タカ兄と一緒にウチにやってきた会長たちが、どうやらお昼を作ってくれるようだ。
「というわけで、コトミも少しは手伝え」
「私が手伝ったところで、かえって仕事が増えるだけなんですけどね」
「それは私たちも分かっている。だが何時までもお前をこのままにしておくわけにはいかないからな! 主にタカトシの為に!」
「そんな事言って、私が自立したら、タカ兄が使える時間が増えて、恋人を作る気になるんじゃないかって思ってるんじゃないですか~?」
「そ、そんな事は無いぞ!」
シノ会長が分かり易く動揺する。まったく、常にタカ兄を相手にしているからか、シノ会長は分かり易くて楽が出来る。
「まぁ、私も何時までも壊滅的な料理の腕じゃいけないって思い始めてるので、少しずつ出来るようになりたいなとは思ってるんで」
柔道部の遠征などで、お弁当の用意が出来ればそれだけで部費が浮く。まぁ、ムツミ先輩が凄い量食べるから、それで部費が圧迫されたりもしてたらしいけど……
「とりあえず、今日のところは私たちの作業を見て全体の流れを確認するように」
「わっかりました!」
元気よく敬礼をする私に、スズ先輩とアリア先輩が少し呆れた視線を向けてくる。
「あれ? そう言えばタカ兄は?」
「さっき会った畑に追加のエッセイを頼まれて部屋に向かったぞ。どうもトクダネとして扱う予定だったものがぽしゃったようで、その穴埋めをタカトシに頼んだとか」
「まぁ、桜才新聞の読者の大半はタカ兄のエッセイ目当てですからね~」
畑先輩には悪いけども、純粋に記事を読んでる人がいるのか疑わしいんだよね……定期購読している英稜高校の人たちだって、お目当てはタカ兄のエッセイだって言ってたし。
「コトミ、少し味見をしてくれ」
「味見ですね~。でも良いんですか? 私の舌はタカ兄に鍛えられているので、ちょっとやそっとでは満足しませんから」
まぁ、シノ会長の料理も美味しいから、特に問題は無いとは思うんだけど、素直に感想を言っても面白くないからね。
「うーん……もうちょっと味を濃くしてもいいと思いますよ」
「そうか……じゃあこれでどうだ?」
「うーん……」
「ならこれでどうだ!」
このやり取りを何度かしていると、段々と舌が麻痺してきて味が分からなくなってきてしまった。
「何度も味見をすると、味が分からなくなってきますね」
「そんなときは目を瞑れば良いのよ」
「目を?」
「人は情報の九割を視覚から得てるから、視覚を閉ざすと他の感覚が研ぎ澄まされるらしいのよ」
「へー、そうなんですね。暗がりHのメリットが分かった気がします」
「お前、人の話聞いてなかったな!」
ちょっとしたボケをかましたら、スズ先輩に脛を蹴り上げられた。この感覚、なんだか久しぶりだな~……
「……そろそろ、味見してくれるか?」
「了解です!」
何時までもふざけてるとタカ兄が部屋から下りてくるかもしれないので、私は真面目に味見係を再開したのだった。
今日はムツミとネネと一緒に遊んだ。その流れで部屋に招いて、今はまったりとした時間を過ごしている。
「くるしー……」
「どうかしたの?」
遊んでる時もそうだったけど、ムツミに何時もの元気がなかったので気にしていたけど、どうやら何処か調子が悪かったようだ。
「先生の奢りで、回転寿司に行って来たんだ。試合の祝勝会だったんだけどね」
「そういえば、この前の試合も快勝だったらしいわね。コトミから聞いた」
「うん、試合自体は問題なかったんだけど、さすがに十皿は食べ過ぎたかも」
「へぇ……」
ムツミにしては意外と普通ね……十皿なら平均くらいだし、これはムツミに対する考えを改めなければいけないかもしれないわね。
「カレーを」
「!?」
回転寿司に行って十皿食べたと聞いて、普通だと思ってたのに、まさかカレーを十皿も食べていたとは……タカトシでも食べれないと思うわよ、そんな量……
「ムツミちゃんは相変わらずいっぱい食べれて羨ましいな~。私なんて、そんなに食べられないと思うし」
「いやネネ……普通の人はカレーを十皿も食べられないと思うんだけど……」
何となく気まずくなって、私はテレビを点ける。映ったのはドラマで、丁度盛り上がりのシーンだった。
『愛してる……』
盛り上がりのシーンは良いんだけど、話の内容がよく分からないのにいきなりキスシーンって……まぁ、この程度で恥ずかしがるほど子供じゃないけど。
「小さい頃、キスで赤ちゃんが出来ると思ってたよー」
「ネネにもピュアな時代が――」
「こーゆーの見たら、キスにも避妊が必要だって思っちゃうでしょ?」
そう言ってネネが取り出したのは、避妊具を咥えているアイドルの写真。いったいどこから取り出したのかは気になるけど、とりあえず今言える事は――
「私の勘違いだったわね」
まったくピュアではなく、子供の頃から邪な考えを持っていたという事が分かった。
「へ? キスで赤ちゃんって出来ないの?」
「現役でピュアな子がいた!?」
ムツミとネネを足して二で割れば、丁度良い感じになるのかしら……
自分は寿司でも十皿も食べられない……