桜才学園での生活   作:猫林13世

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本当にちょっとしたです


ちょっとした贅沢

 部屋の熱気に嫌気がさしたのか、タカトシ君が屋敷の外へ出ていったのを見て、私は後を追う。こっそりついて行こうとしても気付かれるので、ここは敢えて堂々と追い掛けたのだ。

 

「アリアさん、どうかしました?」

 

「タカトシ君の方こそどうしたの? パーティ、楽しくない?」

 

「いえ、適度に楽しませてもらいました。ただあの連中のように考えなしで盛り上がれはしないですね」

 

 

 部屋の中で大盛り上がりの四人のことを言っているのだろうと、考えるまでも無く理解出来た。

 

「お友達なんだから、そんなこと気にしなくていいのに~」

 

「いえ、少しくらいは気にしておかないと。これが当たり前だと思ってしまうのはいけません」

 

「タカトシ君は真面目だな~。タカトシ君なら、今すぐにでも当たり前にできるのに」

 

 

 私がどういう意図でそのセリフを言ったのか、理解できないタカトシ君ではない。彼は少し真面目な表情になり、そしてため息を吐いた。

 

「アリアさんだけではなく、他の皆さんの気持ちはありがたいと思っています。ですが、まだ答えを出すことはできません」

 

「分かってるよ。タカトシ君はとりあえずでお付き合いを始めるような人じゃないもんね。もしそんな人だったら今頃、畑さんのゴシップ記事の餌食になってるだろうし」

 

「そんなにできた人間ではないですが」

 

「そんなこと無いと思うよ。少なくとも私たちの中では、タカトシ君が一番人間ができてるって。横島先生を含めてもね」

 

「あの人と比べられてもうれしくは無いですね」

 

 

 タカトシ君と横島先生、どちらが生徒会顧問として相応しいかと問われれば、タカトシ君と答えるだろう。彼はまだ学生なのに、教師である横島先生よりも信頼できる。これは私だけではなくシノちゃんやスズちゃんだってそう答えるだろう。もしかしたら、横島先生もそうかもしれない。

 

「とりあえず中に戻ろうよ。そろそろ寒くなってきたし」

 

「……そうですね。俺に付き合わせてアリアさんが風邪をひいたなんてことになったら、出島さんに何を言われるか分かりませんし」

 

「そんな酷いことは言わないと思うよ? 精々責任取って完治まで看病しろくらい?」

 

「むしろあの人が付きっ切りで看病しそうですけどね」

 

「ありえそうだね~」

 

 

 出島さんのことだから、私のお世話をすることで興奮するなんてことがあるかもしれない。あの人は本当に私のことが大好きだから。

 

「それじゃあ、パーティの続きを楽しもう」

 

「適度に付き合いますよ」

 

 

 タカトシ君に手を伸ばし、彼がその手を取ってくれる。ただそれだけのことなのだが、こんなにも嬉しいのは私が本気でタカトシ君のことを想っているからなんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 散々盛り上がった結果、最終的にカラオケでの点数対決に発展し、シノっちが優勝した。私もカラオケには自信があったんだけども、シノっちには敵わないか……

 

「クッ、まさかこの私が敗れるとは……」

 

「残念だったな、コトミ。今回は私が勝者だ」

 

「楽しかったっすね」

 

「ユウちゃんは何でも全力で楽しむんだね」

 

「当然っすよ。楽しめる時に楽しんでおかないと、何時補習になるか分からないっすから」

 

「その気持ちは分からないけど、楽しめる時に楽しむのは賛成」

 

 

 いつの間にか部屋からいなくなっているタカ君の事を思い、私はユウちゃんの考えに賛同する。タカ君がいてくれるから私たちが全力で楽しめてるということは分かっているのだが、タカ君ももう少し頭のねじを緩めて盛り上がっても良いと思う。

 

「それでは勝者から敗者へ命令だ」

 

「な、何をさせる気です?」

 

「ここにコーラがある。これを一気飲みしろ!」

 

「それくらいなら――」

 

「そしてゲップをせずに寿限無を言い切れ!」

 

「そもそも寿限無が分かりません!」

 

 

 シノっちとコトちゃんの遣り取りを微笑まし気に眺めていると、タカ君とアリアっちが手を繋いで部屋に戻ってきた。

 

「アリアっち、抜け駆けは許さないよ?」

 

「これはただのエスコートだよ~。それに、カナちゃんだって結構抜け駆けしてるんじゃない? タカトシ君と同じ屋根の下で生活してるようなものなんだし」

 

「それを言われると辛いですね」

 

 

 確かにタカ君とスキンシップする機会は私が一番多いのかもしれない。料理を一緒にして味見をお願いしたり、ちょっと高い場所にあるものをタカ君に取ってもらい、その際にちょっとタカ君の胸板の感触を楽しんだりと、言われれば抜け駆けとも思えることをしているんですね、私は。

 

「それじゃあ、俺はこれで」

 

 

 私とアリアっちが言い争っている隙に、タカ君はアリアっちから手を離して部屋の隅へ移動してしまう。もう少しタカ君の側に居たかったアリアっちは、少し残念そうに手を見詰めていた。

 

「今アリアっちと手を繋げば、間接的にタカ君と手を繋いだことに!?」

 

「カナちゃんはそんなことをしなくてもタカトシ君と手を繋げるチャンスはあるんじゃないの~?」

 

「まぁ、そうなんですけどね」

 

「それにしても、タカトシ君の気持ちを手に入れるのは難しそうだね~」

 

「何を話していたのです?」

 

「えー内緒」

 

 

 アリアっちが可愛らしくウインクして見せたので、私は強く踏み込めなくなってしまった。同性でもこれだけ見惚れるのだから、タカ君以外の男性が視たらどうなっていたことか……まぁ、アリアっちがタカ君以外の男性にウインクをするとは思えないけども。




コトミはダメだな…

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