ホームシック気味なパリィの為にハロウィンパーティーを開催することになったのだが、この学校は意外とノリがいい人が多いので、急遽決まった割にはかなりの盛り上がりを見せている。
「パリィ、楽しんでる?」
「うん。シノたちが準備してくれたお陰で、かなり楽しいよ」
先ほどからコスプレしている生徒たちとすれ違っては、パリィは妖怪の名前を言っている。日本の妖怪だったりするのだが、意外と詳しいのよね……
「あれは一つ目小僧だ」
「詳しいわね」
「日本に来るにあたって、いろいろと調べてきたからね~。何時本物と出会っても良い様に」
「そ、そんな機会は無いと思うわよ」
そもそも妖怪なんているわけ無いんだから、期待するだけ無駄だと思うのよね……
「スズ、何だか震えてない?」
「震えて無い!」
決して怖がってるわけではない。ただちょっと寒くなってきたなと思っただけで、ちょっと身震いしたかもしれないが、妖怪の話が怖いからとかではない。
「おっ、あれはカメラ小僧」
「私も一眼ですぞ」
「………」
広報も兼ねて許可はしているのだが、あの人がコスプレしている人を撮影していると、違う目的があるのではないかと思ってしまう……もちろん、裏で販売などしようとすればタカトシにバレて大目玉を喰らうことになるだろうから、さすがの畑さんも自重すると思うが。
「それにしても、さすがは生徒会ですな。この規模のイベントをすぐに開催できるのですから」
「今回は有志を募った結果ですので、必ずしも生徒会の力というわけではありませんよ。それに、生徒会長が率先して楽しんでいますし」
視線の先ではサキュバスのコスプレをした会長が、ノリノリで廊下を歩いている。その隣にはジャックオーランタンに扮したタカトシが少し疲れ気味に付き添っている。
「ところで、どうしていきなりハロウィンパーティー? 前以て準備してる感じじゃなかったけど」
「パリィちゃん、最近元気が無かったから、皆心配してたんだよ~」
「七条先輩」
所用で別行動していた七条先輩が加わり、パリィの質問に答える。この人も本当ならコスプレしようとしていたが、出島さんが用意してくれた衣装があまりにも過激だった為、会長と二人掛かりで断念してもらったのだ。
「(まったく……学校のイベントだと言っておいたのに)」
おそらく出島さんの趣味だったのだろうが、あんなにも肌を露出するようなコスプレは、風紀的に引っ掛かる……決して胸が強調されて私たちが惨めな思いをするとか、そう言った理由で断念してもらったわけではない。
「カエデ的には問題ないの?」
「あまり行き過ぎた行動でなければ、今回は問題ありません」
「そっか……じゃあこのイベントは――」
「そうっ! パリィに元気を与えたくてな!!」
「相手の元気を奪うコスプレだけどねー」
「天草さん。ノリノリなのは良いですが、あまり羽目を外し過ぎないでくださいね」
「分かっているさ! まぁ、以前の五十嵐のように、男子生徒の一部分を元気にするようなコスプレではないがな」
「いつの話をしてるんですか!」
以前行ったハロウィンパーティーの際、五十嵐さんのコスプレは男子生徒の大多数を興奮させた。本人は無自覚でコーラス部で用意した衣装だからという感じだったのだが、見ようによってはなかなか刺激的な恰好だったのだ。
「その恰好、見てみたかったなー」
「し、しませんからね」
「以前の写真データが新聞部のPCにありますので、後でお見せしますぞ?」
「やったー!」
畑さんの申し出にパリィが大喜びになったのは良いが、五十嵐さんが何処か恥ずかしそうになった。コスプレしている最中は兎も角、後で見られるのは恥ずかしいのかしら。
「それにしても、こうやってみんなに楽しめるっていいね」
「何言ってるんだ! ハロウィンパーティーはまだまだこれからだぞ!」
既に満足気味なパリィとは違い、天草会長はまだまだ楽しむ様子。さっきから黙っているタカトシが、被り物の中で苦笑いを浮かべているのが目に浮かぶわね……
出島さんに用意してもらった衣装を着ながら、私は校内を練り歩いていた。本当は会長の衣装を着ようと思ったのだが、胸の部分が少しきつかったので変えてもらったのだ。
「コトミのそれは、猫又?」
「ケモミミっ娘です! 可愛いですか?」
「それって七条先輩に用意されていたのと似てるわね」
「そうだね~。でも私の衣装には、胸の部分にスリットが入ってたから」
「絶対わざとですよね、あれ……」
「おそらくどこかから写真を撮ろうとしていたんだと思いますよ~。あの人は畑先輩以上の隠密力がありますからね~」
それでもタカ兄からは逃げられない様で、以前出島さんが潜んでいるのをタカ兄が見つけたことがある。本当に、我が兄ながら凄い能力の持ち主だよな~。
「というわけでスズ先輩、お菓子ください」
「そこはちゃんとセリフを言いなさいよ」
「えー、だってお菓子貰ってもイタズラしたいですし」
「アンタは最低限のルールを守れよな!」
「痛っ!? でも気持ちいい……」
スズ先輩に脛を蹴られ、私は悶絶しながらも快感を覚えていたのだった。
コトミは仕方ないなぁ……