桜才学園での生活   作:猫林13世

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歴然ですけどね……


兄妹の差

 お義姉ちゃんから晩御飯何が良いか聞かれて、私は肉じゃがと答えた。別にそれ程食べたかったわけではなのだが、タカ兄に「何でも良いは答えになっていない」と昔から怒られていたので、とりあえず思い浮かんだ料理を答えたのだ。

 

「コトミ、さっきから何をブツブツ言ってるんだ?」

 

「トッキー、どうかしたの?」

 

「お前が道場の端でブツブツ言ってるから、一年が不気味がってるんだよ。遂に壊れたのかって」

 

「遂にって何さ!? というか、何でトッキーが聞きに来てるの?」

 

「私ならお前にビビらないからだとよ」

 

 

 まぁ、他の一年生と比べればトッキーと仲が良いのは確かだし、トッキーなら私に後れを取らないというのも分からなくはないけども――

 

「私、壊れそうだって思われてたの?」

 

 

――気になったのはそこだ。

 

「前々からポンコツだって思われてるからな……兄貴に手伝ってもらってるって、いい加減バレてるだろうし」

 

「最近は自力でやってる部分もあるよ!」

 

「胸を張って言うセリフじゃねぇだろ」

 

「まぁ……」

 

 

 私の家事スキルとタカ兄の家事スキルを比べるなんて、比べるだけ無駄なことなのでしたこと無いが、誰がやったかなんて見ればすぐわかるくらいの差があるのだ。気付かれない方がおかしい。

 

「ほらそこ! 喋ってる暇があるなら練習しなきゃ!」

 

「主将は相変わらずだねぇ……」

 

「とりあえず、端でブツブツ言ってるのだけは止めろよ? 練習に身が入らないみたいだしな」

 

「分かったよ」

 

 

 トッキーに注意されたので、私なとりあえず道場の掃除を再開することに。それにしても、そんなにブツブツ言ってたのかなぁ……私としては何も言ってないつもりだったんだけども……

 

「おーいマネージャー!」

 

「なんですか?」

 

 

 主将から声を掛けられ、私はそっちに意識を向ける。

 

「さっきから何か考えてるみたいだけど、ちゃんと掃除できてる?」

 

「えっ、どうしてですか?」

 

「だって、道場がびしょびしょだよ?」

 

「えっ?」

 

 

 主将に言われて私は床を見て愕然した。ちゃんと掃除してたつもりだったけども、床をびしょびしょにしてただけだった。

 

「ゴメンなさい、ちゃんと掃除し直します」

 

「お願いねー」

 

 

 主将に言われて私は慌てて掃除をし直す。考え事をしながら掃除なんて、私のスキルではできなかったようだ。

 

「(タカ兄やお義姉ちゃんならこれくらい楽勝なんだろうけども、私レベルでは無理だったか……)」

 

 

 綺麗にしてたはずの道場を汚していたと気付き、私は絶望しながら綺麗に道場を掃除し直したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 義姉さんにコトミの世話をお願いしていたお陰で、俺はバイトに集中できた。今日は元々俺は休みだったはずなのだが、新人の指導を店長に頼まれて急遽出勤したのだ。

 

「――という感じだけど、わかった?」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

 後輩に指導していると、何故か熱のこもった視線を向けられるのだが、そんなことを考えてる暇があるなら、レジ操作をしっかりとマスターしてもらいたいものだ。

 

「はぁ……」

 

 

 とりあえず一通りの説明を終え、忙しい時間帯を越えたので新人を一人にして俺は裏で一息吐く。

 

「お疲れ様。やっぱり津田君に頼んで正解だったかな」

 

「こう言うのはもう少し上の人がやるものじゃないですか?」

 

「いやいや、津田君なら問題なくできるって思ってたし、あんまり上の人だと恐縮して何も覚えられないだろうし」

 

「そう言うものですか?」

 

 

 店長の言っていることは分からなくはないが、あの子って確か入って既に二週間くらい経ってるはずだ。今更俺に回ってきたということは、他の人では成果が出なくて、俺に押し付けようって考えたのではないかと邪推してしまう。

 

「魚見君が言っていたけど、君の妹さんは結構な問題児みたいだから、津田君なら彼女でも指導できるんじゃないかって」

 

「義姉さんが……」

 

 

 どうやらコトミの問題児っぷりはここにまで影響を与えていたらしい。まぁ、アイツの勉強の為にテスト前に俺と義姉さんが揃って休むということも度々あるので、知られていても不思議ではないのだが。

 

「そういうわけで、もう少し頑張ってね」

 

「分かってますよ……それでも、付きっ切りでは成長しませんので、もう少し裏で見てますけど」

 

「それでいいよ。津田君ならサボってゲームとか無いだろうし」

 

「なんですか、それ?」

 

「どうやら仕事をサボって裏で遊んでる子がいるらしいんだよね。見つけ次第指導するつもりだから、津田君も見付けたら報告よろしく」

 

「分かりました」

 

 

 給料をもらっているのにサボってゲームとは、随分と労働を嘗めている人もいるものだな……まぁ、バイトだし、そこまで重く考えてないのかもしれないけど……

 

「津田せんぱーい! これってどうすればいいんですか」

 

「ん?」

 

 

 少し考え事をしていたのだが、後輩に呼ばれて表に出る。どうやらレシートが詰まってしまったらしく少し泣きそうな顔をしているが、これくらいは説明を受けているはずなんだがな……

 

「(言葉で説明されるより目で見て覚えるタイプなんだと思っておこう……)」

 

 

 これ以上問題児を抱え込みたくないので、俺は自分の中でそう考えて詰まりを直す。それで理解してくれたかは分からないが、とりあえずは直せるようになったという風に思っておこう。そうしないと、平穏が遠ざかっていく気がするから……




タカトシの平穏は何処に……

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