何やら七条先輩が余計なことをしていたようで、タカトシが私たちの背後でお説教をしている。
「(相変わらず大変な思いをしてるのね……)」
そもそも乗り気ではなかった捜索だろうに、こうして私たちの引率をしてくれてるんだから損な性格してるわよね……
「(って、私もあまり乗り気じゃないんだけどもね)」
会長がノリノリだから仕方なく付き合っているのだが、こうして捜索してみると本当にいるのではないかという気持ちになってくるのが不思議だ。
「(とはいえ……)」
さっきから裏庭を中心に探しているのだが、一向に現れる気配が無い。まぁ、気配なんて私には分からないんだけども。
「(暗い……せめて会長が持ってる懐中電灯も私が持てれば良いんだけども……)」
足下だけでなく前も照らしたいんだけども、一つしかないのでどうしても地面付近を照らしてしまうのだ。
「(べ、別に怖いとかじゃなく、五十嵐さんみたいに穴にハマってしまうかもしれないからであって、決して暗いのが嫌だというわけではないんだから)」
誰に言い訳してるのか分からないが、私はとりあえず自分自身を納得させるように心で言い訳をし、再びツチノコ捜索に集中することに。
『カサっ』
「っ!?」
背後で草を分ける音がして、私は咄嗟にそちらを振り返る。確認するのも怖いが、分からないままでいるのも怖いので、決死の覚悟で振り返ったのだが、そこには――
『ニャー』
「なんだ、猫……」
学園に再び野良猫が住み着いているようだと安心したのだが、私の背後で畑さんが余計なことを言いだした。
「ホラー映画だとこの後、元の方向に向いた瞬間目の前にアレがいて襲われるよね」
「………」
そ、そんな展開があるのか……普段ホラー映画なんて見ないから知らなかったけども、それじゃあ元の方向を向けないじゃないか……
「スズが固まってしまったじゃないですか。というか、所詮はフィクションの中でしょうが」
「いやー、面白い様に信じてくれるのでつい」
「貴様ー!」
子供扱いされたようなのと同時に、そんなことでビビってしまった自分が恥ずかしいのを誤魔化す為に、私は暗闇の中畑さんを追い掛けたのだった。
捜索前から分かっていたことだけども、やっぱりタカトシ君が大変そうだなと思いながらも、私は手伝えずにいる。
「(こんな時、英稜の森さんとかならタカトシ君のお手伝いができるんだろうな……)」
私もどちらかと言えばツッコミポジションだとは思うのだけども、タカトシ君や森さんのようなツッコミはできない。ましてや私は畑さんや七条さんにからかわれてしまうので、どうしても抑止力としては弱いのだ。
「ここが目撃情報の道場裏ですね。重点的に探しましょう」
畑さんが声を潜めて私たちにそう指示して、自身は集中して地面を捜索し始める。その横では天草さんたちも地面を必死に見詰めているので、私もとりあえず捜索することに。
「(本当にツチノコなんているのかしら……)ん?」
半信半疑に思いながら歩いていると、何かが私の足に絡まってきた。懐中電灯を当てずに下を見ると、何やら先の膨らんだ蛇のような形のモノが足下に……
「出たー!?」
私が大声を上げると、タカトシ君以外のメンバーが駆け寄ってきた。
「ん? 少し待った」
天草さんが持っていたトングで私の足下に転がっている何かを掴み上げる。
「これは……浣腸器」
「なーんだー」
とりあえずツチノコじゃなかったので安堵したけども、ふと何故その様なモノが転がっているのかという疑念が私の中に芽生えた。
「これが、ツチノコの正体……?」
「まーまー畑さん。こういうのはロマンを追い求めるモノだって言ってませんでした?」
「ですが、これじゃあ記事にならない……」
ガックリと項垂れる畑さんに、私は拾った浣腸器を持ちながら近づく。とりあえず風紀委員の方で預かっておくにしても、こんな所に転がしておくわけにもいかないし。
「コラ、夜に騒いじゃダメだって――」
そんなタイミングで小山先生がひょっこりと顔を出した。
「あわわわわわ」
「とりあえず話し合いませんか!?」
何やらあらぬ疑いを掛けられた気がして、私は慌てて小山先生に駆け寄る。
「ま、まさかそんな趣味があったなんて思いませんでした」
「違います! というか、学園にこんなものが転がってる方を問題視してくれませんかね!?」
私が持ち込んだと思われたくないので、小山先生にズイっと押し付けるように手渡す。
「……本当に五十嵐さんが畑さんに浣腸をする光景じゃなかったのね?」
「当たり前です!」
きっぱりと否定して、私は小山先生に処理を任せることにした。
「というか、あの投書はコトミのイタズラでしょうから、そもそも捜索自体無駄だったと思いますよ」
「何ッ!? じゃあ本当にツチノコなんていないと言うのか?」
「実際はどうか知りませんが、少なくともここにはいないと思いますよ。さっきから気配を探ってますが、普通の野生動物くらいしか気配がありませんし」
「相変わらず普通の人間と一線を画してるな、君は……」
タカトシ君の一言で、私たちのツチノコ捜索は幕を閉じた。
小山先生の勘違いもなかなかあり得ない……