朝目が覚めたら枕元にプレゼントが置いてあったので、私はてっきり七条家の人が寝静まってから配ったのだろうと思っていた。だが天草さんや七条さんがチラチラとタカトシ君のことを見ているのが気になる。
「まさかタカトシ君があんな時間に部屋を訪ねてくるなんてね~」
「遂に目覚めたのかとドキドキしたが、寝たふりもあっさりバレてしまったしな……普通にプレゼントを置いていかれた」
「私は少しお話したけどね~。お陰でぐっすり寝られたけど」
「ちょっと待ってください! このプレゼントってタカトシ君が配ってたんですか!?」
「何だ五十嵐、知らなかったのか?」
「普通に寝てましたし、タカトシ君が配ってるなんて思いませんよ……」
まさかタカトシ君に夜遅く女子の部屋を訪ねる趣味が――なんて勘違いはしないけども、寝顔を見られたと思うと少し恥ずかしい……まぁ、そのタカトシ君は今、ぎっくり腰で動けない出島さんの代わりに働いているのだけども。
「お待たせしました」
「ゴメンね~タカトシ君。お給料はちゃんと出すから」
「気にしなくて良いですよ。元々何もしないでいるのが落ち着かなかったのでこれくらいは」
「でも出島さんの代わりに夜の配達から朝の配膳までやらせちゃって」
「夜の配達って、何だかイヤラシイですよね~」
「お前は貰ったプレゼントを没収されたいのか?」
「はい、黙ります!」
コトミさんが余計なことを言ったのを一睨みで黙らせ、タカトシ君は黙々と配膳を済ませ厨房へ下がっていってしまう。
「やっぱりタカ君は働き者ですね。お義姉ちゃん、嬉しくて泣きそうです」
「そういえばカナ! お前タカトシの部屋に忍び込んだんだってな!」
「はい、そうですけど?」
全く悪びれた様子の無い魚見さんに、天草さんが語気を強めて迫る。
「我々の間にある同盟規約を知らないわけじゃあるまい? お前は抜け駆けをし過ぎなんだ」
「私は別に同盟に参加しているわけじゃありません。それはあくまでも桜才学園生徒会の中の同盟ですよね? 私はそもそも桜才の生徒ではありませんし、タカ君のお義姉ちゃんとして部屋を訪ねたまで。それともシノっちは、私がタカ君に夜這いを掛けようとしたと? 万が一そう考えていたとしても、タカ君に返り討ちにされた挙句に部屋に連れ戻されてベッドに縛り付けられ朝まで放置されるのがオチです」
「それは……あり得そうだな」
さすがにそこまではしないとは思うけども、私も天草さんにおおむね同意する。タカトシ君が部屋に忍び込まれたことに気付かないわけ無いし、大人しく魚見さんにやられるはずもない。
「そもそも私の事を抜け駆けしていると責める前に、もっと抜け駆けしてる人がいると思うんですけど?」
「誰だ?」
「サクラっち!」
「は、はい?」
急に指差されて、森さんが少し驚いた顔で魚見さんに返事をする。彼女はそれ程抜け駆けしているようには見えないが、タカトシ君との距離が圧倒的に近いのは彼女だ。抜け駆けしているように思えても不思議ではない。
「お義姉ちゃんは誤魔化せませんからね? 貴女、後日タカ君とお出かけする約束をしているでしょう」
「え、えぇ……タカトシ君にプレゼントを渡したら、用意してないから今度一緒に選びに行こうって言われましたけど」
「なん…だと……」
「まさか本当に個人的なプレゼントを用意していたとは……」
「あ、あれ? だって会長が用意しても良いって言っていたので、全員分用意しているんですけど……」
そう言って森さんは、私たちにもプレゼントを手渡し始めました。
「そう言うことでしたか。お義姉ちゃん、勘違いしちゃったみたいです」
「だが待て! タカトシとお出かけする事実は変わりないんだぞ!? 勘違いで済ませて良いのか?」
「タカ君とお買い物くらい、私だって経験済みです。シノっちたちだってあるんじゃないですか?」
「それはそうだが……だがあくまでも生徒会としてだ! 個人的にお出かけなど……」
「それなりにしてるよね~」
「というか会長。タカ兄がサクラ先輩とお出かけしたからって、デートみたいな感じになるとは思えませんけど~?」
「それは……そうだが……だがアイツらは無自覚カップルの空気を醸し出すから、見ている方はモヤモヤするだろ!?」
天草さんの発言に、魚見さんが呆れた目で天草さんを見詰めます。今の発言のどこかに呆れる箇所なんてあったかしら?
「シノっち……まさかとは思いますが、二人のお出かけの尾行するつもりですか? タカ君に気付かれて怒られるのがオチですから、大人しくしてた方が良いですよ?」
「そもそもサクラちゃんがここにいるのに尾行宣言なんて、タカトシ君に気付かれる前に終わってると思うけど~?」
「というか、さすがに尾行なんて見過ごせませんよ」
「な、何だよ寄ってたかって……キス経験者だからって」
「私はしてませんけどね」
「カナは同棲ごっこしてるだろうが!」
天草さんに言われ、私と七条さんは少し照れ臭そうに自分の唇に触れる。自分でも分かっているのだが、こんなに分かり易く照れるなんて……
「兎に角シノっちは大人しくしててくださいね? タカ君の恋路を邪魔すのは私としても本意ではないですから」
「わ、わかった……」
タカトシ君にだって自由に恋愛する権利はある。それは私も分かっているのだが、天草さんの気持ちも分かってしまう。これって私が欲張りなのかな……
嫉妬する気持ちも分からなくはない