桜才学園での生活   作:猫林13世

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作り手側の悩み


会長の悩み

 青葉さんと二人で生徒会室に行くと、会長が腕を組んで悩んでいた。いったい何を考えているんだろうかと気になりはしたが、私では会長の助けにはならないと思いスルーしたのだが、後からやってきた森先輩が会長に声を掛けた。

 

「会長。何か悩み事があるなら相談してください。会長のお手伝いをするのも、副会長の務めですので」

 

「でも、サクラっちにはあまり関係のない悩みだし」

 

「どんなことでも構いませんよ」

 

 

 さすが森先輩。私では言えないようなことをあっさりと言ってのけるとは……さすがは津田先輩と仲が良いだけあるっすね。

 

「それじゃあ相談しても良い?」

 

「はい、もちろんです」

 

 

 会長が甘えても良いかと確認し、森先輩はそれを受け止める。確かにここにいる三人の中で、誰に相談したいかと聞かれれば森先輩を選ぶだろう。間違っても私に相談したいとは思わないだろうな。

 

「コトちゃんの晩御飯、何が良いと思う?」

 

「お母さん的な悩み?」

 

「タカ君がバイトで、ちょっと遅くなるからコトちゃんの晩御飯だけを頼まれたんだけど、何を作れば良いかなって思って」

 

「津田家のメニューなら、私より会長の方が詳しいと思うんですけど」

 

「そうなんだけど、コトちゃんって基本的に何でも食べるから、何を作っても同じ反応なんだよね……だから、少し奇を衒ったものでも作ろうかなって思ったんだけど、そんなことしてタカ君の耳に入ったら怒られるかなとも思って……」

 

「普通で良いんじゃないっすか?」

 

 

 深刻な悩みではないと分かったので、私も会話に参加することに。作ってもらう立場から言わせてもらえれば、作ってもらえるだけで十分ありがたいのでそんなことしか言えないのだが。

 

「その普通が難しいんだよね……ほら、コトちゃんの基準はタカ君なわけだし」

 

「確かに会長もお料理上手ですけど、タカトシ君と比べられてしまうのは……」

 

「七条家お抱えのシェフと一緒に作業しても邪魔にならない程の腕だしね……私はせいぜい家庭レベルだし」

 

「津田先輩って、そんな料理上手なんすね」

 

「クリスマスパーティーの時にタカ君が作った料理もあったでしょう? ユウちゃんだって食べてたじゃない」

 

「うーん……どれも美味しかったから分からないっすね」

 

 

 あんな高級料理滅多に食べられないので、私はしこたま料理を平らげた。だがあの中に津田先輩が作ったものが混ざっていたなんて、全く気付かなかったな……

 

「津田先輩って、料理人にでもなるつもりなんすか?」

 

「タカ君は『家事の延長』としか言わないだろうけどもね」

 

「それでプロレベルって、あの人本当に何者っすか?」

 

 

 頭が良い、運動神経も良い、見た目も良い、文才もあるときてさらに料理上手。これだけハイスペックな男子、他には思いつかないっすね……そりゃ会長や森先輩が惚れるわけっすよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局会長の献立に関する悩みは、コトミさんに何を食べたいか聞くことで決着した。

 

「コトミさん、何でもいいって言うかと思いましたけど、意外とちゃんと答えてくれましたね」

 

「タカ君に怒られてるからじゃないかな。何でもいいが一番困るって」

 

「確かに、作り手側としたらその答えが一番困るんでしょうね」

 

 

 私は誰かに料理を振る舞う程の腕は無いのでそういう経験はないが、普段から作っているタカトシ君からすれば、何でもいいは困るんだろうな。

 

「そういえば、この前のクリスマスパーティーの時の写真ができたよ」

 

「会長と桜才の会長、津田先輩の側に居すぎじゃないっすか?」

 

「私は義姉弟だから問題ないんだけど、シノっちが嫉妬してべったりだったからね」

 

「これ、何処に飾りましょう?」

 

 

 青葉さんが写真を飾ったコルクボードを持って会長に尋ねる。

 

「この辺りで良いんじゃないかな? ここなら目立つし」

 

「分かりました」

 

 

 会長が指示した場所にコルクボードを飾って、私はじっくりと観察する。

 

「やけるなぁ……」

 

「えっ妬ける? サクラっちも嫉妬ですか?」

 

「いえ、この位置だと日が当たって写真が焼けちゃいます。もう少しこっちにしましょう」

 

「あっ、そういうこと……」

 

 

 何を勘違いしてるんだと思いながら、私はコルクボードを移動させる。そもそも会長とタカトシ君の仲が良いのは知ってることですし、今更嫉妬することでもないと思うんですけどね。

 

「そういえば、会長と津田先輩ってホントにただの義姉弟なんすか? 一年の間で会長と桜才の人が付き合ってるって噂が流れてるんすけど」

 

「私の方では森先輩が付き合ってるって噂が流れてますね」

 

「どうしてそんな噂が流れてるのか不思議なんだけど……」

 

「私はタカ君とお買い物とかに行きますし、サクラっちはこの間のデートを見られたんじゃないですか?」

 

「あれってデートじゃないと思うんですけど……」

 

 

 タカトシ君にお返しを買ってもらった時に誰かに見られてたんだろうけども、そもそもあの場面を見てればデートだって勘違いしないと思うんだけどな……お返しを買ってもらった後、私はタカトシ君に勉強を見てもらってたわけだし。

 

「まぁ、事情を知らない人が見たら、サクラっちが一番彼女っぽいでしょうけどもね」

 

「会長は彼女を通り越して奥さんみたいなことしてますしね」

 

「えっ、私がタカ君の奥さん?」

 

 

 そこまでは言ってないのだが、会長はタカトシ君との新婚生活でも夢想したのか、だらしなく頬を緩ませていたのだった。




彼女と奥さんがいるって……

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