パリィにサプライズを仕掛ける為に、まずはハロウィンのお菓子を作るべく料理部主催のお菓子作りに参加しているのだが、ボケばかりで私の負担が半端無さそう……
「スズちゃんも参加してたんだね~」
「ムツミ」
「私もいるよ」
「ネネ」
ムツミはそれ程ボケることもないから良いが、ネネは確信ボケをしてくるから油断ならない……
「ところでムツミのエプロン、可愛いね」
「かぼちゃコーデです」
急遽開かれたお菓子作り講座なのに、随分と用意周到と言うか何と言うか……まぁ、持っていても不思議ではないからツッコまないけど。
「私もかぼちゃコーデ意識してるんだけど、わかる?」
「うん、かぼちゃパンツはみ出てる」
相変わらずのボケ具合に早くも疲れてきたけども、ここにタカトシを呼ぶわけにはいかない……
「(ただでさえ料理部の特別部員として入部して欲しいという話があるというのに、この場にタカトシがいたらなし崩しに料理部に引き抜かれてしまいそうだし……)」
タカトシ自身は部活をやる時間が無いと断っているのだが、名前だけでもと交渉しているらしいのだ。その方が新入部員獲得に有利だとか何とか……
「スズ先輩、これってどうやるんですか?」
「コトミはとりあえず後片付けだけしてくれればいいから、今は大人しくしててくれる?」
「それってちょっと失礼じゃないですか? 私だってやればできるんですから」
「だったらタカトシに頼んで、今日の晩御飯の用意はコトミちゃんがする?」
「大人しくしてまーす!」
分が悪いと理解したのか、コトミちゃんは大人しく引っ込んでいった。
「よーし! パウダーかけるぞー!」
「意気込むのは良いけど、落ちついてね」
「分かってるー」
パリィが意気揚々とパウダーを振るうと、案の定勢い良く舞い上がった。
「パリィ、顔に粉付いてるよ」
「アリャー」
少し恥ずかしそうにしながらも、何処か楽しそうなパリィ。さっきまでの寂しそうな表情は見る影もない。
「(これだけでも十分だったかもね)」
みんなでワイワイ作業するのも楽しいので、そのことで寂しさを埋めることは十分できる。だからサプライズが失敗したとしても、これはこれで良い思い出になりそうだ。
「って、七条先輩も太ももに白い粉が付いてますよ」
「あっ。さっき皆にパンツ見せつけて興奮した際に分泌されたラブジュースが乾いた跡だねー」
「だねー、じゃないっ!」
タカトシがいないから絶好調な七条先輩にお説教をしながら、私はここにタカトシがいないことを恨んだのだった。
スズ先輩に何もしなくて良いと言われたが、これだけ良い匂いが漂っていると何か手伝った方が良いかもと思ってしまう。例えば、味見とか……
「(良い匂い……)」
ふらふらと出来上がっているお菓子に近づきさらに匂いを嗅ぐ。
「(いやいや、つまみ食いは駄目だ!)」
ただでさえあまり戦力になっていないというのに、つまみ食いをして完成品の数を減らすのは避けたいだろう。
「(こうなったら息を止めて我慢! 匂い嗅いじゃダメ!)」
私が必死になって葛藤しているのに気付いたシノ会長が、笑顔で近づいてくる。
「コトミ、そんなに口を膨らませてー。つまみ食いは駄目だぞ」
「違いますよ! つまみ食いしないように息を止めてるんです」
「何故息止めを?」
「良い匂いを嗅いでお菓子を食べたくならないように……」
「もう少し、我慢を覚えろ?」
「努力してるんですけどね……」
こればっかりは一朝一夕で身に付けられるスキルではないので、私は終始良い匂いと戦いながら、しっかりと任された後片付けをこなしたのだった。
シノたちが誘ってくれたお菓子作りに参加したけども、物凄く楽しかった。
「上手にできたな」
「誘ってくれてありがとー。でも、こういうのならタカトシも参加すると思ってたけど」
「確かにタカトシ君は料理とかお菓子作りとか上手だけど、あそこに参加したら全部タカトシ君任せになっちゃいそうだったから、今回は誘わなかったんだよ」
「なる程~」
タカトシの料理の腕は私も知っている。ちょっとしたお店になら勝てそうなくらいの実力の持ち主だし、アリアが言ったことも一理ある。
「でも、タカトシがいた方がシノたちは嬉しかったんじゃないの~?」
「そ、そんなこと無いぞ」
シノやアリア、スズがタカトシに想いを寄せていることは私だって気付いている。というか、これだけ分かり易いのに、気付かない人がいないはずもない。
「あっ、タカトシの声」
偶々前を通った教室の中からタカトシの声が聞こえてきたので、私はお菓子をタカトシに上げようと扉を開く。
「オーイ、お菓子作ったよ~」
「あ」
私の背後でシノが声を上げたが、私は気にせず教室の中に入り――
「着替えバッタリイベントにそーぐーしちゃったー!」
「リアクションポイントそこか」
――男子たちが更衣室として使っていたことに気付き、慌てて目を手で覆う。
「会長たちも、何時までも見てないで出ていってください」
「す、すまない……」
どうやらタカトシの腹筋に見惚れていたシノたちだったが、タカトシに一喝されて私を引き摺りながら教室から出ていった。
引き締まったタカトシの身体に釘付け……