桜才学園での生活   作:猫林13世

685 / 871
気の休まる日は来るのか?


気苦労の多さ

 パーティーの時間が近づき、続々と七条家へと人が集まり始める。本当なら何か持ち寄った方が良いのだろうが、出島さんが頑なに受け取ろうとしなかったので結局誰も何も持ってきていない。

 

「本当に良いのだろうか……」

 

「タカトシ君は気にし過ぎだって。私たちが招いているんだから、これくらい準備するのは当たり前だよ」

 

「七条家での当たり前を受け容れるのにちょっと時間が掛かりそうですが」

 

 

 目の前に用意されているものをみて「当たり前」の一言で済ませるのは少し無理がある。多少手伝ったとはいえ、材料費などは完全に七条家持ちなのだから、俺以外にも恐縮している人間が――

 

「さすがは七条家だな!」

 

「これがタダで食べられるなんて夢みたいですー!」

 

「コトちゃんが参加できてるのはタカ君が勉強を教えてくれたお陰なんだから、ちゃんと感謝するんだよ」

 

「それは私もっすね。津田先輩がいなかったらどうなってたことか」

 

 

――特に気にしてる人が見当たらないのは俺の錯覚だろうか。というか、会費出しただろ、コトミよ…

 

「タカトシ君の方が正しいと思いますけどね」

 

「付き合いが長いから麻痺してるけど、やっぱり普通だって思っちゃダメよね……」

 

「気にするなと言われても無理ですよね……」

 

「サクラちゃんもスズちゃんもカエデちゃんも気にし過ぎだって」

 

「こっちが普通だと思うんですが」

 

 

 アリアさんにとっては当たり前なのかもしれないが、それを俺たちにも当たり前だと思えは無理があると思う。あちら側の人たちは特に気にしていないが、この料理にどれだけのお金が掛けられているかを考えると、コトミのようにバカ食いはできない。

 

「タカトシ様はお手伝いいただいたから気にしているだけではありませんか?」

 

「手伝ってなかったとしても、食材を見ればどれくらいかは分かりますよ」

 

「さすがは主夫の鑑」

 

「主夫ではないんですが」

 

 

 突如現れた出島さんにツッコミを入れながら、俺はシノさんがクラッカーを構えたまま固まっているのに気付いた。

 

「まったく、あの人は……」

 

 

 お祭り好きなのに変なところでビビりだから、クラッカーの音が怖いのだろう。俺はそっと背後に立って彼女の耳を塞いだ。それで安心できたのか、シノさんは盛大にクラッカーを鳴らし、さらに騒ぎ出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シノ会長とお義姉ちゃん、そしてユウちゃんと盛り上がった私は、部屋の隅で疲れた表情を浮かべているタカ兄に声を掛ける。

 

「タカ兄、せっかくのクリスマスパーティーなのに、どうしてそんな顔をしてるの?」

 

「お前たちが暴走しそうになるたびに止めてるからに決まってるだろ。さすがに騒ぎすぎだろ」

 

「そんなこと気にしなくても良いんじゃない? だって七条家だよ、ここ。防音対策くらいバッチリしてあるだろうし、そもそも近隣住民のことを気にするほどご近所さんいないし」

 

 

 敷地が相当な広さだから、ご近所迷惑を考える必要なんて無いと思うんだけど、やっぱりタカ兄には主夫根性が染み付いてしまっているから気になっちゃうのだろう。

 

「それにせっかくのパーティーなんだから、盛り上がらなきゃ損じゃない」

 

「損も何も、一円も払ってないんだから関係ないだろ」

 

「お金の問題じゃないよ、タカ兄。せっかくの騒げる機会に騒がないともったいないって言ってるんだよ。ただでさえ私にはこの後宿題という地獄が待っているんだから……」

 

 

 クリスマスパーティーには参加できているが、宿題のことを考えると憂鬱になる。あの量を私一人で片づけろと言われたって無理だから、結局タカ兄やお義姉ちゃんに頼ることになり、その代償として何をさせられるか分からないのだ。こんな時まで周りのことを気にして騒げないなんて御免だ。

 

「おいコトミ! 次はお前の番だぞ」

 

「ここでコトちゃんの出た目によっては順位が入れ替わりますね」

 

「いい加減ビリから脱出したいっす」

 

「ふっふっふ、私には出目を操る力があるのだよ!」

 

 

 ノリがいい三人と遊んでいるので、ついつい私も力を解放してしまう。そんな私の姿を見て、タカ兄が盛大にため息を吐いたのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タカトシ君のフォローをしてあげたいけど、あの騒ぎに巻き込まれたくないので、私たちは少し離れた場所で雑談をしている。

 

「結局タカトシ君頼りなんですよね」

 

「仕方ないよ。タカトシ君しかあの面子を纏めて相手にできる人がいないんだもの」

 

「私も相手にしたくないですね。誰か一人でも大変そうなのに、四人纏めてなんて」

 

 

 あの中に七条さんがいないのがせめてもの救いかもしれない。彼女は今、青葉さんと何かの話題で盛り上がっている。あそこに出島さんもいるので、恐らく知らなくても良い話題なのだろう。

 

「そういえば畑さんがこのパーティーに潜入できないかって模索してたんですけど、さすがにいませんよね」

 

「七条家のセキュリティを潜り抜けて盗撮するとは思えませんよ」

 

「そもそも、忍び込んだらタカトシの気配察知の網にかかって警備室に突き出されるのがオチですって」

 

「それもそうだね」

 

 

 七条家のセキュリティシステムよりタカトシ君の気配察知能力の方が上だという萩村さんの言葉に、私も森さんも特に疑問を抱かなかった。普通ならおかしいと思うはずなんだけど、タカトシ君ならそれくらいできて当然だと思ってしまうのよね……




タカトシセキュリティの信頼の高さ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。