きりではないんだがな……まぁ、その辺りは考えるところがあるのだろう。

 

「それにしても」

 

「ん?」

 

「タカトシ君が私服姿だと高校生には見えないなって」

 

「そんなに老けてるか?」

 

「違う違う。大人っぽいから。大学生とか、私服で作業できる職場の人なのかなって思われてるかもよ」

 

「そうか?」

 

 

 別に他人にどう思われようが構わないが、そんなに高校生に見えないような恰好をしているつもりは無いんだがな……萩村とは別ベクトルで、高校生だと思われていないのか、俺は。

 

「サクラだって、そうやってファイル持ってるとできるOLみたいだな」

 

「褒めても何も出ないよ?」

 

「事実を言ってるだけだ。特別褒めたつもりは無い」

 

「そうやってサラリと言っちゃうから、いろいろな人に好意を向けられるんだよ?」

 

「はぁ……」

 

 

 俺としては意識しているわけではないのでそう言われても困るんだが……というか、それくらいで意識してもらえるなんて思えない。そんな簡単に行くのなら、柳本たちに教えてやれば幾分か嫉妬の視線が和らぐのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意図せずタカトシ君と二人きりでのお買い物になってしまったが、場所が場所だけにそう言った感じにはならない。もちろん、他の場所でもデートと言うよりお出かけという感じにしかならないんだろうけども、文具売り場では勘違いされようもないだろう。

 

「あっ、これ気になるかも」

 

 

 新しい筆ペンを見付け、私は試し書きをしてみることに。すぐ隣でタカトシ君が見てるけども、何時も通りの気持ちで字を書く。

 

「相変わらずサクラの字は綺麗だな」

 

「そんなこと無いと思うけど。タカトシ君の字の方が綺麗だと私は思うけど」

 

「そうか?」

 

「書いてみる?」

 

 

 タカトシ君に筆ペンを渡して試し書きしてもらうと、国語の先生のように整った字を書いた。

 

「ほらやっぱり」

 

「同じくらいか、サクラの方が上手いと俺は思うんだがな」

 

「上手い下手じゃなくて、綺麗かどうかだからね。もちろん、タカトシ君の字は上手だけど」

 

 

 私はある程度意識してこの字を書いているのだが、恐らくタカトシ君は素なのだろう。だって、字を書く時特に意識してる様子も無かったし、筆の進みがスムーズだったから。

 

「別にある程度汚くても、相手が読み取れれば問題ないだろうしな。実際、コトミの字はかなり酷い」

 

「コトミさんは急いでるからじゃない? テストとか時間に追われるから」

 

「普段のノートも酷いから、時間が関係してるとは思えないけどな」

 

 

 苦笑いを浮かべるタカトシ君を見て、どんな風でもこれだけ思われているコトミさんが少し羨ましく思えた。一人っ子だから仕方ないのかもしれないけど、こんなお兄ちゃんが欲しいとも。

 

「(何を考えてるんだ、私は……ん?)」

 

 

 頭を振って考えをリセットしようとしたら、いい香りが鼻に届く。これは確か――

 

「アロマ消しゴムか」

 

「そんなのがあるのか?」

 

「タカトシ君でも知らないことがあるんだね」

 

「サクラまでそう言うことを言うのか……」

 

「タカトシ君が知らないことがあるってのは分かってるけど、これを知らないとは思ってなかったから、つい……ゴメンね?」

 

「別に怒ってない」

 

 

 結構本気で謝った私に対して、タカトシ君は逆に恐縮したような表情で怒ってないという。何とかして誤魔化せないかと思い、私はアロマ消しゴムを手に取ってタカトシ君に近づける。

 

「ほら、良い匂いだよ」

 

「そんなに近づけなくても匂ってるが、確かに良い匂いだな」

 

「でしょ? こうやって気持ちを落ち着かせる為に使ってる人もいるらしいよ」

 

「別に荒ぶってないからな?」

 

 

 タカトシ君に笑顔で否定されたけども、私の気持ちは落ち着いてきた。実は私の気持ちを落ち着かせる為にしていたんだよね……




実際コトミの字は汚そうだ……

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