生徒会室の備品を壊してしまって、どうしようか悩んでいたら、タカトシ君がやってきたので瞬間接着剤で補修してもらう事にした。
「新しいのを買った方が良いと思いますけど?」
「でも、壊れたのが取っ手だけだし、直せるなら直した方が予算の無駄遣いを防げるじゃない?」
「そうですね。でもまぁ、あくまでも応急処置ですから、ダメだと判断したら買った方が良いですよ」
「分かった~」
タカトシ君の言葉を素直に受け入れて、私はタカトシ君の作業をじっと見詰める。普段の作業の時もそうだけど、こうやって集中しているタカトシ君は、普段とは違うカッコよさがあるんだよね。
「これで後は接着剤が固まれば大丈夫だとは思いますよ」
「ありがと~」
「……ん?」
「どうかしたの?」
タカトシ君が視線を下に降ろして首を傾げたのを見て、私は何か問題があったのかと少し慌てる。
「いえ、気付かない内に接着剤を零してたようで、ズボンに垂れていたものでして」
「早いところ拭かないと固まっちゃうね」
「そうですね」
タカトシ君がティッシュに手を伸ばそうとしたタイミングで、廊下からシノちゃんとスズちゃんの声が聞こえてきた。
『今日は廊下が濡れて滑りやすいから、気を付けないとな』
『そんなミスしませんって』
そんな話をしながら生徒会室に入ってきたスズちゃんだったが、入ってきて早々に足を滑らせてタカトシ君の膝の上に着地した――接着剤がある所にお尻を乗せて。
「ご、ゴメンタカトシ……」
「いや、別に良いんだけど……接着剤を零してたから、もしかしたらくっついちゃったかもしれない」
「えぇ!?」
慌ててスズちゃんが立ち上がろうとしたけども、やっぱり接着剤でくっついちゃったようで、タカトシ君の体重に引っ張られてスズちゃんは立ち上がる事が出来なかったのだった。
ちょっとした失敗でこんなことになってしまうとは思ってもみなかった……まさかタカトシの膝の上から動けなくなるとは……
「接着剤という事なら、お湯を使えばすぐに剥がれるだろう」
何処か冷静さを保とうとしているのが伝わってくる会長の言葉だが、確かにお湯があればこんなのすぐに剥がれるわよね。
「アリア、お湯を持ってきてくれ」
「はーい……あら?」
「どうかしたのか?」
ポットを持ってきた七条先輩だったが、蓋を開けて固まってしまった。
「生憎お湯を切らしてるみたいなの~」
「そうか……二人とも、尿意は?」
「沸くまで待つわ! というか、変な事を聞くな!」
「す、すまん……動揺してつい」
「どんな『つい』だよ……」
タカトシがツッコんでくれたから何とかなったけど、相変わらず会長の思考は分からないわね……
「さて、お湯が沸くまで待つのは良いのだが、その恰好は絵面的に問題があると思うんだが」
「そうでしょうか? 事情を話せば五十嵐さんや畑さんも分かってくれると思うんですが」
「そうかもしれないが、畑は取材もせずに記事を書く可能性があるから、そういう問題を摘み取っておくためにも、萩村がスカートを脱いで離れておく必要があると思うんだ。ジャージならここにあるから、一時的にスカートを脱いでも問題ないだろ?」
「ですが、タカトシに下着を見られてしまうじゃないですか」
「その点なら問題ないと思うよ~? スズちゃんが滑って転んでから今まで、タカトシ君は眼を瞑ってるから」
「後ろから萩村の下着が覗き込めるわけか」
「高さ的にちょうどいいんだろうけど、さすがタカトシ君だよね~」
まさかそんな気遣いをさせていたとは……後ろが見えないから気づかなかったけど、タカトシには申し訳ない事をしたわね……
「それじゃあ、ちょっと脱ぐから……動くけど我慢してよね」
「分かってる」
タカトシに声をかけてから、私はスカートを脱ぐためにもぞもぞと身体を動かす。多少こちらもくすぐったいけども、我慢出来ない程では無かったし、七条先輩に手を借りて何とかタカトシの膝の上から脱出する事に成功したのだ。
「(全く見ようとしないのも面白くないし、ここは少し煽ってみるか)」
「(面白そ~)」
会長と七条先輩の悪戯心に火が点いたようで、二人は何かを打ち合わせしてから声量を上げた。
「スズちゃん、随分と可愛いパンツだね~」
「へ、変な事言わないでください!」
「というか萩村、お前、なんて恰好してるんだ」
「はいっ!?」
確かにスカートを脱いだことで下着が丸見えだが、それはこれからジャージを穿けば問題無いわけで――
「スズちゃんがあられもない姿に!?」
「Rー18級だ!」
「おい、余計な事を言うな!」
二人の煽りにも全く反応を見せないタカトシに、ちょっと苛立ちはしたけど、それ以上に会長と七条先輩の悪ふざけに嫌気がさしてきたので、私は二人にツッコミを入れてジャージを穿いた。
「タカトシ君の鉄の心はこれくらいじゃ動じなかったね~」
「まぁ、私は最初から信じていたがな」
「シノちゃんがやろうって言ったんじゃないの~」
「あの……お湯が沸いたのでタカトシをそろそろ解放してあげた方が」
「おっと、そうだな」
漸く沸いたお湯のお陰で、私のスカートはタカトシのズボンから剥ぎ取る事が出来た。もちろん、万事解決とはいかず、会長と七条先輩はタカトシに怒られる事になったのだったが、それは自業自得よね。
そして怒られる先輩二人……