もはやここまでする必要は無いのではないかと思うのだが、コトミと時さんの赤点回避対策としてのテスト勉強会が今回もウチで行われる事になった。
「皆さん、わざわざ私とトッキーの為に集まっていただき、誠にありがとうございます」
「……ありがとうございます」
コトミの挨拶の後に、時さんが少し恥ずかしそうに続いた。見た目で勘違いされがちだが、彼女は割と恥ずかしがりやなのだろうな。
「コトミやトッキーが赤点になれば、その分負担が増えるからな。私たちも集まって勉強会を開けるから、必ずしもコトミやトッキーの為だけというわけではない。そこまで畏まられるとこちらも困ってしまう」
「そうですね。シノっちやアリアっちと一緒に勉強すれば、私も見落としていたことがあったと気付けることもありますから、コトちゃんたちがそこまで気にする必要は無いよ。でもまぁ、コトちゃんもトッキーさんもそれなりに理解してきているので、ここまで大袈裟にする必要はあったのか、という疑問はありますが」
「カナだけ泊まり込みで津田家に居座るのはズルいだろ」
「やっぱりそう言う事でしたか」
義姉さんは何となく分かっていたようだが、そもそも義姉さんにも迷惑をかけるつもりは無かったんだけどな……コトミは兎も角、時さんはここ最近実力だけでも赤点回避は難しくなくなってきているのだし、コトミもコトミでギリギリではあるが赤点にはならないくらいの実力はつけてきているようだし……あれだけ教えているのにギリギリなのを嘆くべきか、ギリギリとはいえ赤点にならなくなったことを喜ぶべきかは難しい問題だが。
「とりあえず、コトちゃんの面倒は私とシノっち、トッキーの面倒はアリアっちとスズポン、サクラっちは交代要員で」
「あの、俺は?」
「タカ君はゆっくりと休んでいてください。ここ最近働き詰めだったんでしょ?」
「それ程ではないと思いますが……家事にコトミの面倒、バイトに生徒会業務、エッセイの仕上げにクラスメイトたちへの問題集作成――」
「働きすぎだ! とにかく、タカトシは少し休んでいろ!」
「はぁ……」
そこまで働いていたつもりは無かったのだが、どうやらシノさんたちに心配させてしまったらしい。仕方ない、大人しくお茶の準備だけして部屋に戻るとするか……
タカトシ君が部屋に戻ったからと言って、私たちのリミッターが解除される事はなく、勉強会は未だかつてない緊張感を持ったまま進んでいた。
「そういえば、今回カエデ先輩は来なかったんですか?」
「五十嵐はコーラス部の集まりがあるとかで今はいないが、後から来ると言っていた。アイツも私たちと勉強会をする事で、自分が間違って覚えていた箇所の再確認が出来るとか言っていたからな」
「そうなるとお義姉ちゃんや会長たちが何処に泊まるか、という問題が更に悪化するんじゃないですか? ただでさえタカ兄争奪戦はサクラ先輩が圧倒的リードを保っているというのに」
「そういう事を考えてる暇があるなら、一つでも多く英単語を覚えてくれると、お義姉ちゃん嬉しいんだけどな」
「いやー……そりゃ困った事ですね……」
さっきからコトミちゃんが何とか話題を逸らそうと奮闘しているが、シノちゃんもカナちゃんも今回はその思惑には乗ってくれないと理解して、コトミちゃんは大人しく勉強に戻る。
「七条先輩、さっきからコトミの方を見ていますが、時さんの事も気に掛けてくださいよ。さっきから注意してるの私だけじゃないですか」
「ゴメンね。ただシノちゃんもカナちゃんも、漸く本気になったんだなーって思って」
「本気? あぁ、コトミに対してですね」
「前まではコトミちゃんと一緒にふざけだしたりしてたから」
「あの、ここってどういう意味ですか?」
「えっと、そこはね――」
トッキーさんが質問してきたので、私は即座に説明を開始する。シノちゃんやカナちゃんが真面目にコトミちゃんに勉強を教えているのだから、私が不真面目にやるわけにはいかないからね。
交代要員と言われても、基本的に私よりも優秀な人たちが教えているので、特に問題が起こるわけがない。私は自分一人で自分の勉強を進めるべく、少し離れたところで自分のノートを広げて復習に勤しむ。
「(それにしても、どうして今になってカナ会長たちは本気でコトミさんの事を心配しだしたのでしょうか?)」
さっき聞いた理由では、タカトシ君が働きすぎだから、少しでも負担を減らそうという感じだったけども、どうもそれだけじゃないような気がするんですよね……
「(コトミさんに使っていた時間を浮かせることで、タカトシ君にお付き合いをする余裕を持たせようとしているのでしょうか?)」
前々からタカトシ君が言っているように、お付き合いをしている暇がないという現状を打破しようとしているのではないかと思ったが、それならそれで別に問題は無いと考えて確かめようとはしなかったのだが、今更ながら会長たちの思惑が気になってしまった。
「(結果的にタカトシ君の邪魔にならなければ良いんだけど……)」
良かれと思ってしたことが迷惑に繋がらなければ良いのだけどと思いながら、私はとりあえずはタカトシ君を休ませてあげられている現状に文句は言わないでおこうと思った。
休ませないと何時か倒れそうだし……