途中まで津田さんに手を引かれてここまで来ましたが、大丈夫ですよね? 表情に出てませんよね?
「七条先輩、津田です」
『どうぞ~』
劇直前の控え室に来られるなんて、結構ドキドキしますね……
「あれ? 会長たちも来てたんですね」
「うむ!」
「何時までも快楽に溺れてる訳にもいきませんし」
「「はぁ……」」
魚見会長のボケに、津田さんとため息が被る……この人も相当苦労してきてるんだと言う事がこれだけで伝わってくるのは、私も似たポジションだからなんでしょうか……
「そろそろ本番だから、ドキドキしちゃってるよ~」
「ほーどれどれ」
天草会長が徐に七条さんの胸に手を当てる……女子同士だとこれが普通なんでしょうか? 少なくともウチの高校では見かけない光景ですが……
「胸が大きくて鼓動が聞こえない! 嘘吐いちゃ駄目だぞ!」
「嘘じゃないよ~!?」
何て理不尽な怒り……でも、七条さんの胸は羨ましいと思わざるを得ないですよね……私もせめてもう少しくらい……
「森さん? 如何かしましたか?」
「い、いえ! 何でも無いです」
横に津田さんが居るの忘れてた……危うく自分で揉むところだったわ……
「それじゃあ皆、そろそろ本番だから」
「ああ、客席で見てるぞ」
「本番に興奮して漏らしちゃ駄目ですよ」
「大丈夫! 視姦されて濡らすかもしれないけど」
三人がサムズアップしてるのを見て、津田さんが一人一発ずつ拳骨を振り下ろす……私にもそのスキルがあれば、もう少し楽が出来るのでしょうか……
七条先輩の演技は、本番前ふざけてた人と同一人物だとは思えないほどしっかりとしたものだった。
「七条さんって演技上手なんですね」
「何でもDVDを見て参考にしたらしいぞ」
「そうなんですか……」
何故だか知らんが、もの凄い嫌な予感がしてきた……森さんは気付いて無いようだが、萩村が何となく気付いてるようで、アイコンタクトで俺に処理を押し付けてきた……偶には萩村が処理しようぜ……
「それで、その参考にしたDVDの内容は?」
「何でも、ロー○ーを入れたまま接客してたらしい」
「それは興奮しますね!」
「うむ!」
大声出して馬鹿な事を言ってる両会長を沈め、俺は舞台に目を向ける……本当にやってねぇだろうな……
「津田、ご苦労」
「疲れるって分かってるなら偶には萩村が代わってくれたって良いだろ」
「……私じゃ会長たちの頭に手が届かないから」
「……何かゴメン」
気まずい雰囲気が流れる中、劇が終了し周りからは拍手の音が聞こえてきた。如何やらこの場所の事は無視を決め込んでるらしい……まぁそれが妥当な判断だろうな……
劇が終わり再び控え室へとやって来た。さすがに着替え中と言う事は無く、アリアは既に制服に着替え終わっていた。
「出島さん、これありがとう」
「いえ、では着替えて帰ります」
「一応クリーニングに出した方が良いのでは?」
確かにそうだな。いくらアリアが清潔だからと言って、別の人間が着た物をそのまま着るのは衛生面でよろしくないような……
「いえ、メイドの私服はメイド服ですから! それに、お嬢様の使用後はそそります」
「えっ?」
出島さんは如何やら両刀のようだな……いや、私たちに刀は無いからこの場合何と言えばいいんだ?
「またくだらない事考えてますね……」
「ほっとけば良いよ……」
「お二人はかなり苦労してる様子ですね」
ツッコミ三人が私を見て蔑んだ……何だ、何故私はこんなにも興奮してるんだ……
会長たちと別れ、私は津田と森さんと見回りに出た。それにしてもこの二人デカイわね……私が子供みたいじゃないの……
「って! 誰が幼児体型だー!」
「「!?」」
「あっ……」
自分の思考にツッコミを入れたら、津田と森さんを驚かせてしまった……
「あ、あれ! 出島さんじゃない?」
咄嗟に話題を変える為に、私は偶然視界に入ってきた出島さんを指差した。
「……確かに出島さんだな」
「……そうですね」
いぶかしむような目ではあったが、二人は深く追求してくる事は無かった。
「アイスキャンディをください」
「はい」
秋なのにアイス食べるんだ……まあ人の好みだしね。
「えっ!? 何で泣いてるの?」
「最近ご無沙汰でして……」
「……聞かなきゃ良かったのに」
「うん……私も思った」
津田が呆れたように私に言ってきたけど、私には津田のようなスルースキルは無いのよ!
「お、萩村! 丁度良かった」
「横島先生?」
「ちょっと付き合え!」
「えっ? ちょっと! 津田~!」
横島先生に拉致られるように引っ張られてる私を、津田と森さんは手を合わせて見送っていた……別に死にはしないけど、ちょっとは助けようとか思いなさいよね!
「これで人数が揃ったわね」
「人数? 何をするんですか?」
「3on3よ」
「……あまり私は適当な人選だとは思えないのですが」
「良いのよ。この際人数が居れば問題なし!」
そう言って横島先生一人で大体の試合の流れを決めた。普通に運動させる分には優秀なのかも知れないわね。
「いや~さすがは男の子ね。えらい汗掻いちゃったわ」
「ですが、見たところそれほど汗を掻いてるようには見えませんが……」
「そりゃそうよ。上じゃなくて下の汗だし~」
「津田は? ツッコミの津田は? 津田~!」
居ないと分かってるのに、私は津田を探した……このボケは私には荷が勝ちすぎている……津田じゃなきゃ処理できないボケに、私は何も出来ずに撃沈したのだった……
森さんとの見回りも一段落して、少し休憩の為に二人でベンチに腰掛けた。五分くらいなら休んでも良いよな……
襲い来る睡魔に身を任せたようで、俺より先に森さんが寝た。そしてそれにつられるように俺も睡魔に身を任せた……
「あら~? これはスクープかしらね~?」
……平和的に終わらせる事を許してはくれないようだな。
「桜才&英稜の副会長、学内で堂々と同衾! 見出しはこれで決まりね」
また古臭い言葉を……しかも正確には間違ってるし……まぁ、根底から間違ってるから今更なんだがな……
「まずは一枚……あら? 津田副会長が消え……ッ!?」
「事情説明は必要ですか?」
背後に回り畑さんに威圧する。観念したのか畑さんはその場で土下座をしてメモした事を全て廃棄して許しを請うてきた……もちろんそれだけで許す訳も無く、会長たちに喰らわせたの以上の拳骨で意識を刈り取り、今見たことは全て夢と言う事にしておいた。
「ちょっとだけなら良いよな……」
さすがに疲れてたので、俺も大人しく休む事にした。五分だけ……それなら問題は無いはずだから……
「津田!」
「森さん!」
「「……ん? 会長?」」
声をかけられて、俺たちは同時に目を覚ました。
「もう夕方だぞ」
「そろそろ帰りますよ」
「「えぇ!?」」
まさか休んでいる間に文化祭が終わってるとは……まぁ、これはこれで思い出になるか……
「それにしても、まさか津田さんが森さんに膝枕してあげてるとは」
「「……はい?」」
魚見さんに言われ、俺たちは今更ながら自分たちの格好に気付く……なんだか凄い勢いで森さんが立ち上がったんだけど……俺、そんなに危険に見えるのか?
津田と一番自然にいられるのが森さんとか……まぁ確かにお似合いなんですがね……