桜才学園での生活   作:猫林13世

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そこだけ聞けば仕方が無いが


聞き間違いからの勘違い

 所用で職員室の前を通った時、中から男の人二人の声が聞こえてきた。一人は職員室にいても不思議ではない大門先生の声だが、もう一人は職員室には縁がない人の声だ。

 

「何故タカトシが職員室に?」

 

 

 タカトシ自身が呼び出されたとは考え難いから、コトミのことで相談されているのか、クラスの提出物を集めてタカトシが持ってきたか、もしくは横島先生を説教する為にやってきたかだろう。

 

「だが横島先生は生徒会室にいたしな……」

 

 

 特に用事もないのに生徒会室に入り浸っていたようだが、偶々遊びに来ていた古谷先輩の相手を任せておいたので、さすがに職員室には戻ってきていないだろう。というか、私が生徒会室を出たのはさっきだし、横島先生がタカトシ並の達人でもない限り、私に気付かれること無く私を抜き去り、職員室に戻るということは無いだろう。

 

『津田は――持てるか?』

 

『持てると思いますが――』

 

「(何という会話をしているんだ)」

 

 

 大門先生も何故そんなことを聞くのかと思ったが、タカトシも自分がモテている自覚はあるんだな。まぁ、あれだけの女子から好意を寄せられていれば、嫌でも自覚するか。

 

「シノちゃ~ん」

 

「あ、アリアか……」

 

「どうしたの~? 何だか顔色が悪い気がするけど」

 

「ちょっとな……タカトシの意外な一面を見てしまったよな気がして」

 

「タカトシ君の?」

 

 

 アリアにさっき聞こえてきた会話を伝えると、私程ではないが驚いた様子を見せてきた。

 

「タカトシ君も男の子だもんね~。でも、その先の会話は分からないんだよね?」

 

「あぁ、偶々聞こえてしまっただけだし、職員室の扉に耳を押し付けて聞くわけにもいかないだろ? ましてや相手はタカトシ。気配を察知されて会話を打ち切られるのがオチだろうし」

 

「かもね」

 

「お二人とも、どうしたんですか?」

 

「萩村にも聞いてみるか」

 

 

 合流した萩村にもさっきの話をしてみる。私たちよりIQの高い萩村なら、会話の真実が分かるかもしれないし。

 

「アイツがモテ自慢をしてるなんて知りませんでした。ですが、本当にそういう内容だったんでしょうか?」

 

「だが、大門先生が『モテるか?』と聞いて、タカトシが『モテると思います』って言ってたのは事実なんだぞ?」

 

「何か事情があるってこと?」

 

「かもしれません。そもそも大門先生とタカトシがそんな会話をするとは思えないですし……」

 

「それはそう思いたくないだけじゃないの~?」

 

「ヒエェ!? は、畑さん……」

 

 

 萩村の背後から現れた畑に、萩村だけでなく私とアリアも驚く。こいつは本当にどこからでも現れるな……

 

「スクープの匂いを嗅ぎつけてきてみれば、なかなか面白そうな話ですね」

 

「畑ならどう思う?」

 

「津田副会長がモテているのは紛れもない事実ですから、本人が自覚していても不思議ではないでしょう。それに、男同士ということで油断してその様な話になってもおかしくは無いかと」

 

「ならやっぱり、タカトシはモテていることを自覚し、悦に浸っているということか?」

 

「副会長の裏側を見た感じですね」

 

 

 畑はすぐにでも記事にしようとする勢いだったので、とりあえず私とアリアで畑を確保。後程生徒会室で真実を確かめるから、それまで記事にするなとくぎを刺し、隣の部屋で待機させることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 提出物を纏めて職員室まで持っていくはずだった柳本が補習になり、何故か俺が代理で職員室に行くことになってしまった。そこで大門先生と軽く話してから生徒会室に向かったのだが、何故か室内の空気はおかしな感じになっているし、隣の部屋では聞き耳を立てている畑さんと横島先生の気配……そしてニヤニヤしている古谷さんが会長の席に座っている。

 

「これはどういう状況ですか?」

 

「これより津田君に事情聴取を行う」

 

「は? 事情聴取?」

 

 

 何がどうなってそうなるのかさっぱり分からないが、三人の顔を見る限り、おかしな勘違いをしているようだ。

 

「君はさっきまで職員室にいたな?」

 

「えぇ。代理で提出物を持っていきました」

 

「そこで大門先生とお喋りをしていたそうじゃないか」

 

「えぇ。軽く話しましたが」

 

「そこで、モテる発言をしたそうだが、事実か?」

 

「持てる、ですか? あぁ、ダンベルの話ですか」

 

「何っ!?」

 

 

 俺がダンベルと発すると、シノ会長が驚いたように掴みかかってきた。

 

「どういうことだ!」

 

「どういうも何も、大門先生のダンベルが目に入ったのでそれの話をしただけです。大門先生が『津田はそのダンベル持てるか?』と聞いてきたので『持てると思いますが、道具を使ったトレーニングはしないので分からないです』って答えただけですが」

 

「と、トレーニングの話だったのか……」

 

「いったい何を勘違いしたんですか……」

 

「いや、てっきりモテ自慢をしてるのかと思って」

 

「はぁ? 何でそんなことを自慢しなきゃいけないんですか?」

 

 

 そんなこと自慢しても意味はないだろう。そもそも誰か一人に決められない優柔不断男だって思われるだけだろうし。

 

「やっぱり会長の勘違いでしたか」

 

「せっかく津田が目覚めて、あわよくばって思ってたのによ」

 

「くだらんことをしてる暇があるなら、畑さんは部室の片付け、横島先生はデスクの上を片付けたらどうです? 問答無用ですべて捨てられたいのならそれでも構いませんが」

 

「「ではっ!」」

 

 

 寸分違わぬ動きで生徒会室を後にした二人を見送り、盛大にため息を吐いてから呆れた視線を三人に向ける。こちらも揃ってバツが悪そうな顔をしながら視線を逸らすのだった。




ここのタカトシがそんな話するわけ無いだろ

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