桜才学園での生活   作:猫林13世

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どんな注意だよ……


注意の仕方

 生徒たちも増えてきたので、私たちは妄想したりすること無く挨拶運動と交通マナーチェックを進めている。大半の生徒たちは挨拶をすれば返してくれるし、注意をすること無く交通マナーを守ってくれている。でも中には危険な歩き方をしている子もいるのだ。

 

「シノちゃん、あの子」

 

「あぁ」

 

 

 正面から歩いてくる女子生徒を見て、私とシノちゃんは彼女に注意することを確認した。

 

「こら! 歩きスマホは危ないぞ」

 

「そうだよ~。私たちが近づいてきたのにも気付かなかったでしょう?」

 

 

 私たちが声を掛けるまで、女子生徒は私たちの接近に気付かなかった。私たちだったから良いけど、これが自転車だったり車だったりしたら危険だ。歩行者が悪いにしても、向こうの責任も問われてしまうのだから。

 

「どれくらい危険なのかというと、こうしてトラックが横を通って風が吹いてスカートがめくれても、パンチラしてることに気付けないくらいにだ!」

 

「歩きスマホ、止めます」

 

 

 タイミングよくトラックが通り、女子生徒のスカートを捲り上げたお陰で、歩きスマホの危険性に気付いてくれた。だが男子生徒からしてみれば、絶好のパンチラチャンスが無くなって残念なのかな。

 

「ふぅ……また一人交通マナーの乱れた生徒を改心することができたな」

 

「そうだね~」

 

 

 二人で満足げに頷いていると、遠くで女子生徒を注意していたタカトシ君が呆れたような顔でこちらを見ている。

 

「相変わらず、タカトシ君は真面目だよね」

 

「どうしたんだ?」

 

「ほら。私たちの注意があまり良い感じじゃなかったみたいだから、こっちを見て呆れてる」

 

「アイツは耳も良いからな……」

 

「というか、タカトシ君に見惚れて飛び出しそうな女子生徒たちが大勢いるから、タカトシ君には校門前で立っててもらった方が良いんじゃないかな?」

 

「そうだな」

 

 

 私たちは比較的簡単にタカトシ君とお話しできるけども、一般女子はタカトシ君と話す機会などなかなかない。だからこの機会に話しかけようとして、左右も確認せずに飛び出しそうになっている女子生徒が多く見受けられる。それをタカトシ君が注意しているのだけども、飛び出す原因になっているのが自分だと分かっているから、注意をスズちゃんに任せているのだろう。

 

「タカトシ、ここは私たちが変わるから、お前は校門前で挨拶を頼む」

 

「分かりました」

 

「そういえばタカトシ君、コトミちゃんの姿がまだ見えないんだけど」

 

「家を出る前に叩き起こしてきたんですが、恐らく二度寝したんでしょう」

 

「コトミも相変わらずだな……」

 

 

 タカトシ君が学校に来たのが七時少し前。家を出た時間を考えればコトミちゃんが二度寝してしまってもおかしくはないけども、高校生にもなってというタカトシ君の呟きに、私とシノちゃん、そしてスズちゃんは「お母さんみたい…」と思ってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タカ兄に叩き起こされた時はどうしてこんな時間に……って思ったけども、今思えばあのまま起きていればこんなことにはならなかっただろう。

 

「ほらトッキー! 急いで」

 

「遅刻しそうなのはお前の所為だろうが」

 

「文句は後で聞くから!」

 

 

 私はトッキーが迎えに来るまで爆睡してしまっていた。なので今、トッキーと二人で通学路を全力ダッシュ中なのだ。

 

「というか、どうしてタカ兄はあんな時間に私を起こしたんだろう?」

 

「あっ? 今日は交通マナーチェックと挨拶運動が同時に行われてるからだろ? 昨日先生が言ってただろうが」

 

「そうだっけ?」

 

 

 そんな話を聞いた気もしなくはないが……それよりも今は遅刻回避が最優先。無駄な思考に集中力を割く余裕など無いのだ。

 

「あっ、シノ会長とアリア先輩だ」

 

「ここまで来れば、遅刻しなくて済みそうだな」

 

 

 シノ会長とアリア先輩が、カップルの二人乗りを冷やかしている様子が見え、私とトッキーは安堵した。

 

「おっ、風紀委員長が二人乗りを注意してる」

 

「まぁ、あの人の立場なら当然だろうな」

 

 

 注意してる三人の横を通り過ぎて、私たちは校門に到着した。時間は遅刻ギリギリの二分前だ。

 

「何だか人だかりができていない?」

 

「TVの取材とお前の兄貴の両方じゃねぇの?」

 

「確かに、カメラは見えるけどタカ兄は見えないよ?」

 

「集まってるのが女子生徒ばかりだからな」

 

 

 トッキーに言われて改めて見ると、確かに女子生徒たちが遠巻きに誰かを見ている感じがする。少し近づいてタカ兄の姿を確認できたので、私は一応挨拶しておこうと思い声を掛けた。

 

「タカ兄、おはよう」

 

「………」

 

「な、なに?」

 

 

 タカ兄に呆れられているのは分かるけども、私はまだ遅刻していない。そりゃギリギリだったけどもセーフのはずだ。

 

「髪はぼさぼさ、リボンは曲がってる、シャツは出てる。ついでに口の周りに歯磨き粉の跡」

 

「あっ……」

 

「ったく」

 

 

 タカ兄がブラシを取り出して私の髪を整え、リボンの曲がりを直した。そしてハンカチで口周りを拭いてくれた。さすがにシャツくらいは自分で直せと言われたので自分で直したが、今の光景を周りの女子生徒たちが羨ましそうに見ている。

 

「『副会長はお母さん!? 妹の乱れを修正』という題名で如何でしょう?」

 

「はい、消去」

 

「せっかく撮ったのにー!?」

 

「というかコトミ! 高校生にもなって兄に寝癖やリボンを直してもらおうとは何事かー!」

 

「風紀が乱れます!」

 

「嫉妬ですか?」

 

「「なっ!?」」

 

 

 会長とカエデ先輩に絡まれそうになったので、私はその一言で撃退して教室に逃げることに。だって、あの二人だけなら兎も角、背後に大勢の一般生徒たちもいたから……




コトミの反撃がクリティカルヒットしてる

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