今年のお正月は何処かに出かけることもなく、珍しく両親も帰ってきていたので家で過ごした。親戚の子なんかも来て遊んでったけども、結局忙しそうにしていたのはタカ兄一人だけで、大人たちは昼からお酒、私は親戚の子たちと遊びたおしたのだ。
「やっと静かな日が戻ってきた……」
「タカ兄、まだ年明けてそんなに経ってないのに、凄く疲れた顔してるよ?」
「何時もはお前の相手だけしてればいいからまだマシだってことを思い知らされた気分だ」
お母さんもお父さんも、殆ど家では仕事をしなかったので、料理などはタカ兄が用意していた。お母さんは最低限「手伝おうか?」と尋ねていたけども、今この家のキッチンはタカ兄の領域なので、お母さんが手伝ってもあまり役に立てなかっただろう。タカ兄も断っていたことを考えると、恐らくそんな感じだ。
「今日くらいはゆっくりさせてくれ……」
「そんなタカ兄に悪い報せがあるんだけど……」
「何だ?」
タカ兄の目が鋭くなったのを受けて、私は一歩引きながらさっき届いたメッセージをタカ兄に見せることに。
「……シノさんたちがパリィを連れて家に来るのか」
「どうしてタカ兄にメッセージを送らなかったのか分からないけど、そういうことです。ちなみに、私はこの後トッキーとマキと遊びに行くので」
「小遣いはあげないからな」
「それも分かってます……」
親や親戚からお年玉をもらったばかりなので、懐はそこまで寒くない。まぁ、タカ兄は全額返していたけども、私はまだそこまでの境地に達していないのでありがたく使わせてもらおう。
「くれぐれも無駄遣いしないように」
「心得ていますって。タカ兄、ますますお兄ちゃんって言うよりお母さんみたいになってるよ」
「お前がしっかりしてれば、俺だってこんな感じにはなってなかっただろうよ」
「それは…そうかもしれませんね……」
自分がタカ兄に迷惑を掛けている自覚があるので、私は視線を逸らしながら自分の部屋に逃げ込み、出かける準備を済ませてそそくさと家を出ることにした。
駅に向かう途中でひときわ目立つ集団が見えたので、一応声を掛けておく事にした。
「会長、先輩方、あけましておめでとうございます」
「コトミか。どこかに行くのか?」
「はい。トッキーとマキと遊びに行くんです」
「つまり、今家にはタカトシ君一人?」
「珍しく疲れてますけど、皆さんが来ることは伝えてありますので」
「疲れてる? タカトシが?」
スズ先輩が珍しいとでも言いたげな表情で首を傾げたので、私はここ数日のことを話してあげた。
「――というわけです」
「何だか悪いタイミングだったかもな」
「でも、ここまで来たらタカトシの家で遊びたい」
「パリィちゃんのそういう所は凄いと思うな~」
「タカ兄も皆さんが来ることを拒否はしていなかったので、多分大丈夫だと思いますよ」
私の根拠のない言葉に、スズ先輩だけが顔を顰めたけども、シノ会長やアリア先輩、パリィ先輩は遊びに行くことで頭がいっぱいの様で反応はしなかった。まぁ、タカ兄ならこの四人を相手にしても倒れることは無いだろうし、さすがに暴走もしないだろうから……
コトミが言っていたように、タカトシは何処か疲れている感じだったが、パリィが興味を示したおもちゃの説明をして、今はキッチンに引っ込んでいる。
「うりゃ!」
「うわぁ!?」
会長は相変わらず負けず嫌いが発動しているようで、初めてのパリィ相手に容赦なく羽根つきで無双している。
「落としたから罰ゲームだな!」
「うぅ……シノに汚された」
「スズちゃん」
「何ですか?」
私の隣で見学していた七条先輩が、何か楽しそうな顔で私に耳打ちをしてきた。
「今のパリィちゃんのセリフ、とってもエロくなかった?」
「そんな風に聞こえる七条先輩の耳がエロいんだと思いますよ」
私一人では七条先輩の相手をするので手一杯なので、さっきから会長やパリィが暴走しても放置している。もちろん、何かを壊すような暴走ではないからだ。
「次はこれだ!」
「福笑い?」
「これ、どうやって遊ぶの?」
パリィに福笑いの遊び方を説明し、早速挑戦してもらうことに。これは下手なら下手なほど笑えるので、初めてのパリィならきっと面白い結果になるだろうと思っていたのだが――
「できた!」
「おぉ! 見事なア〇顔!!」
「これは芸術ね!」
――無駄に上手い分、何も言えなくなってしまった。
「何を騒いでるんですか、全く……」
キッチンから何かを持ってきたタカトシが、騒いでいる三人に呆れている視線を向け、何故か七条先輩はクネクネと動き出した。
「それは?」
「あぁ、寒そうだったから甘酒をね。洗濯物とか片付けてくるから、三人のことは任せたよ、スズ」
「えっ、ちょっと!」
そそくさとこの場を離れるタカトシの背に手を伸ばすが、私では届かない。別に私の手が短いからではなく、タカトシの動きが早いからだ。そうに違いない。
「これ美味しい」
「さすがはタカトシだな!」
「何時でもお嫁においでって感じだよね」
「おいおい、タカトシは嫁じゃなくて婿だろ?」
「七条グループの総帥になれる器だと思うんだけどな~」
「それは絶対に許さん!」
本人がいないので絶好調な二人を無視して、私はタカトシが用意してくれた甘酒を飲む。本当に、見ていない様でちゃんと見てるところはお母さんっぽいのよね……彼、男なんだけど……
何処に行っても活躍できるだろうなぁ