桜才学園での生活   作:猫林13世

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ここのタカトシなら心配ないし


デート後のお泊り

 たまたま噴水にコインを入れたら百万人目だということで、併設するホテルの宿泊券をいただいたのはいいが、外泊するとなると親に連絡を入れないといけない。ここでダメと言われるのを期待していたのだが、私の母親は――

 

『カエデも遂に男の子と外泊するようになったのね。もちろんOKよ』

 

 

――とノリノリで許可してきた。まぁ、ウチのお母さんもタカトシ君のことは知っているし、私がタカトシ君相手には男性恐怖症が発生しないことも知っているので許可してくれたのだろう。

 

「なんだかノリノリでOKされました……」

 

「年頃の娘の親として、それはどうなんでしょうか……」

 

 

 タカトシ君の方もため息をこらえきれなかったのか、思いっきりため息を吐いていた。彼の場合は、魚見さんがコトミさんの面倒を見てくれているので問題ないらしいが、あまり乗り気ではない。

 

「まさかこんな展開になるなんて」

 

「まぁ、二人きりじゃないだけマシなのではありませんか?」

 

「これが七条家が経営しているホテルか」

 

「前の温泉旅館とはだいぶ違いますね」

 

「……そうね」

 

 

 私とタカトシ君はペア宿泊券で、天草さんたちは七条さんのコネでこのホテルに泊まることになったのだが、何故か三人とも自分たちの部屋ではなく私たちに宛がわれた部屋にいるのだ。

 

「まさかカエデちゃんが百万人目になるなんて思ってなかったよ~」

 

「私だって……というか、こんな偶然あるんですね」

 

「しかしアリア」

 

「んー?」

 

「百万人目が偶々五十嵐とタカトシだったから良いが、お一人様の客だったらどうするつもりだったんだ?」

 

「当日限定じゃないんだし、別の日に相手を連れてくれば良いんだよ。もしくは、知人にプレゼントするとか」

 

「じゃあそうすればよかった……」

 

 

 両親にプレゼントして、私は自宅で留守番をしている方が気が楽だったのに……もちろん、タカトシ君相手が嫌だというわけではなく、純粋にそちらの方が気を遣わなくて済むという理由だが。

 

「というか、シノさんたちは何時までこの部屋にいるつもりなんですか? スズももう眠そうですし」

 

「子供扱いするな!」

 

 

 タカトシさんに指摘され、萩村さんが何とか反論しましたが、さっきから眠そうに目をこすっているのは私も気付いている。時刻はそろそろ午後九時になろうとしているので、普段なら萩村さんは就寝する時間なのだ。

 

「いくら記念とはいえ、高校生のお前たちが二人きりで――ましてや男女なのだ。そんなことをみすみす見逃すわけがないだろ!」

 

「ですが、俺の部屋で二人きりで寝たこともあるんですけど」

 

「……そうだったな」

 

 

 タカトシ君の反論に言葉を失くした天草さんたちは、それぞれの部屋に戻っていく。やっと静かになったのは良いのだが、これはこれで緊張してしまうではないか……

 

「着替えとかどうしましょう」

 

「き、着替えっ!?」

 

「どうかしました?」

 

 

 タカトシ君に他意がないことは分かっているのだが、私は彼の言葉に過剰に反応してしまう。二人きりの部屋で着替えなど言われれば、反応してしまうのも仕方がないだろう。

 

「急に泊まることになったので、着替えなど持ち合わせていませんし……このままの格好で寝るにしても、男の俺は兎も角カエデさんは嫌でしょうし」

 

「べ、別に大丈夫ですよ?」

 

「何故敬語?」

 

 

 緊張のあまり口調が硬くなってしまった私を訝しげに見詰めるタカトシ君。彼は私が何を考えているのかを探っているのかもしれないが、こればっかりは知られたくない。

 

「ほ、ホテルなんだからクローゼットに何かあると思うわ!」

 

 

 彼の視線から逃げる為にクローゼットを開けた私は、中に入っている物を見て失神してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 急にカエデさんが倒れたので、俺は咄嗟に彼女を支えてベッドに寝かせた。倒れた理由は、クローゼットの中身が普通の衣服ではなく、所謂『コスプレ衣装』だったからだ。

 

「普通のコスプレ衣装ならまだ良かったのかもしれないが……」

 

 

 クローゼットの中身はかなりマニアックなもので、カエデさんには刺激が強すぎたようだ。別に誰かが着ているわけではないのだから、そこまで気にしなくて良いものを……

 

「というか、この人はこの人で思春期だったんだっけか……」

 

 

 周りにぶっ飛んでる人が多いので目立たないが、カエデさんも結構な思春期真っ直中な思考をしているのだ。今回だって、普通のデートに同行するなど、どんなことを想像していたのやら……

 

「さて、俺はどうするかな」

 

 

 寝るには早すぎる時間だが、生憎暇つぶしになりそうなものは持ち合わせていない。充電器も持ってきていないので、携帯で読書も考え物だ。

 

「お困りですか?」

 

「さっきから気配を感じていましたが、何か用ですか?」

 

「いえ、タカトシ様の貴重な卒業シーンを見学しようと――」

 

「死にたいんですか?」

 

「し、失礼いたしました! これ、携帯の充電器になりますので、どうぞお使いくださいませ!」

 

 

 直立不動で敬礼をし、充電器を差し出したと思ったら脱兎のごとく逃げていった出島さんを見送り、俺は日付が変わるまで読書をすることにしたのだった。




影のムッツリクイーンは健在と……

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