桜才学園での生活   作:猫林13世

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目標がおかしい気も……


プール開き 二年生の部

 今日からプール開きということで、クラス中が浮かれているような気がする。プールで涼みたいと思っているのならまだいいが、男子は気になる女子を、女子は何故かタカトシのことをじっと見つめている。

 

「スズ、さっきから何で見てるの?」

 

「別に私は邪な気持ちなんて無いわよ」

 

「いや、そういうことじゃなくて……てか、邪な気持ちって?」

 

「な、何でもない……」

 

 

 盛大に自爆したような気がするけども、タカトシはそれ以上追及してこなかった。恐らく私の心を読んで知られたくないことを理解してくれたのだろう。

 

「スズちゃんは何か目標あるのー?」

 

「そういうムツミは?」

 

「今年こそは400mのタイムでタカトシ君に勝ちたい!」

 

「相変わらず次元が違うわね……」

 

 

 そもそも男子と女子とではタイム差があって当然なのだが、タカトシとムツミのタイムはそれ程違わない。これはタカトシが遅いのではなく、ムツミが早すぎるのだが、当の本人はタカトシに勝てなくて悔しいらしい。

 

「それで、スズちゃんの目標は?」

 

「今年こそプールの中心で立って見せる!」

 

「溺れたら助けてあげるね」

 

「誰が溺れるか―!」

 

 

 ムツミは親切心から言ってくれたのだろうが、私からしてみれば子供扱いされたようで気に入らない。

 

「スズ、そろそろプール行こうー」

 

「パリィは楽しみでしょうがないようね」

 

 

 完全に浮かれ切っているパリィやムツミと共に更衣室に向かい水着に着替える。周りを見渡すことなく黙々と着替えるのは、同年代と比べて発育が悪いからではない。単純に興味がないからだ。

 

「そういえばネネは?」

 

「忘れ物したから取りに行くって言ってたけど」

 

「まさか、サボる気じゃないでしょうね」

 

 

 ネネは運動全般が苦手で、泳ぎもそれ程得意ではないはずだ。泳げないわけでは無いが、できることなら泳ぎたくないとか言っていた気がするし、もしかしたらサボり――

 

「遅れちゃった」

 

 

――ではなかったようだ。

 

「ネネ、忘れ物って?」

 

「度入りゴーグルだよ。これが無いと見えないし」

 

「そうなんだ」

 

 

 とりあえず真ん中まで向かい、足が付くかを確認。結果は……

 

「ムツミって人魚みたいにすいすい泳ぐね」

 

「ムツミちゃんの唯一の得意科目だしね」

 

 

 目から水が垂れているが、これはきっとプールの水に違いない。

 

「あっ、おーいムツミ」

 

「どうしたの?」

 

「レッグバインダー持ってるんだけど、それ付けて泳いでみない?」

 

「?」

 

「没収するから持ってきなさい」

 

 

 相変わらず余計なものを持ち込んでいるようで、私はネネに説教する。

 

「まぁまぁスズちゃん。暑い中怒ったら倒れちゃうよ?」

 

「確かに……これだけ暑いと、アイス食べたくなるわよね」

 

「アイスって溶けかけが一番美味しいよねー」

 

「何となく分かるわ」

 

 

 ムツミとアイス談義をしていると、パリィが何かを思い出したように手を叩く。

 

「水着も溶けかけが一番エロスだって○Vで知ったよ」

 

「法律守れ!」

 

 

 パリィの発言に私は大声でツッコミ、ムツミは首を傾げ、ネネは共感したように握手を求める。ネネ一人でも大変なのに、どうしてパリィの担当が私になっているのかしら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スズちゃんたちとお喋りを楽しんだ後、私はタカトシ君の側に近寄って声を掛けようとしたのだけども、何故だかタカトシ君の側に近づけない。

 

「おーい、タカトシくーん!」

 

 

 近づけないので大きな声で呼びかけると、タカトシ君が振り返って頷いてくれた。恐らく私の用件が分かっているのだろう。

 

「(それにしても、どうしてクラスメイトたちは私がタカトシ君に近づくのを阻止しようとしたんだろう?)」

 

 

 私がタカトシ君と泳ぎで勝負するのは毎年のことなのに……

 

「ねぇスズちゃん」

 

「なに?」

 

「何だか女子の視線が鋭い気がするんだけど……私、何かしたっけ?」

 

「ムツミは何も悪くないわよ。ただ、勇気を出せない女子の嫉妬が向けられてるだけだから」

 

「?」

 

 

 スズちゃんの言っていることは難しくて私には理解できない。とりあえずタカトシ君がこっちに来るまでアップしておこう。

 

「お待たせ」

 

「ううん、全然待ってないよ」

 

 

 つい声が上ずってしまったけども、これはいきなり声を掛けられてビックリしたから。タカトシ君なら気配で誰かが近づいていることにも気づけるのだろうけども、私にはその技は使えない。

 

「とりあえず400で良いんだよな?」

 

「うん。今年こそはタカトシ君に勝ちたいなー」

 

「いくら三葉とはいえ、女子に負けるのはさすがに避けたい」

 

「だって、勉強でも料理でもタカトシ君に勝てないし、得意分野くらいはタカトシ君に勝ちたいよ」

 

「柔道では勝てる気がしないが……」

 

「というかタカトシ君、柔道したこと無いんじゃないの?」

 

「中学の体育の授業で数回……くらいだな」

 

「だったら私が勝つよ、さすがに」

 

 

 タカトシ君の身体能力ならひょっとしたら危ないかもしれないけども、これでも桜才学園柔道部の主将を任されているんだから、素人と言ってもいいタカトシ君には負けないと思う。

 

「スズちゃん、スターターお願い」

 

 

 とりあえず今は、目の前の勝負に集中しよう。

 

「(……また負けた)」

 

 

 結果はタカトシ君に30m以上の差付けられて私の負け。去年はもう少し差があっての負けで、少しは成長したみたいだけども、負けるのってやっぱり口惜しいな……




恋心を自覚してないからこそ、気軽に声を掛けられるんでしょうね

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