桜才学園での生活   作:猫林13世

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選んだ相手が相手ですから……


プレゼントの中身

 妙な時間に目が覚め、私は時計を確認する為に手を伸ばして携帯を見る。

 

「夜中の二時前……慣れない場所で緊張しているのかしら」

 

 

 七条家には何度かお泊りしたことがあるが、やはり慣れない。私が使っているベッドよりも明らかに高級な物だし、部屋だってここまで広くも無い。一般家庭とお金持ちの家を比べては駄目だと分かっているのだが、これが客間の一つだと言うのは未だに信じられない……

 

「そういえば七条家でクリスマスプレゼントを用意しているとか言ってたけど、さすがに部屋に入り込んで置いていくなんてことは無いわよね……」

 

 

 サンタを信じているなんて子供っぽいことは無いが、あの出島さんならそれくらいの演出はしそうだと思っている。だが枕元を見てもプレゼントなど置いていないので、朝食の席で配るのだろうと考え、もう一度寝ようとしたところで――

 

「(何か物音が聞こえたような……)」

 

 

――扉の外で音がした気がした。

 

『スズ、ちょっといいか?』

 

「タカトシ?」

 

 

 こんな時間にタカトシが私の部屋を訪ねてくるなんて……いったい何の用かと思い扉を開けるとそこにいたのは――

 

「トナカイの化け物っ!?」

 

「俺だって……」

 

 

――トナカイの着ぐるみを着たタカトシがいた。頭を外してくれたのでとりあえず冷静さを取り戻し、タカトシを部屋に招き入れる。

 

「それ、どうしたの」

 

「あぁ、実は――」

 

 

 ここに来るまでの経緯を説明してくれたタカトシに、私は同情的な視線を向ける。

 

「アンタも大変ね……」

 

「それっぽい恰好って言われてもな……」

 

 

 動きにくいし声は篭るしと、タカトシは七条先輩の案に文句を言いながらも突っぱねることはしなかったと説明してくれた。

 

「とりあえず、これは出島さんからのプレゼントだ」

 

「何が入っているのかしら?」

 

「さぁ? それは聞いてない。ただ色で渡す人は決まっているからとしか言われてない」

 

「この暗闇で良く色の識別ができるわね……普通なら真っ暗よ?」

 

「部屋の前で確認すればいいだけだろ。それで後はその位置からプレゼントを取って置けば良いだけだし」

 

「簡単に言ってるけど、結構大変だと思うわよ?」

 

 

 配置を覚えたからと言って、運んでる間にズレるかもしれないし、取る際に間違えるかもしれないのに、タカトシはその心配を一切していない様子。相変わらず私の常識の中にいない男よね。

 

「それじゃあ、俺はこれで」

 

「そう……ありがとう」

 

「どういたしまして、でいいのか? お礼は出島さんに言ってくれ」

 

 

 タカトシが部屋を出ていって、私は電気を消してもう一度寝ようとして――

 

『ヴィィィィィィ』

 

「なんてもんプレゼントしてるんだ、あの人はー!」

 

 

――箱が振動し始めたので中身を察知し、部屋で寝ているであろう出島さんに文句を大声て叫んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何か大声が聞こえたような気がして、私は目を覚ます。

 

「何かあったのかな……」

 

 

 時計を見たら夜中の一時過ぎ。こんな時間に大声が聞こえるなんて普通ならあり得ないと思いながらも、この家なら何かあってもおかしくは無いなと思ってしまう。

 

「私もそれだけ毒されてるってことか……」

 

 

 七条さんともそれなりに付き合いが長くなってきたので、七条家で何か行われても不思議ではないと思ってしまうくらい、私も考えがズレてきているということなのだろう。

 

「何か寝汗を掻いちゃった……着替えよう」

 

 

 パジャマの上を脱いだタイミングで扉がノックされ、私は特に考えずに扉を開けた。

 

「えっ?」

 

「……後ろを向いておくからさっさと服を着てくれ」

 

「ご、ゴメンなさい……」

 

 

 開けた先にはトナカイの格好をした――視界が悪くなるので頭は外した状態――のタカトシ君がいて、私の格好を見てすぐに回れ右をしてなるべく見ないで済ませてくれた。

 

「本当にごめんなさい」

 

「さすがに服を脱いだ状態だとは思ってなかった……というか、サクラがそんな恰好でいるわけ無いと思ってたから、深く探らなかった俺の失敗か……」

 

「ううん、自分の格好を考えずに扉を開けた私の失敗だよ……タカトシ君は悪くないって」

 

 

 いくら好意を寄せている相手とはいえ、恥ずかしい恰好を見せてしまったので何だか居心地が悪い。というか、何で気にせず開けちゃったんだろう……

 

「と、ところでタカトシ君はこんな時間にそんな恰好でどうしたの?」

 

「あぁ、出島さんの代役」

 

 

 そう言って事情を説明しながらタカトシ君はプレゼントを取り出して渡してくれた。

 

「ありがとうございます」

 

「さっきスズにも言ったが、お礼は出島さんに言ってくれ。別に俺からってわけじゃないんだし」

 

「それもそうだね。あっ、これ私からタカトシ君にって」

 

「俺に?」

 

 

 私は鞄から取り出したプレゼントをタカトシ君に手渡す。会長が言っていた「個人的なプレゼント」なのだが、皆さんの前で渡す勇気がなかったのでしまっていたのだ。

 

「ありがとう。今度お返しを用意しないとな」

 

「別にいいって」

 

「貰いっぱなしじゃ落ち着かないんだ。今度一緒に出掛けて何が欲しいか選んでくれ」

 

「う、うん……それじゃあ、今度ね」

 

 

 しれっとデートに誘われたが、タカトシ君は深く意識していないし、私も気にし過ぎないようにしないと……




また無自覚ラブコメ臭が……

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