桜才学園での生活   作:猫林13世

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勝てるわけがない


尾行の練習

 とある調査の為に気配を消す練習をしようと思うのだが、実際に気配を消すことなんてできないので、できるだけ気付かれずに後をつけてみようと思う。

 

「(まずは天草会長ですね)」

 

 

 都合よく――おっと、タイミングよく表れた天草会長の後をバレないように十分距離を取って歩く。

 

「畑、何か用か?」

 

「ちょっとした検証です。生徒会の皆さんはどのタイミングで尾行に気付くのかを確かめていました」

 

「いったい何の理由で?」

 

「全員確かめた後に発表します」

 

 

 何か言いたげな天草会長だったが、とりあえずは追及してくることは無くこの場は去ってくれた。

 

「(さて次は……)」

 

 

 ちょうど萩村さんの背中が見えたので、私は先程と同じ距離で萩村さんの後を付ける。

 

「何か用ですか?」

 

「いえ、特に何か用があるわけではなかったのですが、生徒会の皆さんがどのくらいの距離で尾行に気付くのか検証していまして」

 

「何故そのようなことをしているのか聞きたいところですが、他のみんなも調べるのでしょうから、後で説明をお願いします」

 

「もちろんです。全員が終わったら生徒会室に向かうつもりですので、気にせず作業をしていてください」

 

 

 萩村さんも納得してくれたようでとりあえずこの場での追及は避けてくれたので、次は津田君と七条さんのどちらかを――

 

「(あの胸は七条さん)」

 

 

 廊下の向こうで存在感のある胸が見えたので、二人と同じくらいまで近づいて後を付ける。

 

「(やはり二人と比べると気づくのに時間が掛かるようですね……)」

 

「? 畑さん、何か用かな~?」

 

「生徒会役員に対しての検証をしていまして、どのくらいの距離で尾行に気付くのかを調べています」

 

「そうなんだ~。それで、結果は?」

 

「今のところはこんな感じですかね」

 

「あらら、やっぱりスズちゃんはすぐに気付くんだね~」

 

 

 現在の結果は、萩村さんが三十メートル、天草さんが七十メートルで、七条さんが百メートルだ。

 

「さて、残るは津田君だけなのですが、今日は遭遇しないんですよね」

 

「タカトシ君なら、畑さんの後ろにいるよ~?」

 

「はい~?」

 

 

 七条さんに指摘され、ゆっくりと後ろを振り向くと、呆れ顔を浮かべている津田君がそこにいた。

 

「いったい何時から?」

 

「畑さんがシノ会長の後を尾行し始めたころから、ですかね」

 

「な、何だと……」

 

 

 つまり、皆さんを尾行していた私を尾行していたということなのか……この気配遮断の極意を教われば、私も尾行能力が上がるのだろうか……

 

「さて、それじゃあ生徒会室に行きましょうかね」

 

「そうだね~。畑さんも理由を話してくれるんだよね~?」

 

「そういう約束ですからね」

 

 

 津田君を尾行してから結果発表するつもりだったのだが、尾行する前に尾行されていたので結果はゼロメートル――ということになるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タカトシとアリアに連れられて畑が生徒会室にやってきた。恐らく例の検証結果を伝えに来てくれたのだろう。

 

「遅くなりました」

 

「それで、検証はできたのか?」

 

「はい、一応は」

 

 

 なんとも歯切れの悪い答えに私と萩村は首を傾げる。だが事情を知っているであろうアリアは畑の答えに納得している様子だ。

 

「本当は生徒会の皆さんを尾行するつもりだったのですが、津田副会長に尾行されていたことに気付けなかったのです。なので、津田副会長はゼロメートルという結果になってしまいました」

 

「なるほど……まぁ、タカトシならそれくらいできて当然だろう。それで、誰が一番鈍感だったんだ?」

 

「結果だけを見れば七条さんですかね。百メートルで漸く気付きました」

 

「会長は七十メートルだったんですね」

 

「萩村は三十メートルか……」

 

 

 気配には敏感なつもりだったのだが、やはり萩村もいろいろな意味で規格外だな。

 

「それで、何故こんなことをしていたんだ?」

 

「気配を消す練習をしています。それで、生徒会の皆さんにご協力していただいていたというわけです」

 

「私たちは協力するとは言っていないがな……それで、何故このようなことをしているんだ?」

 

「今回の取材対象が手強くてですね。気配を少しでも消して近づかなくては逃げられてしまうんです」

 

「今度は誰の取材だ? 取材するなとは言わないが、くれぐれも迷惑をかけるようなことはするなよな」

 

 

 ただでさえここ最近の畑の取材行動は目に余るものがある。一応釘を刺しておかなければ他の人に迷惑が掛かるかもしれないからな。

 

「大丈夫ですよ、人ではないので」

 

「どういうことだ?」

 

 

 人ではない取材相手ということは、動物でも追いかけるのだろうか? だが、その様なことで畑がここまで真剣になるだろうか。

 

「それで、いったい何の取材なんだ?」

 

「ツチノコです」

 

「人外?」

 

 

 また眉唾な話だが、畑がそこまで真剣になるということは、それなりに信憑性がある話なのだろうか。私も実際にツチノコがいるのならば見てみたいし、捕まえればそれなりの懸賞金が出るという話もある。もちろん、私はお金が目当てではなくロマンを追い求めたいだけなので、実際に捕まえても売りさばくつもりは無いがな。




害は無かったので放置されてました

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