クラスの女子たちが騒いでいた内容が気になったので、私は集団に近づいて何について話していたのかを聞くことにした。
「ねぇ、何で盛り上がってるの?」
「あっコトミ。貴女知らないの?」
「何を?」
校内の話題には精通している方だと自負しているが、どうやら何かあったらしい。これは徹底的に話を聞いて後れを取り戻さなければならないな。
「職員室近くの掲示板に、津田先輩のインタビュー記事が載ってる桜才新聞があるのよ」
「タカ兄の? あぁ、この間の土曜日に出かけてたのって、それだったのかな」
タカ兄に何処に行ったのかと聞いても、そんなことを気にしてる暇があるのなら英単語の一つでも覚えろとはぐらかされていたのだが、どうやら畑先輩にインタビューされていたようだ。
「でもそれだけで盛り上がるものなの? タカ兄のことなら、だいたい知ってると思うんだけど」
「それはあんたが妹だから――って、そうじゃなくて!」
「何さ?」
何かもったいぶられているような気がして、私はクラスメイトに続きを促した。
「津田先輩の等身大パネルがその隣に飾られているのよ!」
「等身大パネル? タカ兄がよくそんなものを許可したね」
「その辺は無許可だったようで、畑先輩が連行されていったんだけどね」
「あっ、やっぱり」
タカ兄がそんなことを許可するとは思えなかったので、その説明で漸く納得できた。しかし等身大パネルだなんて、タカ兄にキスする練習とかいってパネルにキスする輩がでてくるかもしれないな。
「さっき三年生の先輩が、パネルの下半身を舐めまわすように見つめていたり、横島先生が実際に舐めまわそうとして生徒会メンバーに怒られてたりしてたけど、それでもやっぱり注目しちゃうよね~」
「さすがタカ兄……私の想像の上を行く変態たちに好かれてるようだね」
キス程度は可愛いものだったと思わさられるとは……でも、そんなことになればカエデ先輩が黙ってないと思うんだけどな……まぁ、影のムッツリクイーンだし、誰も見ていないところでパネルにキスしてたりして。
風紀委員の会議で、タカトシ君の等身大パネルをどうするかが議題に上がったが、大事にするべきではないという意見が多数出たので、とりあえずは現状維持ということになった。
「(それにしても、タカトシ君の等身大パネルか……)」
私は比較的にタカトシ君に近い位置にいるから気にしなかったけども、少しでもお近づきになりたい人たちが、パネルでも良いから一緒に写真を撮るだなんて思っていなかった。
「おや~? これはこれは風紀委員長」
「畑さん……何だかぐったりしてませんか?」
「津田副会長にこってり絞られましたからね……さすがに疲れました」
「無許可でこんなものを作るからですよ」
初めはタカトシ君が許可したものだと思っていたけども、畑さんが連行されたという話を聞いて無許可だったと分かり、問題にすべきだと思ったのだけども、そんなことをすれば暴動が起こるかもしれないと言われ経過観察にしたのだが、近い内に撤去されそうね。
「記事に注目してもらいたかったのですが、まさかパネルの方が注目されるとは……津田副会長の人気の高さを甘く見ていました」
「私たちは普通に話しているからありがたみが分からないみたいですね」
実際クラスメイトたちからも、タカトシ君と普通に話せるなんて羨ましいと言われたこともある。そもそも私が異性であるタカトシ君と話しているのが珍しいのもあったのだろうが、驚きよりも嫉妬の感情が大きかったことを考えれば、今回のこの騒動は納得がいく。
「このパネルを裏で販売すれば……」
「畑さ~ん?」
「冗談ですよ。そんなことをしたら今後エッセイの販売ができなくなってしまいますから」
「そうなったら、他校のファンが黙っていないでしょうね」
私たち桜才学園の生徒は簡単に手に入れることができるが、他校のファンは畑さんが販売している記事を買わなければタカトシ君のエッセイを読むことができない。それが禁止されたとなれば、桜才学園にタカトシ君のファンが雪崩れ込んでくる可能性があるのだ。
「そういえばこの間お泊りデートしてきたんですよね? そのままゴールインしちゃったりはしてないんですか?」
「してません! というか、いつの間にか気絶していて、次に気付いた時にはベッドで寝ていましたから」
「膜、ちゃんとありました?」
「当たり前です! というか、なんてことを聞いてくるんですか、貴女は!」
そもそもタカトシ君が意識の無い異性を襲うだなんて思えないし、そんな雰囲気になったとしてもちゃんと許可を取ってからするだろうし。
「今度は五十嵐風紀委員長のインタビュー記事にしましょうか。内容は、津田副会長とのお泊りデートの真相について」
「別段面白いことはありませんよ。そもそもデートではなく、カップルの監視目的だったんですから」
「校外でイチャコラするくらいは目を瞑ったらどうです? その辺は自由のはずですが」
「分かってはいるんですがね……」
何時までも頭ごなしではいけないと分かっているんだけども、どうしても気になってしまうのだ。もしかしたら、私もいつかタカトシ君と……なんて思っている所為かもしれないわね。
やっぱりカエデさんはムッツリ……