桜才学園での生活   作:猫林13世

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勘違いも甚だしい


文学的な勘違い

 シノ会長の提案でお月見をするらしく、今日の我が家は桜才学園のメンバーでにぎわっている。

 

「せっかくならお義姉ちゃんも誘いましょうよ~」

 

「義姉さんは今日バイトだ」

 

「そうだっけ?」

 

 

 お団子の用意をしているタカ兄に提案したが、お義姉ちゃんの都合がつかないらしく断念。その話を会長にしたら、何故か喜んでいる感じに見えた。

 

「どうして喜んでるんですかー? 会長とお義姉ちゃん、仲良いですよね?」

 

「確かに仲は良いが、カナは頻繁にこの家を訪れているから、たまには私たちだけの日があっても良いと思ってな」

 

「そんなこといって、タカ兄とお義姉ちゃんの仲が良いのが気に入らないんじゃないんですか~? この間なんて、リビングで一緒にしてましたし」

 

「何だとっ!?」

 

「歯磨き」

 

「……なに?」

 

「だから、リビングでタカ兄とお義姉ちゃんが一緒に歯磨きをしていたんです」

 

「紛らわしい言い方をするなー!」

 

 

 絶対に勘違いするだろうなと思っていったので、この反応は狙った通りのもの。それでもちょっとすっきりしなかったのは、もう少し動揺してくれるかなーと期待していたからだろう。

 

「ところでコトミよ。そろそろ定期試験の準備を――」

 

「おっと、私はタカ兄の様子でも見てきますねー」

 

 

 確実に私が不利な話題を振られそうになったので、私はそそくさとキッチンへと逃げ込む。まぁ、私がやって来たところで戦力になるどころか邪魔にしかならないんだけども……

 

「タカ兄、何か手伝うことあるー?」

 

「ならこれを持っていってくれ」

 

「一個食べて良い?」

 

「それはお供え用だ。食べるのは後」

 

「ちぇー」

 

 

 美味しそうだから食べたかったんだけども、タカ兄に怒られてしまったのでとりあえず運ぶ。会長が睨みつけてきたけども、私がお団子を持っているのを見て、とりあえず落ち着いてくれたようだった。

 

「タカトシ君は?」

 

「皆さんが食べる用のお団子の用意をしていますよ~」

 

「そっか~」

 

「タカトシはいないが、お団子とススキも備えたので、先にお月見を始めよう」

 

「良いんですかね?」

 

「そもそもタカトシはあまり乗り気じゃない感じだったし」

 

「まぁタカ兄ですからね~」

 

 

 こういった行事にあまり関心がないので、場所の提供や食事の用意くらいしかしない人だし、タカ兄がゆっくり縁側でお茶を飲んでる姿を想像するとこう……

 

「いかに自分がダメ人間かを自覚してしまいそうです」

 

「「「?」」」

 

「なにが~?」

 

 

 私の呟きに皆さんが首を傾げる。私が思い浮かべた光景は、すっかり老け込んだタカ兄だったので、その原因は間違いなく私だと思ったから反省したなんて、言ったところで意味はないので黙っておこう。

 

「ところで、満月を見るとオオカミ男になる映画がありますよね。あれ怖かったなー」

 

「フィクションでしょ」

 

「分かりませんよー? お化けや幽霊みたいに、本当はいるけども会ったこと無いだけかもしれませんし」

 

「そ、そんなわけ無いでしょ。非科学的よ!」

 

「スズ先輩、怖いんですかー?」

 

 

 私がからかっていると、シノ会長が真面目な顔で私の意見を聞いて頷いていた。

 

「確かにコトミの言う通り、あり得ない話ではないのかもしれないな」

 

「ど、どういう意味ですか?」

 

 

 シノ会長の言葉はあっさりと否定できないのか、スズ先輩が恐る恐るという感じで会長に尋ねる。

 

「だってほら、男子は半ゲツを見るとオオカミになるらしいから」

 

「そりゃケモノじゃなくてケダモノだろうが!」

 

「スズちゃん、そのツッコミはどうなの~?」

 

 

 まさかアリア先輩がスズ先輩にツッコむとは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず準備も全部終わり、俺も合流したのだが、ただゆっくり月を眺めて何になるのだろうかとか考えてしまう……

 

「(風情もへったくれもない人間だな、俺は……)」

 

 

 畑さんから頼まれていたエッセイも終わっているし、コトミたちの定期試験用のテキストも八割がた完成しているので、ゆっくりしていても問題は無いのだが、どうにも落ち着かない。そんなことを考えていると、何故かシノさんとアリアさん、スズの表情が驚愕に染まっているのに気付いた。

 

「どうかしたのか?」

 

 

 事情を知っているであろうコトミに話しかけると、何やら面白そうな感じで口を開いた。

 

「タカ兄、月が綺麗だね」

 

「あぁ――ん?」

 

 

 そこで俺は、三人が固まっている理由に思い当たった。だが、普通に考えれば違うと分かりそうな気もするので、一応確認しておくことに。

 

「三人とも、もしかして夏目漱石を思い浮かべてません?」

 

「夏目漱石? タカ兄、何か関係があるの~?」

 

 

 やはりコトミは知らなかったようだが、三人は俺の言葉にカクカクと首を縦に動かした。

 

「やっぱり……どう考えても同性同士で使わないでしょう? そもそも、コトミが意味を知っているわけ無いと分からなかったんですか?」

 

「ねぇねぇタカトシ、どういう意味?」

 

 

 コトミは兎も角、パリィも意味を知らなかったようで、俺は説明することにした。

 

「事実かどうかは分からないが、夏目漱石は『I LOVE YOU』を『月が綺麗ですね』と訳したと言われているんだ。だから三人は、コトミが自分に告白してきたとでも思ったんじゃないのか?」

 

 

 視線を向けるとバツが悪そうに視線を逸らされたので、俺は三人が勘違いしていたと確信した。というか、そんな勘違いするなよな……




コトミが知ってるわけ無いだろ

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