桜才学園での生活   作:猫林13世

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早とちりで大変な目に


アクシデント

 壊れてしまった物を瞬間接着剤で直していたら、いつの間にか手に接着剤が付いてしまっていた。それ程焦る事ではないが、固まってしまっては面倒だし早く洗い流すか。

 

「タカトシ君、その手どうしたの!? 血が出てるじゃない!」

 

「いや、これは――」

 

 

 接着剤だと言おうとしたが時すでに遅し、カエデさんの手が俺の手とくっついてしまった。

 

「あ、あれ?」

 

「接着剤が手に付いただけだったんですが……」

 

「ご、ゴメンなさい……私ったら早とちりしちゃって……」

 

 

 確かこの接着剤はお湯で溶かせばすぐに外れるはずだし、ポットからお湯を用意して剥がすしかないか……

 

『シノちゃん、これってこれで良いの?』

 

『ああ、問題ない』

 

 

 ちょうど会長たちもやってきたし、事情を説明して剥がしてもらおう。俺はそう考えていたのだが、どうやらカエデさんは違う事を考えているようだった。

 

「どうしましょう……どうにかして誤魔化さないと」

 

 

 何故誤魔化す必要があるのだろうと思ったが、風紀委員長としての立場を考えて、男女が手を繋いでいるところを見られるのを避けたかったのだろうと考えて納得しておこう。

 

「……それで、君たちは何をしているんだ?」

 

「え、えっと……」

 

 

 何故腕相撲の格好で誤魔化そうとしたのか、その程度で誤魔化せると思ったのかは分からないので、俺は事情をシノ会長たちに話してお湯を用意してもらう事にした。

 

「生憎ポットの中は空だったが、そんなに時間もかからないだろう」

 

「ですがこの後予算会議が……」

 

「くっついたまま会議に出るしかないな」

 

「職員室にお湯があるはずですし、そこで剥がしましょう」

 

「だが職員室に行く間に、タカトシと五十嵐が手を繋いでいる光景が大勢に見られる事になるぞ?」

 

「そ、そんな事になったら大変です!」

 

「どこが~? カエデちゃん的には、ライバルたちに自慢出来るんじゃない?」

 

「先日手を繋いでいるカップルに注意したばかりなので、その私がタカトシ君と手を繋いでいたなんて噂になれば、今後注意しても効果が薄れてしまいます」

 

 

 校内恋愛禁止とは言うものの、実際に付き合っているカップルは少なくない。まぁ手を繋ぐ程度なら大目に見ていたんだが、どうやらカエデさん的にはそれもアウトだったようだ。

 

「アリアさん、職員室からお湯を貰ってきてもらえませんか? 俺は兎も角カエデさんの事情を考えれば、自分たちで取りに行くわけにもいきませんし」

 

「タカトシ君の頼みなら喜んで引き受けるよ。それじゃあカエデちゃん、もう少し満喫しててね」

 

「満喫?」

 

 

 我慢しててなら納得出来たんだが、この状況の何処を満喫しろと言うんだ、あの人は……

 

「タカトシも分からないフリは止めた方がいいぞ」

 

「……別に分からないフリをしているわけではありません」

 

 

 まさか会長からツッコまれるとは思っていなかったので、俺は少し間を開けてそう答えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この前は勘違いでタカトシ君とくっついちゃったけど、幸いなことに生徒会室の中だけの秘密になっているので、私を見る生徒たちの視線は前と何も変わっていない。

 

「(でもまぁ、手を繋ぐくらいは大目に見てあげた方が良いのかしら)」

 

 

 あまり破廉恥な事なら怒るけども、手を繋ぐ程度なら問題なしと判断した方が、それ以上を抑止する結果に繋がるのではないかと考えていると、背後から声をかけられた。

 

「少しよろしいでしょうか?」

 

「きゃっ!? は、畑さん……いきなり声をかけないでください」

 

「普通に背後から気配を消した話しかけただけですが?」

 

「気配を消して背後から忍び寄ってる時点で、普通ではありませんよ」

 

 

 タカトシ君なら人の気配を感じ取る事が出来るかもしれないけど、普通の人間は気配なんて感じ取れない。まして畑さんは足音まで消して近寄ってきたのだ。驚くなと言う方が無理だろう。

 

「それで、何か用ですか?」

 

「いえ、津田副会長とくっついた感想を聞きたいなと思いまして」

 

「ちょっとこっちに来てください!」

 

 

 何で畑さんがその事を知っているのかとか、いったい何が目的かと聞きたい事は沢山あったけども、まずは他人の耳を気にしなくて良い場所まで畑さんを引っ張り込んだ。私は兎も角、タカトシ君にまで迷惑をかける事になっては申し訳が無いからだ。

 

「ど、どこでその事を知ったんですか?」

 

「壁に耳あり障子に目あり、窓の外にランコあり、ですよ」

 

「また屋上からロープをたらしてたんですか……」

 

「記事にはしません。個人的な興味ですから、そこまで警戒しなくても大丈夫です」

 

「貴女の個人的興味って時点で警戒に値すると思いますが」

 

「私はただ、友人の恋路を応援したいだけですよ」

 

「胡散臭さが半端ないのだけど?」

 

「普段の言動からすれば仕方がないとは思いますが、こればっかりは本心です。私だって貴女の体質を本気で心配してるんですから」

 

「畑さん……」

 

 

 伊達に付き合いが長いわけではないので、今の彼女は嘘を言っているわけではないと理解出来た。

 

「恥ずかしかったですが、少し嬉しかったのも事実です」

 

「そうですか、頑張ってくださいね。ライバルは多いですし、今のところ英稜の森副会長が先頭をぶっちぎっていますので」

 

「それが何かは、あえて聞きません」

 

 

 それだけ言って畑さんは本当に去って行った。もしこれが記事になったら、私は男性恐怖症だけでなく人間不信にも陥りそうだな……




新たな格言が……違うかな

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