桜才学園での生活   作:猫林13世

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夜の撮影

 撮影が夜からということで、私は少しテンションが高いのだが、主演のタカトシが珍しくやる気が無さそうにしている。

 

「どうかしたのか?」

 

「いえ、これがあるからシフトを昼の人と変わってもらって、バイトが終わってから洗濯物を取り込んで軽く部屋の掃除をしてきたので、少し腰を落ち着かせてるだけです」

 

「大変だな……だが、そろそろスイッチを入れないと駄目じゃないか? 映画部の動きを見る限り、そろそろ開始だろうし」

 

「ですね」

 

 

 まだやる気が入っていないようだが、タカトシなら始まればすぐに完璧にこなす事が出来るだろうな。

 

「何の話をしてるんですか?」

 

「あぁ、スイッチが入らないという話をだな――」

 

「し、心霊現象!?」

 

「あっいや……タカトシのやる気スイッチが、という話なんだが」

 

 

 こういう時の萩村は、普段の冷静な判断が出来ないんだったな……しかし、スイッチが入らないという言葉だけで心霊現象に繋げるとは、ある意味想像力豊かというか、何と言うか……

 

「(ここは先輩として、萩村の緊張を解いてやる必要があるな)」

 

 

 私が言葉足らずな所為で余計な緊張を与えてしまったのだから、どうにかして萩村の緊張を解いてやらないと……しかし、どうやって?

 

「(そうだ!)」

 

 

 私は方法を閃き、ゆっくりと萩村の側に近寄る。

 

「会長?」

 

「隙だらけだ!」

 

 

 一気に背後に回って萩村の脇の下に手を突っ込み、そのままくすぐり始める。私の行動に初めは驚いた感じだったが、次第に楽しそうに笑ってくれた。

 

「どうだ? 少しは緊張解れたか?」

 

「はい、お陰様で。笑い過ぎて少し疲れましたが、気分が楽になりました」

 

「何々、何のはなし~?」

 

「アリアにもおまけだ!」

 

「きゃっ!?」

 

 

 巫女装束に身を包んだアリアの脇の下もくすぐり、萩村と同じ気分にさせてやろうと思ったのだが――

 

「もー、急に胸のGスポットを攻撃してくるなんて、シノちゃん夜だからって性欲高まってるの?」

 

「あ、あれ? 何でそんな流れになってるんだ?」

 

 

 何故かアリアに怒られる展開になってしまった……というか、私はくすぐっただけなんだが……

 

「そろそろ本番いきまーす!」

 

「「えっ、本番!? あっ、いやいや……」」

 

「昔の癖が出てますよ……」

 

 

 萩村にツッコまれ、私たちは恥ずかしくなり視線を下に向けタカトシから睨まれているという現実から目を背けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 撮影は順調に進み、休憩時間になるとタイミングよく出島さんが差し入れを持ってきてくれた。

 

「撮影って楽しいですよね」

 

「というか、タイミングよく現れたことに対して、納得出来る説明を――」

 

「私も昔エキストラとして参加した事があります」

 

 

 どうせアリアさんの持ち物の何かに盗聴器か何か仕掛けてるんだろうが、問い詰めても白状しそうにないか……

 

「エキストラもメイクした方がいいですか?」

 

「私はしませんでした。どうせ顔にモザイク掛かりますし」

 

「AVの撮影じゃねぇか!」

 

「おんや~? 何故萩村さんがそんな事を知ってるんですかね?」

 

「いや、それは……」

 

「休憩も終わりですし、出島さんはどうぞお帰りください」

 

 

 出島さんを脇に追いやる事で、スズへの追及を強制的に終わらせる。

 

「それじゃあ最後は、津田と会長のベッドシーンを撮ります」

 

「はぁ?」

 

「いや、フリだから! 青少年のリアルを表現するためにこのシーンは必要なんだ! ほら、時代劇だって斬られたフリするだろ? それと一緒だって!」

 

 

 軽く視線を向けただけだというのに、柳本は慌てたようにそう言う。別に怒ったわけではないんだが、そんなに怖かったのだろうか……

 

「つまり素股ということか?」

 

「アンタは何を言ってるんだ」

 

「あっ、緊張して昔の癖が出てしまうんだ……」

 

「どんな緊張だよ……」

 

 

 とりあえずそれっぽく見えればいいとの事なので、俺とシノ会長の二人で保健室のベッドに入る。

 

「会長、息荒いですが大丈夫ですか?」

 

「も、問題ない……ちょっと鼻血出そうだけど」

 

「何で?」

 

 

 この状況で何故そうなるのか気になったけども、それ以上に俺は、会長の脚が気になっていた。

 

「っ!? 痛たたたたた!」

 

「「「っ!?」」」

 

「あぁ、やっぱりつりましたか……」

 

 

 過度の緊張で脚がつりそうになっているのは気配で感じてたが、どうやらやっぱりつったようだ……

 

「タカ兄、こんな大勢の前で初体験なんて」

 

「お前は明日一日を正座で過ごしたいようだな?」

 

「正直申し訳ございませんでした!」

 

「会長の脚が治るまでちょっと休憩」

 

「す、すまん……」

 

 

 失敗してがっがりしている会長の側に、先ほど追い返した出島さんが近寄ってくる。あれでも俺たちより人生経験は豊富だから、何かアドバイスしてくれるのだろうか。

 

「私も本番中に脚をつったことがあるのですが、初物だと思われて結果オーライでした。ですからそれほど気にする必要は――」

 

「慰めるならちゃんと慰めろよな」

 

「あぁ、タカトシ様の罵声! これだけで三回は絶頂出来そうです!」

 

「はぁ……会長、あまり気にし過ぎると次に差し支えますから、適度に反省して切り替えてください」

 

「あぁ、分かった」

 

 

 この一言が利いたのかは分からないが、無事に撮影は終了して後は轟さんの編集を待つだけとなった。




コトミと出島さんも、なかなか混ぜたら危険ですよね……

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