最近めっきり寒くなってきているので、私は何か新しい防寒具が無いかを調べていた。
「いろいろとあるけども、どれも私の予算では難しい……」
今月も既に新作ゲームなどでお小遣いを使い切っている私では、新しいものを買うのは無理だ。かといってお義姉ちゃんに無心してもらうのも難しい……
「タカ兄にバレて、散々怒られたばっかりだしな……」
お義姉ちゃんが何とか宥めてくれたお陰であの程度で済んだけども、あのタカ兄の様子からして、本来なら後二時間はお説教が続いていたに違いない。それくらいタカ兄は怒っていたのだから。
「それ程お金がかからなくて、なおかつ温かいものは無いだろうか……」
そんな都合の良いものがあるわけ無いと私だって分かっている。だがこのままでは風邪をひいてますます授業について行けなくなってしまうかもしれないのだ。
「私もアルバイトとかしてお金を稼げばいいのかもしれないけど……勉強の時間が減れば、それだけこの家に留まれる確率も下がってしまうし、勉強以外の時間を削るとなると、もう部活しか……」
ゲームなど遊んでる時間を削ればいいのかもしれないが、それがない人生などありえない。それくらい私とゲームは切っても切り離せない関係なのだと思い知った。
「うーん……っ! これは!?」
いろいろと検索してるうちに、私は一つの記事に目を奪われた。
「これだったらお義姉ちゃんに習いながらできるかもしれない……問題は材料費か」
必要な物に掛かる金額を調べ、今の私でもギリギリ準備出来ると分かり、私は本当にこれでいいのか考える。
「(防寒具ならタカ兄に必要経費として認めてもらえるかもしれない。そうなれば自腹を切る必要もないし、そもそも新しい服とかのお金はタカ兄に出してもらえるのだから、これも出してもらえる? いや、この前のお義姉ちゃんお小遣い事件の所為で、今のタカ兄にお金の話をするのは避けたい状況……さすがに必要経費として認めてもらえない可能性の方が高いか……)」
ただでさえムダ金を使っているように思われているのだから、これ以上私にお小遣いを出すのはタカ兄にとって嫌なことだろうと、私でも分かる。それに本当に必要だと思ってもらえたとしても、お小遣いで買えるだろと言われてしまえばそれまでだ。防寒具は、洋服とかと違い無くても生活できるのだから。
「(そうなるとやっぱり手作りするしかない……問題は、私にできるかどうか)」
柔道部のマネージャーをやり始めて、多少は手芸の腕も上がってきていると思うが、それはせいぜい破れた道着を繕うとかその程度だ、一から物を作るなんてやったことが無い。
「今晩お義姉ちゃんに相談してみよう……」
ここでタカ兄に相談しないのは、これ以上私のことでタカ兄の時間を奪いたくないという気持ちが少しあったのと、まだタカ兄に頼るのが怖いからという半々だった。
バイトのタカ君の代わりにコトちゃんのお世話をしていたら、何やら神妙な面持ちでコトちゃんが近づいてくる。
「どうしたの? さすがに追加のお小遣いは渡せないよ?」
私がコトちゃんにお小遣いを渡していたことがタカ君にバレ、コトちゃんはこっ酷く怒られたばかり。次は私も怒られるかもしれないということで、暫くはコトちゃんにお小遣いは渡せないと言ってあるので、さすがにお金の無心ではないとは思うが、一応釘を刺しておく。
「分かってます。今日はお義姉ちゃんにお願いしたいことがありまして」
「お願い?」
「お願いというか、教えて欲しいことがありまして」
「教えて欲しいこと? スリーサイズなら教えてあげられないからね」
もう少しウエストが細ければ自慢できるが、今の数字ではコトちゃんの方が凄いかもしれない。私の冗談とも本気ともとれる発言に、コトちゃんは苦笑いを浮かべながら頭を振った。
「お義姉ちゃんに手芸を教えてもらいたいんです」
「手芸? 何か作るの?」
「これなんですけど……」
コトちゃんが見せてきたのは、耳あての作り方。何故この様なものを作ろうとしているのか聞くと、コトちゃんは少しバツが悪そうな表情を浮かべて説明してくれた。
「――というわけなんです」
「なる程ね。確かにそれ程高いモノじゃないから、お小遣いで買えと言われる可能性はある……だったら手作りして出費を減らそうと」
「それに、この形は市販じゃないですからね」
「でもこの形って暖かいのかしら?」
「一応は防寒具としての効果もありますし、せっかく作るのなら好きな形にしたいですし」
「なる程ね……確かにこれくらいなら難しくなさそうだし、コトちゃんにも作れそうね」
以前のコトちゃんなら絶対に無理だったかもしれないが、柔道部マネージャーとして経験値を積んできている今のコトちゃんなら、これくらいはできるだろう。私はそう考えた。
「それじゃあ明日の放課後にでも、必要な材料を買いに行きましょうか」
「お願いします」
「分かってるとは思うけど、材料費はコトちゃんのお財布から出すんだからね?」
「そ、それくらいのお金はありますから……」
視線が泳いだように見えたのは、恐らく私が少し出してくれるかもしれないという期待があったからなのかもしれないわね。でも、タカ君に怒られたくないから、今回は心を鬼にしてコトちゃんを突き離さないとね。
珍しくコトミオンリー……ウオミーいたけど