桜才学園での生活   作:猫林13世

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おかしな方向に話は進む……


ライブの興奮

 夏休みに入り、漸くだらだら出来ると思っていたら、今日はタカ兄もお義姉ちゃんも家にいないので、私が家事をしなければいけなくなってしまったのだ。

 

「まったく、こういう事は私には不向きだってわかってるでしょうに……」

 

 

 さすがに料理はタカ兄が作り置きしておいてくれたので、私がしなければいけないのは洗濯と掃除、後は食べ終わった後の片付けくらいなのだけど、もともと得意ではないから柔道部のマネージャーとして経験値を稼いでいるのだ。家で披露するほど上達もしていないし……

 

「まぁ、とりあえず朝ごはんを食べて、洗濯と掃除をしてしまおう」

 

 

 ちなみに、時刻は十時を過ぎている。朝ごはんと言うには少し遅い時間だし、普段なら遅刻確定の時間。夏休みに入ったばかりだというのに、早くも堕落してきているのだろうな……

 

「柔道部の練習が午後からでよかったよ……もし朝からだったら遅刻だし」

 

 

 とりあえずタカ兄が作ってくれていた朝ごはんをかっ込み、洗濯機を回して掃除を始める。とはいってもタカ兄とお義姉ちゃんが毎日掃除しているので、さほど汚れていないのだが。

 

「何で私にはあの手際の良さが無いのだろう……」

 

 

 タカ兄もお義姉ちゃんも、何の苦労もなくぱっぱと終わらせているのだが、私にはそれは出来そうにない。とりあえずは怒られない程度にちゃんとやっておこう……

 

「ん? そういえば、タカ兄は何処に行くって言ってたっけ?」

 

 

 横島先生からご褒美をもらったとか言ってた気がするけど、疲れてたから話半分でしか聞いてなかったんだよね……後でお義姉ちゃんに聞いてみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日に限って義姉さんも予定が入っているとかで、家にコトミ一人を残してきたが、やっぱり俺は断れば良かったかもしれない。

 

「タカトシ、何か心配事?」

 

「まぁ、家にコトミ一人を残してきたが、大丈夫なんだろうかと」

 

「魚見さんは?」

 

「朝からバイトで行けても夕方からだと」

 

「ご両親は?」

 

「相変わらず」

 

「……まぁ、コトミちゃんも高校生だし、何とかなるんじゃない?」

 

「スズ、せめてこっちを見て言ってくれ……」

 

 

 視線を明後日の方に向けて言われても、気休めにもなりやしないんだが……

 

「みんなにこれを渡しておこう!」

 

「サイリュウム、ですか?」

 

「ライブには必須だろ?」

 

「シノちゃん、楽しみ過ぎて昨日寝られなかったでしょ? 目の下に隈が出来てるよ?」

 

「そ、それはいま関係ないだろ!?」

 

 

 あぁ、そういえばシノさんはイベントの前日は寝られない事が多いんだっけ……

 

「と、ところで萩村」

 

「何ですか?」

 

「最前列付近とはいえ、ちゃんと観れるのか?」

 

「………」

 

 

 何かを考えこむスズを覗き込むシノさん。何となく嫌な予感がするのは気のせいではないだろうな……

 

「見えなかったら、タカトシを踏み台にしてでも――」

 

「せめて肩車で勘弁してくれ……」

 

 

 あまり興味はないとはいえ、せっかくライブに来たのに踏み台で終わるのは何となくもったいないし、そもそも踏み台になんてならないんだが……

 

「まぁ、タカトシがそれで疲れないっていうなら、肩車でいいわよ」

 

「てか、何で踏み台か肩車の二択なんだよ……」

 

「待て! 肩車だと後ろのお客さんに迷惑が掛かるかもしれない。だから、おんぶにしておけ」

 

「……余計に子供っぽく見えないですか?」

 

「背に腹は代えられないだろ? それとも萩村は、トリプルブッキングの三人が見えなくても良いのか?」

 

「グッ……分かりました。おんぶでお願いします」

 

 

 何故かシノさんに頭を下げたスズだが、おんぶするのは俺なんだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライブは熱狂を極めて終了し、私も大満足だ。ライブ前に感じていた萩村への嫉妬も、今ではだいぶ収まってきている。

 

「あー、楽しかったな」

 

「そうだね~。あまりの熱気に、昔の癖が蘇りそうになったよ」

 

「癖、ですか?」

 

「うん。ちょっと上着を脱ぎたくなったんだ~」

 

「まぁ一枚くらいなら――」

 

「ううん、全部」

 

「アンタはここで説教されたいんですか?」

 

 

 ライブ中ずっと萩村をおんぶしていた所為か、タカトシはだいぶ汗をかいている。疲れてはいないのだろうが、ここでアリアに説教を始めたら疲れ切ってしまうかもしれないな。

 

「まぁまぁタカトシ、心の中だけで踏みとどまっているんだから、説教はしなくてもいいんじゃないか?」

 

「……そうですね。一応大企業の一人娘として、それなりに顔を知られているアリアさんを公開説教なんてしたら、七条グループに影響ありそうですし」

 

「もし影響が出ても、タカトシ君が婿養子としてグループに入って、それ以上の利益を出してくれれば大丈夫だよ」

 

「……説教一つで人生決められたくないんですが。そもそも、怒った側が損害を被るっていったい……」

 

「損害は酷くないかな~? それとも、私ってそんなに魅力ない?」

 

「アリア! 公衆の面前で誘惑するなどはしたないぞ!」

 

「そうですよ! そもそも七条先輩はもっとしっかりしてください!」

 

「あの、目立ってるんでそろそろ移動しませんか?」

 

 

 私たちのやり取りで注目を集めてしまっていたようで、タカトシに促されて漸く私たちは移動する事にしたのだった。




説教しただけで人生決められるのはな……

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