桜才学園での生活   作:猫林13世

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何処のニーズだ……


白雪王子様

 今月末に行われる芸術交流会に向けての準備の記録を残す為に、我々新聞部は総動員で取材を行っている。ちなみに部長の私は、今回の目玉となる演劇の取材を担当する事になっている。

 

「今月、桜才で芸術交流会があります。他校の方を招き、芸術を通じて親交を図る。我々はそこで演劇を披露します」

 

 

 映像に残すということで、私はナビゲーター口調でカメラに向かって話しかける。

 

「おっ、どうやらあの教室ですね。早速迫真の稽古場に潜入してみましょう」

 

 

 カメラマンを引き連れて稽古場に入ると、そこでは会長と副会長が台本の読み合わせをしていた。

 

「――こんな感じですかね?」

 

「もう少しクサくても良いと思うが」

 

「これ以上だと白々しくないですか?」

 

「稽古場ではそう感じるかもしれないが、本番なら盛り上がると思うぞ」

 

「うーん……」

 

 

 どうやら感情の入れ方を話し合っているようだが、先ほどから気になることが一つ。

 

「白雪王子様?」

 

「白雪姫を男、王子様を姫騎士に変更しました。時代のニーズに合わせて、オリジナリティを目指しました」

 

「男女逆転劇、というわけですね」

 

「はい。ちなみに騎士姫の国は、オーク軍団と交戦中という設定です」

 

「つまり『くっ、貴様らなどに屈しない!』というわけですか」

 

「何処のニーズだよ」

 

 

 脚本担当の轟氏と盛り上がっていたら、津田副会長にツッコまれてしまった。

 

「でも、性別逆になったらストーリーとかどうなるんですか? 自分よりきれいな姫に嫉妬した王妃が、毒リンゴを食べさせるんですよね?」

 

「その辺は抜かりないよ!」

 

 

 津田副会長の疑問を解決するかのように、王妃役の七条さんと、魔法の鏡役の風紀委員長の読み合わせが始まった。

 

「鏡よ鏡、この世で一番キレイなのは誰?」

 

「白雪王子でございます」

 

「よーし、さっそく汚しに行こう!」

 

「王妃をドSにしました」

 

「脚本変えろ! 交流会で発表するんだろうが!」

 

「確かに、これでは桜才の品位を落としかねないな……そうなった場合、脚本担当である轟が責任を取る事になるかもしれないな」

 

「が、頑張って変更します!」

 

 

 津田副会長と天草会長に脅され、轟氏は急いでPCで作業を開始する。恐らくさっきの部分の修正を行っているのだろう。

 

「おんや~? 萩村さんは小人役なんですね~。とてもお似合いです」

 

 

 私は事前に知っていたけど、ここでは知らない態で話を進めている。その方がより臨場感が伝わるからだ。

 

「妖精って少し憧れていたので、ちょっと嬉しいです。まぁ、身長で選ばれた感はありますが」

 

「その気持ち分かります。私も実は、妖精に憧れていた時期があるので」

 

「そうなんですか?」

 

「妖精オ〇ホとか」

 

「今の部分カットで」

 

 

 私の発言に対して津田副会長がカメラマンに指示をして、その後私に対する説教が始まってしまった為、読み合わせは一時中断となってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白雪姫が原作という事で、陶然の如くキスシーンが存在する。一度ガラス越しではあるがしたことがあるとはいえ、かなり緊張してしまうな……

 

「シノちゃん、固まっちゃったね。照れちゃって」

 

「演技だというのに、会長はこう言うところは意気地なしですよね」

 

「唾液をためているところでしょ? プレイの為に」

 

「演技だからそーゆーの無いって」

 

「聞こえてるぞ!」

 

 

 私たちの練習を見ながら話していた三人にツッコミを入れ、私は唇が触れるギリギリまで顔を近づけ、向こうからはキスをしてるように見える角度に顔を背けた。

 

「はい、OKです」

 

「どうやら今日の練習はここまでのようですね。では私たちもこれで」

 

「編集作業には同行させてもらいますので」

 

「分かってます」

 

 

 新聞部の連中が去って行ったのを見てから、私は全身に入れていた力を抜いた。

 

「まったく、人前でキスなど破廉恥極まりないな!」

 

「まぁフリですから」

 

「これはそうだが……」

 

 

 そう答えてから、私はタカトシの唇をジッと見つめる。そういえばこいつは、人前でキスをしたことがあったな。

 

「なにか?」

 

「い、いや! 何でもないぞ!」

 

 

 ジッと見つめていたのがバレ、恥ずかしくなった私は大声でそう答えた。

 

「明日も早朝から練習だ。しっかりと歯を磨いて寝よう」

 

「はぁ……」

 

「あ……これは生活のエチケット的な意味であってキスのエチケット的な意味じゃなくって、だから私が特別意識してるわけでは無いというわけで、一度でいいからしてみたいとか思ってるわけじゃないからな!」

 

「シノちゃん、慌てすぎじゃない?」

 

「焦り過ぎて、本音が出てますし」

 

「なにっ!?」

 

「お疲れさまでした」

 

 

 私が動揺してるのを見て、タカトシは一人で先に稽古場を出て行ってしまった。残された私は、アリアと萩村から鋭い視線を向けられているが、アリアは私の事を責める権利は無いと思うのだが。

 

「というか、シノちゃんは人前でタカトシ君とキスしたいんだ」

 

「あ、アリアだって私たちの前でしたじゃないか!」

 

「でも今回は大勢の前だよ? シノちゃん、そんなことして恥ずかしくないの?」

 

「うっ……考えただけで恥ずかしくなってきた」

 

 

 こんなんで本番大丈夫だろうかとか考えてしまうが、とにかくフリなのだから、そこまで考えなくても大丈夫なはずだ……大丈夫だよな?




さすがに学校の名誉を傷つけたとなるとな……

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