桜才学園での生活   作:猫林13世

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優秀過ぎる副会長


裏で動く副会長

 見回りをしていたら一年生女子に声を掛けられた。それ自体は珍しいことではないのだが、真剣な相談事を持って来られるのは稀なので少し驚いた。

 

「私たち、ヨガ部を作りたいんです!」

 

「新規部活要請は生徒会室で行ってもらいたいんだけど」

 

「いえ、いろいろと相談したくて」

 

「何故会長じゃなくて俺に?」

 

 

 部活申請の相談なら会長である天草先輩にするのが手っ取り早いと思うのだが、何故かこの子たちは俺に相談を持ってきた。

 

「津田さんのお兄さんなら、話しかけやすいと思って」

 

「あー、コトミのクラスメイト?」

 

「はい」

 

 

 どうやらコトミのことを知っていて、それで俺に相談を持ってきたらしい。まぁ、後輩を怯えさせる趣味も無いので、俺は相談に乗る事にした。

 

「それで、部設立に必要な人数は揃っているのかな?」

 

「まだ三人だけでして……」

 

「正式に設立させるには最低五人必要だから、後二人集めないと部としては認められないね。同好会としてなら活動できるけど」

 

 

 以前柔道部設立や、ロボット研究会などからも相談を受けていたので、こういった対応には慣れている。もちろん、一人で対応していたわけではないのだが、これくらいなら俺一人でもできる。

 

「それから部として発足するからには顧問も必要になってくる。その目星は付いているの?」

 

「横島先生に声を掛けてあります」

 

「あの人に?」

 

 

 何故あの先生なのかと首を傾げたら、後輩の一人が自信満々に理由を教えてくれた。

 

「あの先生は毎晩家でヨガをしているって聞いたので」

 

「横島先生が、ヨガをね……」

 

 

 恐らくこの子が聞いた話の本質は全く別のものなのだろうと思いつつ、俺も良く分からないので訂正はしないでおこう。だがまぁ、別の人を推薦しておいた方が良いだろう。

 

「あの人は既に生徒会顧問をやってるからね。まだ部活の顧問をしていない先生にお願いしてみたらどうだ? 確か、小山先生はまだ部活の顧問をやってなかった気がするし」

 

「そうなんですか? じゃあ、横島先生に断られたらそうしてみます」

 

「そもそも、何故ヨガ部を? ヨガなら教室があるからそこで体験することもできると思うんだけど。もちろん、お金がかかるから気軽にはできないのかもしれないけど」

 

「そうなんですよ! 私たち高校生には敷居が高いというか何と言うか……だから部活として体験したいと思ったんです」

 

「なる程ね」

 

 

 動機はどうあれ、部を作りたいという気持ちは本物のようだ。ヨガなら特殊な備品もそこまで必要ないし、空き教室の机を片付ければそこでも活動できるだろう。俺は他に問題になりそうなことが無いかを探し、とりあえず申請だけなら問題ないだろうと結論付ける。

 

「とりあえず話は分かった。設立に必要な条件はさっき言った通りだから、最低後二人見つけておくこと。集まらなかったら同好会という形になるだろうけども、活動自体はできると思うから。それから顧問については、こっちから小山先生にも声を掛けておくから」

 

「ありがとうございます!」

 

 

 後輩たちに感謝されてしまったが、それ程のことをしたつもりは無い。とりあえず横島先生にこの子たちの指導は無理だろうと判断した俺は、職員室に気配がある小山先生にこの話を持っていくことにした。

 

「――というわけなのですが、小山先生、お願い出来ませんか?」

 

「私もそれ程ヨガに詳しいわけじゃないんだけど」

 

「ですが、純粋に横島先生を信じているあの子たちを、あの薄汚れた大人に指導させるのは避けるべきだと思います」

 

「それは確かに……」

 

 

 小山先生の中でも横島先生のイメージが悪いと言うのは分かっていたので、俺はそこから攻めることにした。

 

「それにヨガの知識が無いのはあの人も同じでしょうし、加えてあの人は既に生徒会の顧問を担当しています。俺個人の気持ちで良いなら、小山先生を生徒会顧問にしてあの人をヨガ部の顧問にしても良いのですけど、後輩たちにあの人を押し付けるわけにもいきませんし」

 

「確かに、横島先生を制御できる生徒は津田君だけだもんね」

 

「甚だ不本意ではありますけどね」

 

 

 心底嫌そうな顔をしていたのだろう。俺の表情を見て小山先生が同情的な視線を向けてきた。

 

「そう言うことなら、少しヨガの勉強をしておこうかな。もし話が来た時、全くの無知じゃ困るし」

 

「一応必要な備品のリストは作っておきました。特別な工事が必要なものは兎も角、ヨガマットなどはホームセンターでも手に入りますし、それ程高額ではないので部費申請も下りると思います」

 

「相変わらず仕事が早いわね……」

 

「同好会としてなら、すぐにでも活動できるでしょうしね」

 

 

 既に三人は部員がいるのだから、活動する分には問題ない。なので必要な備品は調べておいたのだが、小山先生はそこに驚いていた。

 

「それじゃあ、お願いします」

 

「分かったわ。無垢な一年生を横島先生に任せられないし」

 

 

 この人が立派な先生で本当に良かった……もしこの人も横島先生並にダメ教師だったら、この学校は駄目になっていただろうな……

 そして翌日――

 

「ヨガ同好会顧問の小山です」

 

「アレー? 私は?」

 

「あっ、副会長権限で却下です」

 

 

――やる気満々だった横島先生を宥め、小山先生がヨガ同好会の顧問に正式に就任した。申請自体も滞りなく進み、危険も少ないと判断され簡単に許可が下りたのだった。

 

「津田先輩、ありがとうございました!」

 

「「ありがとうございました!」」

 

「生徒会として動いただけだ。それじゃあ、頑張ってね」

 

「「「はい!」」」

 

「このジゴロが……」

 

 

 スズが何か酷いことを言ってきたが、とりあえず聞こえないふりをしておこう。




普通に却下されると分かりそうなんだけどな……

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