桜才学園での生活   作:猫林13世

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自分も無いと家から出られない……


眼鏡事情

 珍しくネネが体育で頑張っているのを見て、私ももう少し頑張った方が良いのではないかと思い始めた。身長の関係でできることに限りがあるのである程度は諦めていたのだけども、運動音痴のネネがあそこまでやるのなら、私だってもう少し位は頑張れる。そう思って体育の時間を過ごした。

 

「いやー、今日はネネもスズちゃんも頑張ってたね」

 

「一番動いてたムツミに言われてもね……」

 

 

 体育はムツミの独壇場だ。男女混合ならタカトシもいるのだが、基本的には男女別で行われているので、この場はムツミの一人勝ちになることが多い。

 

「唯一の得意科目だからね~。こればっかりはスズちゃんに負けられないし」

 

「うん、最初から勝とうなんて思ってないから」

 

 

 私がムツミと喋っていると、ネネがおぼつかない足取りで私たちに近づいてくるのが見えた。

 

「どうしたの?」

 

「ちょっとハッスルし過ぎちゃったみたい」

 

「どういうこと?」

 

 

 ネネの言葉の意味が解らず首を傾げたが、そのタイミングでネネの手許に視線が行った。どうやら眼鏡が壊れてしまったらしい。

 

「大丈夫なの?」

 

「更衣室に予備があるから。ただ、そこまで行くのが大変なんだけどね」

 

「私たちも一緒に行くから大丈夫じゃない?」

 

「でも、結構時間かかるから迷惑にならない? だって、スズちゃんの顔だってまともに認識できてないんだよ?」

 

「結構重症ね……」

 

 

 互いが手を伸ばせば届く範囲にいるのに、私の顔が認識できないとは……目が悪いのは知っていたが、まさかそこまでだったとは……

 

「私がおんぶしていこうか?」

 

「そこまでしてもらわなくても大丈夫だよ」

 

「そっか」

 

 

 ムツミならネネを背負ったところで殆ど負荷にならないだろうけども、さすがのネネもそれは断った。汗をかいた後に人に背負ってもらうのを躊躇ったのだろう。

 

「今度タカトシ君と勝負してみたいな」

 

「そんなこと思えるのはアンタだけよ……タカトシだって相当凄いんだし」

 

 

 今日の体育はバレーだったのだが、タカトシは何をやらしても即戦力になれるくらいには実力があるらしい。まぁ、コトミ談なので本当かどうかは分からないが。

 

「おっ、更衣室が見えてきたね」

 

「ほらネネ、もう少しよ」

 

「おぉ、着いた着いた」

 

 

 ネネが更衣室の扉を開こうとして――

 

「そっちは男子更衣室だよ!?」

 

「そんな古典的なボケありかよ!?」

 

 

――私とムツミが慌ててネネを止めた。ちょうど更衣室から出てこようとしていた柳本も驚いた顔をしているが、その背後ではタカトシが呆れた顔をしている。

 

「眼鏡を壊したの?」

 

「ちょっとハッスルし過ぎちゃって……」

 

「見えない人にはキツそうだね」

 

「ネネ、こっちこっち」

 

 

 ネネの手を取って女子更衣室に誘導し、ネネが使っているロッカーの前に連れていく。これ以上男子更衣室の前で喋らせるのもあれだったし、タカトシがあそこに立っていたのは、中で着替えている人たちのブラインド役だと気付いたからだ。

 

「あったあった。これで良く見えるよー」

 

「良かったね」

 

「スズちゃんの可愛い白パンが」

 

「何処見てるんだー!」

 

 

 わざわざ人のスカートを捲って確認してきたネネに、私は今日一のツッコミを入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さっきはネネの眼鏡が壊れて大変だったけども、私は常々思っていたことを話すことに。

 

「眼鏡って良いよね。おしゃれだし、頭良さそうに見えるし」

 

「実際、眼鏡を掛けてるからって頭が良いわけじゃないんだけどね」

 

「ネネはやればできるでしょ? 一年の時は、私やタカトシと同じくらいだったんだから」

 

「もう無理だって……機械弄りに精を出し過ぎて勉強に向ける情熱は残ってないもん」

 

「威張って言うことじゃないと思うぞ?」

 

 

 スズちゃんのツッコミにネネが舌をチロっと出して頭を掻く。勉強を疎かにしている自覚はあるようだけども、改善するつもりもないようだ。

 

「せっかくだし、ムツミもかけてみる?」

 

「良いの?」

 

「でも、外したらネネ、何も見えないんじゃないの?」

 

「休み時間の間、少しくらいなら平気だって」

 

「じゃあ、ちょっとだけ」

 

 

 ネネの眼鏡を借りて掛けるが、私には度が強すぎて良く見えない……

 

「ちょっと気持ちが悪くなってきた……トイレトイレ」

 

「そっちは男子トイレだ!」

 

「今度は三葉か……スズ、何事?」

 

「あっ、タカトシ……」

 

 

 トイレから出てきたタカトシ君にスズちゃん事情を説明し、呆れ顔をしながらも納得してくれた。

 

「三葉は目が良いから、轟さんの眼鏡を掛けたらキツイって分かりそうなものだけどな」

 

「あんなにキツイとは思わなかったんだよ。しかも、掛けた自分を確認する前に外しちゃったから意味なかったし」

 

「だったらこれを貸してあげるよ。ブルーライト対策だから、度は入ってない」

 

「ありがとー」

 

 

 タカトシ君が普段使っている眼鏡を借りて、私は鏡の前に立つ。

 

「どうかな?」

 

「凄い! 馬鹿そうに見えない」

 

「そうかな? ……ん? もしかして今、褒められてない?」

 

「今ので褒められたと勘違いするなんて、やっぱりムツミちゃんはムツミちゃんだね」

 

「というか、眼鏡を掛けたくらいで頭が良くなるなら、コトミに五個でも十個でも買ってるって」

 

「お兄ちゃんの悲痛な叫びね……」

 

 

 コトミちゃんのことで頭を悩ませているタカトシ君の呟きに、スズちゃんが同情するように背中を叩いている。まぁ、私もタカトシ君にお世話になってるから何も言えないけど、コトミちゃんは特にひどいからなぁ……




タカトシ、心からの言葉……

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