桜才学園での生活   作:猫林13世

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何でも嘘を吐いていい日ではない


四月バカ

 今日はエイプリルフールで登校日ということで、私は生徒会室でさくらたんの着ぐるみを着て待機していた。首を外せば中身が空っぽと驚かせる計画だ。

 

「(早く誰か来ないかな)」

 

 

 生徒会室で待つこと三十分、この部屋に近づいてくる足音が聞こえてきた。

 

「(来たっ!)」

 

 

 足音から察するにタカトシがこの部屋にやってきたようだ。タカトシが相手だと驚かせられるか分からないけど、せっかく準備したんだからやらないわけにはいかない。

 

「っ!」

 

 

 タカトシが部屋に入ってきたタイミングで、首を外したのだが、タカトシはあまり驚いた様子もなく一瞥しただけですぐに理解した。

 

「エイプリルフールで誰かを驚かそうとしてたんですか?」

 

「分かってるのなら驚いてくれたっていいだろ!」

 

 

 まったく驚くことなく作業を始めたタカトシに、私は着ぐるみの手でぽかぽかと叩くが、タカトシはあまり相手をしてくれない。

 

「せっかく三十分もこの中で待機していたんだから、もうちょっと相手をしてくれたっていいだろ!」

 

「そんなこといわれましても……」

 

 

 なんだか残念な人を見るような目を向けられて、私はタカトシ相手にドッキリは絶対にしないと心に決め、着ぐるみを脱ごうとしたのだが――

 

「ファスナーが壊れた!? 早く脱がしてくれ!」

 

「なにやってるんですか……」

 

 

 呆れているのを隠そうともしないタカトシが私の背後に回って、ファスナーを外してくれる。

 

「す、すまない……」

 

「いえ、何時までもそんなのを身に着けていたら作業できないでしょうし」

 

 

 無事に着ぐるみを脱ぐことができ、私は恥ずかしさを誤魔化す為に蘊蓄を述べることにした。

 

「エイプリルフールは午前中にだけ嘘を吐いていい日で、午後にはネタ明かしをして普通に過ごす日という説がある」

 

「いくら嘘を吐いても許される日だからといって、やっていいことと悪いことがあるので気を付けてくださいね? 着ぐるみドッキリ程度なら許しますが」

 

「う、うむ……」

 

 

 何となく実感がこもっている注意をされてしまい、私は素直に頷くしかできなかった。恐らく過去にコトミがやらかしたのだろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何か良いネタが無いかと登校日の校内をうろついていたら、生徒会室から大声が聞こえてきた。

 

『ファスナーが壊れた!? 早く脱がしてくれ!』

 

『なにやってるんですか……』

 

 

 どうやら生徒会室で会長と副会長がなにかをやっているようだ。今の声は録音してあるから、面白おかしく編集して曲解して記事にすれば、それなりの話題にはなるだろう。

 

「まさかこんなネタを手に入れられるとは」

 

「喜ぶのは良いですが、事実無根の記事を書くつもりなら、新聞部は活動休止にしますからね」

 

「なっ、津田副会長……何故!?」

 

 

 先ほどまで私の目の前には誰もいなかったのに、いつの間にか津田副会長が私の前で満面の笑みを浮かべた状態で立っている。並の人間なら気絶しても不思議ではない光景だ。

 

「では今の会話の真相を教えてください」

 

「会長がドッキリを仕掛けようと着ていた着ぐるみのファスナーが壊れて脱げなくなっただけです」

 

「なんだ、つまらない……」

 

 

 エイプリルフールで盛り上がろうとするなんて、相変わらず天草会長は子供っぽいところがありますね。まぁ、そこが人気の理由でもあるのでしょうが。

 

「というか、用もない人が何時までも校内に残らないでくれませんかね? カエデさんに突き出されたいんですか?」

 

「ま、まだ何もしていませんよ?」

 

 

 風紀委員長に突き出すと脅され、私は思わず怯む。なにせ叩けば埃が出る身なので、できることなら風紀委員会のお世話にはなりたくない。まぁ、風紀委員長だけなら口先で何とかできそうですが、恐らく――というか絶対、その場には津田副会長も同席するだろう。そうなると嘘は使えなくなってしまう。

 

「未遂ということで見逃しますが、大人しく帰宅してください。貴女のことに意識を割きたくないので」

 

「酷い言い様ですね……まぁ、大人しく退散しますよ」

 

 

 津田副会長相手では私の口八丁は意味を成さない。なので大人しく退散することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会室に向かう途中、七条先輩と合流したのでお喋りをしながら生徒会室を目指す。

 

「そういえば今日、エイプリルフールだね」

 

「会長がなにかしそうな日ですね」

 

「せっかくだし、こっちからドッキリを仕掛けてみる?」

 

「面白そうですね」

 

 

 会長のことだからなにか嘘を用意しているだろうから、こちらから仕掛けて会長の嘘を潰すのも面白そうだ。

 

「遅れました」

 

 

 とりあえず普通に生徒会室に入ったが、七条先輩はなにかを企んでいるような表情で会長に話しかける。

 

「シノちゃん」

 

「なんだ?」

 

「実は私――」

 

 

 いったいなにを言うんだ?

 

「――スズちゃんとお付き合いすることになったの」

 

「「はぁ!?」」

 

「……何故萩村まで驚くんだ?」

 

「あっ……」

 

 

 せっかく七条先輩が渾身の嘘を吐いたというのに、仕掛人側の私も驚いてしまった。

 

「わーい。シノちゃんもスズちゃんも引っ掛かった~」

 

「「くそぅ……」」

 

「あの、そろそろ作業してください」

 

 

 結局三人ともタカトシに注意されてしまい、その後は普通に作業を進めた。




人間関係が悪化しても知らんが……

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