コトミの小テストの結果が揮わなかったので、生徒会を代表して私が津田家でコトミの勉強を見ることになったのだが――
「いらっしゃい、シノっち」
「何故お前がいるんだ」
――玄関で私を出迎えたのはカナだった。
「お義姉ちゃん、ただいまー」
「お帰り、コトちゃん」
「タカ兄は?」
「タカ君なら調味料とか重たい物を買いに行ったよ。本当なら私が買いに行くつもりだったんだけど」
「そうだったんですね~」
「それで、シノっちは何しに来たの?」
「まずお前の家じゃないだろ、ここは……」
あたかも自宅のような雰囲気を醸し出しているカナに、一応のツッコミを入れてから、私は今日ここに来た目的を告げる。
「コトミの小テストの結果が酷かったみたいでな。タカトシが教えると言っていたのだが、今日は生徒会作業も無かったので、私が代わりを申し出たのだ」
「生徒会メンバー全員で来ようとしてませんでした?」
「別に全員で相手をしても良かったんだが、大勢で押しかけても迷惑だろうから、こうして私が代表でやってきたんだ」
アリアや萩村とのじゃんけんの結果、私が代表になったのだ。決して会長権限で私が押しかけて来たわけではないぞ。
「コトちゃん、あれだけ私とタカ君とで勉強を教えてるのに、どうして突発的な小テストでは結果が出ないの?」
「緊張感の違いですかね……定期試験で良くない結果だった場合、問答無用で家から追い出される可能性がありますので、かなりの緊張感をもって試験に挑めますが、小テストとかはそこまで緊張感を持てなくて……いや、悪い点を採っていいとは思っていないのですが、いかんせん地力がないもので……」
タカトシやカナが相当鍛えているので、地力もそれなりに上がっているとは思うのだが、やはりコトミはコトミということか……
「そう言うことですので、シノ会長」
「ん?」
「今日の小テストの復習に付き合ってくださり、ありがとうございます」
「お礼は終わってからでいい。というか、何時までも玄関で喋ってたら勉強の時間が無くなるぞ」
「そうでした……」
カナが私を部屋に案内し、コトミは部屋着に着替える為に一度自室へ。私はコトミの部屋でも問題ないのだが、あの部屋には漫画やポータブルゲームなど、コトミを誘惑するものが多くあるので、客間で勉強することにしたようだ。
コトちゃんとシノっちが客間で勉強を初めてしばらくたった頃、タカ君がスーパーから帰ってきた。
「お帰り、タカ君」
「ただいま戻りました。シノさんが来てくれたようですね」
「タカ君は知ってたんじゃないの?」
まるでシノっちが来るのを知らなかったような反応に、私は首を傾げる。
「生徒会の誰かが来てくれると言うのは知っていましたが、誰が来るのかまでは知りませんでした。シノさん以外にも、アリアさんやスズも来たがっていたので」
「なる程」
「別にそこまでコトミの事を心配する必要は無いと思うんですけど」
「タカ君、わかってないフリは良いから」
「はぁ」
三人の目的がコトちゃんの成績ではなく、タカ君の生活空間にやって来ることだということは、私が言うまでも無くタカ君も分かっているだろう。だが不純な動機だろうが何だろうが、コトちゃんに勉強を教えてくれると言うのだから、タカ君も深くはツッコまなかったのだろうな。
「それにしても、コトちゃんはどうして毎回毎回小テストで失敗するのかしら」
「定期試験のように前日に俺たちで詰め込んでいるわけじゃないので、どうしても結果が出ないのではないかと。もちろん、一度教えているはずなのですから、知識として身に付いていないということなのでしょうけども」
「コトちゃんの場合、一度くらいじゃ覚えられないもんね」
「余計なことはすぐ覚えるんですけどね」
兄を通り越して親のような反応をしているタカ君を見て、タカ君には悪いけども私は笑ってしまった。
「何かおかしなこと、言いました?」
「ううん、タカ君も保護者が板についてるなって思ったら」
「はぁ……御覧の通り、両親不在ですから」
「お義母さんたちは帰ってこないの?」
「いろいろと忙しいみたいですからね。年末年始くらいは帰ってきたいとこの前電話で言っていましたが、恐らく無理でしょう」
「それじゃあ、また私たちと一緒に年越しパーティーでもしようか」
「別に構いませんよ。コトミが補習にでもなってない限りは、ですけど」
「さすがにコトちゃんだって定期試験の時くらいは大丈夫だって」
何の根拠も無いけども、コトちゃんのバランス感覚は相当なものだと思う。赤点すれすれだった時からだが、今では平均すれすれまで成績を伸ばしているのだから、万が一にも赤点補習ということは無いだろう。
「そういえば、英稜の生徒会一年生は大丈夫なんですか?」
「青葉っちは兎も角、ユウちゃんはちょっと心配かな……でもまぁ、ムツミちゃんみたいに部活補正があるだろうし、補習にはならないと思うよ」
「それに頼りっきりなのは問題だと思いますが」
「そうだね……」
ユウちゃんにはテスト前に勉強を教えた方がよさそうだと、私は後でサクラっちと相談しようと心に決めたのだった。
ここのタカトシは自分で編めるでしょうし