七条先輩に誘われて、私たちは七条家に遊びに行く事になった。
「いらっしゃい。随分と遅かったけど……もしかして迷った?」
「いえ、家の場所はすぐに分かったんですが……」
「ん~?」
私が言いにくそうにしてるのに気付いたのか、津田が続きを言ってくれた。
「門くぐってから迷いました……広いですね」
「そう? 私は慣れちゃったからそんな事は思わないけど」
そりゃ自分の家だもんね……いまさら広いとか言われてもピンと来ないか……
「出島さん、皆を案内してくれる? 私はちょっとお手洗いに行ってくるから」
「畏まりました」
リアルメイドの出島さんが、何処からか音も無く現れた。相変わらず不思議な人ね……
「此方です」
出島さんに案内されて、私たちは七条先輩の部屋に向かう……
「迷いました。広いですね、この屋敷」
「「えぇー!?」」
「自分が仕えてる屋敷で迷うなよ……」
津田が呆れ声でツッコミを入れると、向こうから七条先輩が手招きしてきた。
「お~い、こっちだよ~」
「スミマセン、実は最近このお屋敷に来たばかりで……正確にはこの仕事自体始めたのは最近なんです」
「そうなんですか」
「以前は何を?」
「開発関係の仕事をしてました」
開発関係……意外と頭脳派なのかしら。
「具体的に何を開発してたんですか?」
「肛門です」
「こうもん……学校とかにある門の事ですか」
「いえ、おしりです」
「………」
分かっては居たけど認めたくなかったのよね……同音意義語で誤魔化そうとしたけど、はっきりと言われてしまったらもう如何しようも無いわね……
「萩村、大丈夫?」
「何とかね……アンタこそ平気なの?」
「コトミが似たようなことを言ってたから」
「そうなの……可哀想な子ね」
「アハハ……」
津田の乾いた笑い声が廊下に響いたのだった……
アリアの部屋に到着して、その広さに驚いた。
「これが個人の部屋だと……」
「これでも狭いんだよ~」
これが庶民と金持ちの差か!?
「窓から立派な木が見えますね」
「あの木はね~、私の両親にとって思い出の木なんだって~」
思い出……良い話が聞けそうだな。
「察するに、あの木の下でプロポーズしたんですね」
「ん~惜しい!」
何だ、私もそう思ったが違うのか……
「正解は、あそこで○付けされて、私が生まれました」
「なるほど、以前言っていたのはこの場所なのだな!」
「そうだよ~」
「………」
「惜しい?」
萩村は絶句し、津田は首を傾げてるが、そんなにおかしな話だっただろうか……感動的な良い話だったと私は思うんだが……
「皆様、お茶をお持ちしました」
「ありがとー」
「あっ! スミマセンお嬢様、コンタクトを落としてしまいました。ドジッ子メイドの如く」
「あら大変」
「みんなで探そう」
出島さんのコンタクトを探す為に、全員で床を這い蹲る……今後ろから踏まれたら興奮するのだろうか……
「会長、もっと真面目に探して下さい」
「おろ」
津田に心を読まれたようだ……私ってそんなに分かりやすいのだろうか……
「こっちにはありませんね」
「私の方にもありませんでした」
「私も~、シノちゃんは如何?」
「コンタクトは無かったが……縮れ毛は三本ほど見つけた」
「まぁ!」
「もっと必死に探せよな!」
津田のツッコミの時に偶にあるタメ語がたまらなく興奮するんだよな……年下に罵倒される気分ってこんな感じなんだろうな……
「お嬢様、ありました」
「ホント~、良かったね~」
「何処にあったんですか?」
「目の中です」
「………」
落としたんでは無くズレただけだったのか……そりゃ探しても縮れ毛しか見つからないよな。
「お詫びと言っては何ですが、津田さんの肛門を開発……」
「結構!」
「せめてボケは最後まで言わせてください……」
津田のツッコミスキルは最近メキメキと上達していて、このように途中でぶった切るツッコミもあれば、完全にスルーするツッコミ、ノリツッコミもマスターしていてバリエーションが豊富なのだ。もちろんオーソドックスなツッコミもあるので、私たちはとても楽しく過ごせるのだ。
「そうやってワザとボケようとするの、止めてもらえません?」
「読心術ツッコミか!」
「ちげぇよ!」
津田を萩村が慰めるような視線で見ている……萩村もどっちかで言えばツッコミだったな。
コンタクト騒動のあとは、特に問題も起こらずに過ごせた。時間を見るともう良い時間だったのでお暇しようとしたら……
「良かったらご飯食べてって。皆が来るから、滅多に食べられないご馳走を用意したの」
と言われたのでご馳走になる事にした。
「滅多に食べられないものってなんでしょうね?」
「私が分かる訳無いだろ」
「私も、想像出来ないわ……」
金持ちが滅多に食べられないものなんて、庶民の俺たちには想像出来なかった……
「お待たせしました」
出島さんが持って来たものに、七条先輩が目を輝かせた。
「ありがとー!」
「……滅多に食べられないご馳走?」
「金持ちって、次元違うな……」
「そうですね……」
出島さんが持って来たのは、誰が如何見てもカップラーメンだった……これがご馳走って、普段どんなものを食べてるんですか、貴女は……
「食べたら帰るか」
「そうですね……」
「明日も早いですしね」
まだ七時になってないんだが、そう言えば萩村は夜早くに寝るんだったな……
「大丈夫? 門まで送るよ~」
「お任せ下さい」
「大丈夫ですか……」
「失礼な! 自分が仕えている屋敷で迷子になるとでも!?」
「うん」
「さっきなってた」
出島さんが自信満々に言ったが、現にさっき迷子になってたんだよな……
「大丈夫です! 毎日目隠しして散歩プレイしてますから!」
「自力で帰りまーす!」
この人と関わるのは良く無い気がする……俺たちはカップラーメンを食べ終えて即座に帰る事にした……玄関から門までの道程で、萩村がビクビクしていたのは気付かないフリをした。
アリアの縮れ毛、一万円から……え? いらない……まあそうでしょうね