桜才学園での生活   作:猫林13世

696 / 871
まぁタカトシですし


信頼度の高さ

 七条先輩に誘われて、オープン前のアトラクション施設で遊んだ私たちは、タカトシのバイト先に遊びに行くことに。もちろん、冷やかしではなくお客として。

 

「アリアは分かるが、出島さんも行くんですか?」

 

「私もタカトシ様にお客様としてもてなされたいですし」

 

「もてなすと言っても、タカトシのバイト先はファストフード店ですよ? 執事喫茶ではないので、出島さんが考えているようなことは起こらないと思います」

 

「無論です。ですが、タカトシ様にもてなされる経験をしてみたいと思うのは仕方が無いことなのですから」

 

「確かにな……普段見下されてる場面が多いから」

 

 

 心の中でタカトシに同情しながら、この人を止めるのは私には不可能だと判断して、四人でタカトシのバイト先に向かう。近くの駐車場で車を降りたので、今は徒歩で移動しているのだが、出島さんの歩幅が私たちより広いのか、どんどん先に行ってしまう。

 

「出島さーん、少し早くない?」

 

「そうでしょうか? 私は普段通り歩いてるつもりなのですが……皆様が遅いのでは?」

 

「そうなのか? 無意識に萩村の歩幅に合わせているのかもしれないな」

 

「タカトシ君がそうやってスズちゃんの歩幅に合わせてるから、私たちも自然にそういう風にする感じになっちゃってるのかもね~」

 

「何かすみません……」

 

 

 確かに普段から私の歩幅に合わせて歩いているタカトシにつられるように天草会長と七条先輩も歩幅を合わせてくれる場面が増えてきているのは自覚している。それを普段行動を共にしない出島さんに求めるのは酷ということなのだろう……

 

「確かに萩村様の歩幅は狭いですからね。気付けずに申し訳ありませんでした」

 

「いえ、私も普段から気を使ってもらっているということを再認識できましたので」

 

 

 これが当たり前だと思っていてはいけないと分かっていたはずなのだが、出島さんと行動を共にするまで思い出さなかったなんて……私も、随分と甘えていたのだなぁと自覚するいい機会ができた。

 

「これを機会に私も歩幅を広くする特訓をしようと思います」

 

「スズちゃんはそのままでも良いと思うけどね~。タカトシ君だって意識してスズちゃんに合わせてるわけじゃないんだしさ」

 

「自然にされているから当たり前だって思いたくないんです」

 

「まぁ、萩村がそれでいいなら私たちは止めないがな。だが、無理だけはするなよ?」

 

「分かってます」

 

 

 こうして歩幅改善の特訓をすることになったのだが、これって私の背が低いからこういうことになってるのよね……歩幅改善より身長を伸ばす努力をした方が良いんじゃないのかしら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 店に近づいてくる知り合いの気配に、俺は首を傾げた。あの三人はまだ分かるが、何故あの人まで一緒に来るのかが分からなかったのだ。

 

「どうかしたの?」

 

「いや、店に来る気配の中に知り合いがいるから……」

 

「いても良いんじゃない?」

 

「そうなんだが、あの人だけは理由が分からないんだよな……」

 

 

 比較的にお客が少ない時間帯だったので、サクラと裏で作業をしているのだが、あの四人は俺が対応しないとだめだろうなと思い、この場をサクラに任せて表に顔を出す。ちょうどそのタイミングで四人が入店してきた。

 

「いらっしゃいませ」

 

「おっ、今は暇な時間だったのか」

 

「……とりあえず話しかけてくるのは止めてください。一応仕事中ですから」

 

「タカトシ様、私はこれを」

 

「かしこまりました」

 

 

 三人のペースなどお構いなしに注文してくる出島さんに対応して、視線で三人にも注文を尋ねる。視線の意味を理解した三人がすぐにメニューを見て同様に注文を済ませ、四人席へ移動していった。

 

「普通に食事をしに来ただけか……」

 

「津田君、あのお客さんたちと知り合いなのかい?」

 

「まぁ……学校の先輩二人と同級生一人、後は先輩の家で働いているメイドさんです」

 

「メイド? 本当にそんな職種があるんだねぇ……」

 

「まぁ、あの人は凄いお金持ちですから」

 

 

 普段の言動なんか見ていると忘れがちだが、七条グループと言うのは日本でも有数の大企業なのだ。その本家で働いている出島さんは、考え方によっては凄い人なのだが、あの人もあの人で言動がひどすぎるからなぁ……

 

「まぁ、ウチとしては御客様が一人でも増えてくれるなら、何処のお嬢様でも構わないんだけどね」

 

「店長、そう言うのは心の中にしまっておいてくださいよ……一バイトに過ぎない自分に言われても困るんですが」

 

「おっと、そうだね。だが津田君相手だと本音が出てしまうんだよ。それだけ、君が与える安心感が強いってことで」

 

「何だか良い感じにまとめようとしていますが、収支計算の手伝いはもうしませんからね?」

 

「あはは……分かっているさ」

 

 

 以前手伝わされたのだが、あれはどう考えても俺の仕事ではない。その後報告書作成まで手伝わされそうになったので、今後このようなことがあれば本社に報告させてもらうと釘を刺しておいた。さすがにそれはマズいと理解したのか、店長も俺に仕事を振ることは減ってきているのだが……

 

「相変わらず、凄い信頼のされ方だよね、タカトシ君は」

 

「嬉しくないのはなんでなんだろうな……」

 

「何でだろうね?」

 

 

 サクラに同情されながら、俺は四人が待つ席に注文の品を届けることにした。すぐにその場を離れれば大丈夫だろうし、そろそろ忙しい時間帯に突入するからな。個別対応してる暇は無くなるし、それは四人も分かってくれるだろうし。




高校生バイトに収支計算の手伝いをさせるなよ……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。