桜才学園での生活   作:猫林13世

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間違ってもオークションではないです


ヒロインオーディション

 会長たちが一気に出演に前向きになった所為で、映画のヒロインはオーディションで決める事になった。その為に空き教室を使いたいと映画部所属の柳本に頼まれ、俺は今教室使用許可をもらう為に職員室に来ている。

 

「横島先生、少し空き教室を使いたいのですが、使用許可をいただけますか?」

 

「教室の使用許可? 何の目的で使うんだ?」

 

「ヒロインのオーディションをするので」

 

「ダメだっ!」

 

「はい?」

 

 

 何故か力いっぱい拒否されて、柳本は口を開けて固まっている。俺は何が気に入らないのかを尋ねる為に視線を向け、次の言葉を待った。

 

「ヒロインのオークションなんて、そんなエロゲみたいな展開――」

 

「あっ、小山先生。空き教室の使用許可をいただけないでしょうか」

 

「目的は?」

 

「映画部が製作する作品のヒロインを決める為にオーディションを開くためです」

 

「分かりました。ではこれを」

 

 

 小山先生から申請許可書を貰い、俺は柳本にそれを手渡す。

 

「ほら、これで出来る」

 

「悪いな、津田。ついでに審査も手伝ってもらえるとありがたいんだが」

 

「手伝うって、何を手伝えばいいんだ?」

 

「そりゃお前、主人公であるお前との掛け合いとか、そう言ったものを見る為にはお前が手伝ってくれないと」

 

「まぁ、そういう事なら……」

 

 

 というか、先輩たちが乗り気になった以上、俺が出演する理由はなくなったんじゃないか? まぁ一度引き受けた以上、途中で投げ出したりはしないが。

 

「――というわけで、これからヒロインを決めるオーディションを開催します! 基本的にはセリフを数行読んでもらう程度ですが、レベルが高いとこちらが感じた場合、主演である津田との兼ね合いをしてもらう事もありますのでそのつもりで」

 

 

 柳本の宣言を受けて、数人の背筋が伸びたような気がするが、それほど緊張する事ではないと思うんだがな……

 

「では順番に呼んでいきますので、廊下でお待ちください」

 

 

 ざっと数えた程度だが、十人以上参加希望者がいたようだ。というか、それだけ希望者がいるのであれば、生徒会に参加以来なんかしなくても十分に人が集まったんじゃないか?

 

「一番、天草シノです」

 

 

 最初はシノ会長からか……セリフは問題なく言えているし、演技力もそれなりにあるので十分に務まりそうだな。

 

「はい、結構です。では次のシーンを主人公である津田と演じてみてください」

 

「は、はい」

 

 

 何故か急に緊張しだした会長を見て、俺は何となく嫌な予感がしてきた。この人、最近大人しくしてるから忘れがちだが、基本的にはボケ側の人間だからな……

 演者としてシノ会長を後ろから抱きしめ、自分のセリフを述べたところで、会長の反応がない事に気付き声を掛けた。

 

「会長、次は会長のセリフです」

 

「あぁ、すまない。タカトシの胸板の感触を楽しんでいたらセリフを忘れてしまった」

 

「何やっちゃってんの……」

 

 

 結局まともに演じる事無く会長の番は終了した。というか、あの人本気でやる気あるのか?

 

「二番、三葉ムツミ! 運動神経には自信があります!」

 

 

 そう宣言して三葉はその場でバク転を決めた。

 

「おー! スタントマンとして参加してくれない?」

 

「あれー?」

 

 

 まぁ、そうなるよな……一応恋愛映画を撮ると言っているんだから、運動神経をアピールしてもヒロインとして採用はされないだろう……というか、何故運動神経アピールをしたんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーディションは終了し、後は結果発表を待つだけなのだが、私はさっきから気になっていたことがある。

 

「何故コトミまでオーディションに参加してるんだ? 仮にも主人公はタカトシで、恋愛映画だというのに」

 

「現実では出来ない、兄妹での禁断の恋愛に憧れまして」

 

「そういえば、お前はそういうやつだったな」

 

 

 昔から実の兄の事を性的な眼で見て、タカトシに散々怒られているコトミの事だ。映画という理由を得たら何処まで暴走するか分かったものじゃない。その辺り審査員たちは理解しているのだろうか?

 

「(あっ、審査員の中にはタカトシもいたんだっけか……)なら大丈夫か」

 

「何がですか?」

 

「こちらの話だ」

 

 

 思わず声に出てしまったが、コトミだから簡単に誤魔化す事が出来た。

 

「お待たせしました。ただいまより審査の結果を発表させていただきます」

 

 

 教室内から映画部の面々が顔を出し、私たちを教室内に迎え入れる。よくよく見れば五十嵐や轟までオーディションに参加していたのか……五十嵐は兎も角轟は撮影側じゃないのか?

 

「ヒロインには、萩村スズさんを採用させていただくことになりました」

 

「「「おめでとー」」」

 

 

 私たちの実感の篭っていない賛辞に、萩村は照れ臭そうに頭を掻く。しかしなぜ萩村なんだ? タカトシとの恋愛ものなら、私かアリア、もしくは五十嵐だと思うのだが……

 

「何故萩村氏をご指名に? まさか、津田副会長はペd――」

 

「ん?」

 

「なんでもないでーす」

 

 

 畑のおふざけはタカトシの睨みで撃退され、映画部から選考理由が発表された。

 

「ズバリ、身長です」

 

「はい?」

 

「言ってませんでしたっけ? この映画は兄妹での恋愛映画なので」

 

「じゃあ何で私じゃないんですかー! タカ兄のリアル妹である私じゃ!」

 

「それだと、映画祭に出展出来ないので」

 

 

 映画部の言葉に、コトミ以外の全員が頷いた瞬間だった。




コトミ相手じゃ出展出来ないよな……

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