桜才学園での生活   作:猫林13世

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眠くなるのは分かる


お眠のスズ

 生徒会の作業は放課後に行うのがだいたいなので、私の体質上若干眠くなってくる時間帯なのだ。でも今日は作業が多いのでお昼寝タイムは取れそうにないわね……

 

『校内十周!』

 

『おーっ!』

 

「柔道部は元気だな」

 

 

 よかった。ムツミの大きな声のお陰で少し眠気が冷めてきたし、このまま外の音を聞いてれば寝なくて済むかもしれない。

 

『タッタッタ――』

 

「………」

 

「スズ?」

 

 

 一定のリズムを聞いていたら、いつの間にか寝てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 隣で凄い音がしたから横を向いたら、スズが寝落ちしてしまったようだ。何時もなら自分の意思で寝るのでこのような事は無いのだが、柔道部が走ってる足音を聞いていた所為で寝落ちしたんだろう。

 

「困ったな。萩村が寝てしまったら今日の作業、終わるかどうか分からないぞ」

 

「スズもそれが分かってたから昼寝を我慢していたんでしょうが、一定のリズム音には抗えなかったようですね」

 

 

 スズが処理するはずだった書類に目を通し、この程度なら何とかなると思い起こす事はせずに代わりに作業する。普段はバイトとかで早めに抜ける事があるので、こういう時くらいは恩返しをしておかないと。

 

「タカトシ君だけにやらせるわけにはいかないよ。私にも少し分けて?」

 

「いえ、アリア先輩だってかなりの量が残ってるんですから、スズの分は俺が片づけておきます」

 

「そうは言ってもな……君だって我々と同じ量を片付けた後だろ? それなのに萩村の分まで君に任せるのは――」

 

「気にしないでください。先輩たちがボケなくなってきたお陰で、作業効率は上がっているので」

 

 

 前は先輩たちのボケにツッコんだり、面倒な時は気絶させたりしていたので、作業スピードはかなり遅かった。だがボケなくなるだけでここまで作業効率が上がるって、普通ならありえないと思うんだがな。

 

「アリア、早めに私たちの分の作業を終わらせてタカトシを手伝おう」

 

「そうだね」

 

「急ぐ必要は無いですからね」

 

 

 俺としてはこれくらいなら一人でも十分終わらせられるので、先輩たちの手を煩わせる事は無いんだが、どうやらそれでは納得してくれないらしい。まぁ、自分の仕事を早く終わらせようと思うのは悪い事ではないので、これ以上は何も言わないでおこう。

 

「それにしても、萩村も無理せず少し仮眠をとれば良かったのに」

 

「何時ものお昼寝って感じじゃないよね。ぐっすり寝てる」

 

「疲れがたまっていたのもあるんじゃないですか? 文化祭の準備やその前の体育祭とかで」

 

「だがそれは我々全員が同じじゃないのか? まぁ、私は楽しんでたからそれ程疲れたという感じではなかったが」

 

「シノちゃんはライブ中にぐっすりだったしね」

 

「うっ……」

 

 

 あれほど楽しみにしていたトリプルブッキングのライブ中に寝落ちしたシノ会長が、恥ずかし気に視線を逸らした。まぁ、動画で確認してたから見逃したというわけではないが、やっぱり生で観たかったんだろう。

 

「――さて、こっちは終わったぞ」

 

「私も~」

 

「俺の方も、これで最後です」

 

「結局君一人に任せてしまったな」

 

「いえ、お気になさらず」

 

 

 スズの分も終わらせて、今日の生徒会作業は終了となる。だが未だに起きる気配がないスズをどうするか、先輩たちは少し考えてから俺を見た。

 

「頼めるか?」

 

「構いませんよ。今日はバイトも無いですし、コトミは下で柔道部の手伝いをしてるみたいですし」

 

 

 部活中という事は、マネージャーのコトミも仕事中なんだろうから、急いで帰る必要もない。俺はそう判断して寝ているスズを背負い、鞄を先輩たちに任せて萩村家へ向かう事にした。

 

「良いな~スズちゃん。タカトシ君におんぶしてもらえて」

 

「本人は子供っぽくていやだ! とか思うかもしれないぞ?」

 

「でも、タカトシ君に抱き着いてるわけでしょ? 私からしてみたら羨ましいよ~」

 

 

 後ろで何か話してるが、下手に首を突っ込んで二人も背負う展開になるのは避けたいので、聞こえないふりを続けよう。

 

「スズ、そろそろ着くから起きろ」

 

「ん……」

 

 

 さすがに家の中まで背負って入るのは避けたかったので、家の少し前でスズを起こす。するとスズは弾かれたように辺りを見渡し、そして申し訳なさそうな顔で頭を下げた。

 

「ゴメン、わざわざウチまで運んでもらっちゃって……あれ? 私、作業終わらせましたっけ?」

 

「そっちもタカトシ君がやってくれたから大丈夫だよ~」

 

「重ね重ね、ゴメン……」

 

「別に気にしてない。スズには色々と世話になってるから、これくらいじゃまだ返しきれてないし」

 

「(津田副会長のオナペットは萩村女史――)」

 

「何処から湧いて出てきたんですか、貴女は」

 

「あっ……」

 

 

 電柱の影に気配を感じ気づかれないように背後に回って問い詰めると、畑さんはこの世の終わりのような表情を浮かべた。別にそこまで威圧した覚えはないんだが……

 

「とりあえず、今日はありがとう。お陰でゆっくり休めたわ」

 

「それは良かった。でも、結構寝てたけど、夜寝られるの?」

 

「……今、何時?」

 

「そろそろ十八時」

 

「私、何時寝ました?」

 

「十五時半くらいか?」

 

「そうだね~」

 

「………」

 

 

 恐らく寝すぎたと思ってるんだろうが、スズの精神的疲労度を考えれば、まだ回復しきれてないと思うんだがな……俺が言える立場ではないんだが。




何処にでも現れる畑さん……

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