カナ会長の代わりに津田家の家事一切を任されたのだけども、私は人様に自慢出来るような家事スキルは持ち合わせていない。そりゃ普通くらいには出来るんですが、カナ会長もタカトシ君も『普通』ではないから、代理と言われても困ってしまうのだ……
「サクラ先輩のご飯も美味しいですね~」
「そうですか? タカトシ君やカナ会長と比べれば、私なんて大したこと無いですよ」
「そりゃあの二人は別格ですから。毎日家事をしていれば、自然と成長していたとしても不思議ではないんですから」
「お前がもう少し出来れば、俺や義姉さんだって普通程度だっただろうがな」
「それは深刻な問題だね……」
タカトシ君の視線を浴び、コトミちゃんが困ったように視線を逸らす。この兄妹の力関係は実に分かりやすく、からかおうとしても返り討ちに遭うのだろう。
「(でも、タカトシ君みたいなお兄ちゃんがいたらって、ちょっと思ったりしないでもないな)」
私は一人っ子だし、カナ会長のようなお姉ちゃんか、タカトシ君のようなお兄ちゃんに憧れる節がある。まぁ、コトミちゃんのような妹は勘弁してもらいたいけど……
「ん? サクラ先輩、タカ兄の事をじっと見つめてどうしたんですか? 想像妊娠しちゃったんですか?」
「馬鹿な事言ってないで、さっさと宿題を終わらせろ。サボってたんだろ?」
「い、一応終わってるから……」
タカトシ君に睨まれて、コトミちゃんはすごすごと退散していった。怒られるって分かってるんだから、発言には気を付ければいいのに……
サクラっちに代理を頼んだから悪化はしていないけど、まだ手は痛い。生徒会業務は皆で分担してもらえるけども、コトミちゃんの面倒はそうはいかない。というか、下手にシノっちたちに頼むと、タカ君の負担が大幅に増えてしまうだろうし……
「――というわけで、今日もサクラっちに代理をお願いします」
「構いませんが、今日はタカトシ君もバイトお休みですよ? 何をすればいいんですか?」
「お買い物。そろそろ買い足しておかないといけない物がいっぱいあるから」
「……何故津田家の事情を会長が把握しているのか、深くは考えないようにしておきます」
普段から入り浸ってるからだという事はサクラっちも理解しているのだろう。だがそれを認めるのにどことなく抵抗を覚えたんだろうな……
「サクラっちに一言言っておきますが」
「何でしょう?」
「私はまだ、コトちゃん以外の義妹は欲しくありませんから」
「意味が分かりませんよ……」
「つまりですね――」
「会長は病院なんですよね? 早いところ行った方がいいですよ」
サクラっちに事細かに説明しようとしたのに、背中を押されて生徒会室から追いやられてしまった。
「サクラっちもまだまだ純ですねぇ……圧倒的リードを保ってるサクラっちでこれじゃあ、シノっちやアリアっちたちじゃどうなるんですかね」
あの二人が義妹になるというのも変な感じがするが、今度会ったら言ってみようかな……でもまぁ、タカ君に怒られるだろうし、出来る事ならタカ君がいない時にしよう……
生徒会業務を終え帰宅しようとしたら、校門の前で森と遭遇した。
「どうかした?」
「カナ会長が病院に行くので、今日も私が代理を頼まれたの。会長曰く『そろそろ買い足した方がいい物がある』らしいので」
「あぁ……確かにそろそろ買い足した方がいいかもな。だけど、無理に手伝ってくれなくても大丈夫だが」
「無理にじゃないよ。私が手伝いたいって思ったから手伝ってるんだよ」
「……なんだこの、甘酸っぱい青春の一ページ――をすっ飛ばして、結婚間近なカップルを見ているような感じは」
「何となく分かります、その表現」
私の苛立ちに同感してくれた萩村が力強く頷き、その隣ではアリアも複雑な思いが篭った視線を森に向けていた。
「買い出しは分かったが、我が校の校則で寄り道は禁止されている。なので一度家に帰ってスーパーの前で集合だ」
「分かりました!」
「それじゃあ後でね~」
「……何でついてくるんですか?」
私とアリアと萩村がそそくさと帰路に就いたのを見送ったタカトシが、そんな事を呟いたが、このままでは森の新妻感が半端なくなってしまうからな……ただでさえ、カナの通い妻感が凄いというのに……
誰に言い訳するでもなくそんな事を考えながら帰宅し、急ぎ着替えてスーパーの前に向かうと、既にアリアと萩村の姿があった。
「早いな……」
「森さんは油断できませんから」
「お似合いだとは思うけど、諦めるつもりも無いしね~」
最近はタカトシに対する好意を隠そうともしなくなってきた二人だが、それは私もか……長い事一緒にいるというのに、英稜の二人と比べると仲が進展していないわけだし、多少焦っても無理はないか。
「お待たせしました」
「早いですね、お三方」
「スーパーは戦場だ! そんな心持では良い物は買えないぞ!」
「……別に特売品を買いに来たわけじゃないですが」
「兎に角! 全員揃ったから中に入るぞ!」
タカトシの冷ややかな視線に耐えられず、私はそそくさと店内に逃げ込んだ。とりあえず、買い物デートは阻止出来そうだから善しとしよう……
デートじゃないから……