桜才学園での生活   作:猫林13世

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その速度はなかなか難しいと思う


シノの悩み

 最近シノちゃんの機嫌が悪い様に見える。悪いと言っても、誰かに当たり散らかすわけでもなければ、仕事が雑になっているわけでもないので、気にしなくても良いのかもしれないが、友人として気になってしまう。

 

「シノちゃん、最近機嫌悪くない?」

 

「そうか? 自分ではそんなつもりは無いんだが……」

 

「長くシノちゃんを見てきた私が言うんだから、間違いないと思うんだけど」

 

「そんなに表に出ていたか?」

 

「うーん……付き合いの短い人なら気付かないくらいかな。タカトシ君やスズちゃんは気付いてるだろうけども、クラスメイトとかは気付いてないと思う」

 

 

 本当に些細な違いなので、気付いていない人の方が圧倒的に多いだろう。もし分かり易く機嫌が悪かったら、畑さんが特集でも組んでそうだし。

 

「実はちょっと悩みがあってな……それでイライラしてるように見えたのかもしれない」

 

「悩み?」

 

「あぁ。だが役員全員に気付かれてるならちょうどいい。放課後、生徒会室で相談しても良いか?」

 

「もちろん!」

 

 

 タカトシ君やスズちゃんだってシノちゃんの悩み解決に力を貸してくれるだろうし、シノちゃんが自分から相談したいというくらいだからかなりの悩みなんだろう。その解決に力を貸すのは、友人として当然だと私は意気込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさか役員全員に気付かれていたなんて思っていなかったので、私は内心恥ずかしい思いをしていた。だが私一人では解決策を見出せなかったので、相談できるようになったのはありがたい。

 

「それでシノちゃん、いったい何で悩んでいたの?」

 

「聞いていいのか分からなかったので聞かなかったのですが、会長は最近イラついてましたよね」

 

「そんなにか?」

 

「些細なことですが、付き合いが長い我々は誤魔化せませんよ。ねっ、タカトシ」

 

「何故そこで俺に振るんだ?」

 

「だって、アンタが一番最初に気付いたじゃない」

 

 

 タカトシに最初に気付かれたと知り、私は少し恥ずかしい思いをした。まさかタカトシが私のことをじっくり見てくれていたなんて……

 

「書類の文字が何時もより乱れていたり、シノ会長にしては珍しく誤字があったりと、集中力散漫になってるなとは言ったが、何か悩んでるんじゃないかなんて言ってないぞ?」

 

「普通は体調が悪いんじゃないかって気にするけど、アンタは『機嫌が悪いんじゃないか』って言ってたでしょう? その時点で何か悩みがあるって分かってたんじゃないの?」

 

「さて、どうだったかな」

 

 

 タカトシははぐらかすように答え、視線を私に向けてきた。急に目を見られると恥ずかしいんだが、ここで逸らすわけにもいかない。

 

「それで、ここ最近会長が悩んでいることってなんです? 今のままでも仕事に影響は少ないので介入しないでおこうとは思っていましたが、このままではシノさんの精神衛生上よろしくないでしょうし」

 

「おぉ……」

 

「? どうかしました」

 

 

 学校で「シノさん」と呼ばれたことに感動していると、タカトシが不審がってきた。まぁこの感動はタカトシには分からないだろうな……だって、アリアと萩村には睨まれてるし。

 

「何でもないぞ」

 

「そうですか」

 

「それでシノちゃん、悩みって?」

 

「実はな……最近放課後にバッティングセンターに行ってるんだ」

 

「バッティングセンター……ですか?」

 

「OLとかの間でも流行ってるんだってね~」

 

「ストレス発散に良いって聞いてな」

 

「会長、ストレスが溜まってたんですか?」

 

「ちょっとな」

 

 

 前までなら自分で発散していたのだが、あまりやり過ぎると生徒会室にメス臭が充満して、タカトシに怒られそうだったから別の方法を探したのだ。もちろん、これは三人には言えない理由だが。

 

「それと最近イライラしてたのと、どんな関係があるの?」

 

「ボールが速すぎて打てないんだ……やっぱり140キロは私には早かったか……」

 

「分かってるのなら、もう少しゆっくりしたマシンを選べばいいじゃないですか」

 

「スカッとしたいのに、負けた気分になったらスカッとできないだろ?」

 

「ただの負けず嫌いじゃないですか……」

 

 

 タカトシに呆れられてしまったが、萩村は分かってくれたようだ。できないからと言ってランクを下げるのは、何だか負けた気になってスッキリしないのだ。

 

「そういえばタカトシ、アンタ偶にバッティングセンターに行ってるとか言ってなかった?」

 

「昔な。最近はバイトとかコトミの相手とか、家事とか誰かさんたちへの説教とかで時間がないから行ってないけど」

 

「あぁ、あの人ね……」

 

 

 タカトシが濁した相手が誰なのか、ここにいる全員はちゃんと理解している。本来タカトシが怒らなくても良い相手なのだが、タカトシしか大人しくさせることができないので任せきりになっているから。

 

「せっかくだしこの後みんなで行く?」

 

「だがアリア、寄り道は校則違反だ。なので、一度帰宅してからバッティングセンターに集合だ!」

 

「一度帰宅するのなら、自宅でできるストレス発散方法を見つけた方が良いのでは?」

 

「兎に角、一時間後にバッティングセンターに集合だからな! 遅れたら全員にジュースを奢ること!」

 

 

 半ば強引に話を終わらせ、私たちは生徒会室を出て帰宅するのだった。……あれ? 私たち、生徒会の仕事したっけ?




打てて130かな……

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