桜才学園での生活   作:猫林13世

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コトミの尻拭いで大変な事に……


タカトシの執事体験

 この間コトミちゃんの鍵紛失の時に『困った事があったら言ってくれ』といわれたのを思い出して、私はタカトシ君に相談する事にした。

 

「ちょっと困った事態になっちゃったんだけど、相談してもいいかな?」

 

「俺で解決出来る事なら」

 

「実はね――」

 

 

 私の説明を聞いて、タカトシ君は「そういう事なら」といってウチにやってきてくれた。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様。……おや? これは津田様。本日はどのようなご用件で?」

 

「実は橋高さんの事を話したら、数日で良いならって執事代理を引き受けてくれたんだ~」

 

「そうでしたか。それでしたら、さっそく着替えていただきましょう」

 

 

 何やらやる気満々でタカトシ君を連れていった出島さんだけど、なんだか不安になるのはどうしてなんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 津田さんに部屋の掃除をお願いしたら、いつも以上に綺麗に仕上げてくれた。

 

「このぐらいで良いんですかね?」

 

「問題ありません。むしろ、正式に契約したいくらいの完成度です。手際も良く、床や絨毯を傷めないような丁寧な清掃法、高校生をやらせてるのがもったいないくらいです」

 

「そこまで言われると何だか恥ずかしいですが、高校生はやらせてください」

 

「もちろんです。では次は、お嬢様に紅茶をお持ちしてください」

 

「紅茶ですか……」

 

「何か問題でも?」

 

 

 津田さんにしては珍しく困ったような表情を浮かべていたので、私はついつい弱みを見つけたような気持で尋ねた。

 

「普段緑茶かコーヒーばかりなので、紅茶の正しい淹れ方がちょっと……」

 

「そうでしたか。では、試しに私が淹れて見せましょう」

 

 

 

 津田さんに物事を教えるチャンスなど滅多にないので、私は喜々として紅茶の美味しい淹れ方をレクチャーする事にした。

 

「高い位置から注ぐことで、お湯に空気が含まれ味が良くなります」

 

「なるほど」

 

「では、やってみてください」

 

 

 一度実演しただけで、津田さんは理解したようですが、こればかりは慣れですからね。一回で成功されたら私の立場というものが――

 

「なかなか難しいですね」

 

「いえ……結構なお手前で」

 

 

 普通なら手に掛かりそうとか、バランスを保つのが難しいとかなりそうなところを、タカトシさんは多少危なっかしい感じはありながらも、しっかりと紅茶を淹れる事に成功していた。そして、味もなかなか悪くないものでした。

 

「本当にただの高校生なのですか? 実はどこかで執事のバイトをしているとか」

 

「そんなバイトしてませんし、そんなのあるんですか?」

 

「メイド喫茶というものがあるのですから、世界のどこかに執事喫茶というのがあってもおかしくはないのではないでしょうか?」

 

「いや、疑問形で言われても……」

 

 

 津田さんが困ったように私を見つめてくる。なんだか癖になりそうな視線だけど、ここで蕩けていては職場の先輩としての威厳が丸つぶれですね。

 

「では、残りの掃除をお願いします」

 

「残っているのは、お風呂、トイレ、キッチンの三箇所ですか」

 

「では、キッチンは私がしますので、お風呂場とトイレをお願いします」

 

「分かりました」

 

 

 ここで私がお風呂を選んでいれば、あのような事件は起こらなかったのかもしれませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出島さんに言われ、風呂場とトイレの掃除をする事になり、まずトイレ掃除を済ませてから風呂場に向かった。

 

「えっと、掃除道具は――」

 

「えっ?」

 

「ん?」

 

 

 掃除道具を持って浴室に入ると、中にアリアさんがいた。俺は咄嗟に視線を逸らして脱衣所に戻ろうとしたが、それよりも早くアリアさんの手が俺の腕を掴んでいた。

 

「掃除しに来たんでしょ? ちゃんとしなきゃダメだよ?」

 

「ですが、アリアさんが使っているのですから、掃除は無理ですよ。終わったら声をかけてください」

 

「私は気にしないし、もう見ちゃったんでしょ?」

 

「はい」

 

 

 ここで見てないと誤魔化すような不義理は働かないで、俺は素直に見たと白状する。一瞬ではあるが、見えたのは確かなのだから。

 

「タカトシ君なら、じろじろと見ることも無いだろうし、私はもう出るところだから気にしないで」

 

「そういう事なら……」

 

 

 俺はアリアさんの言葉に従い、なるべくアリアさんの姿が見えないところから掃除を始める。だが一向にアリアさんが出ていく気配がしないので、途中で騙されたと気付いた。

 

「七条先輩」

 

「その呼び方は嫌だな」

 

「何故あのような嘘を?」

 

 

 あえて呼び直さずに話を続けると、少し不機嫌な雰囲気が浴室に流れ始める。そして何を思ったのか、アリアさんはそのままの格好で俺に抱き着いてきた。

 

「少しでもタカトシ君に意識してもらいたかったから。それじゃあだめかな?」

 

「意識してますよ。というか、こんなことをして、怒られると思わないんですか?」

 

「今はタカトシ君が執事で私が主だもの。主に怒る執事なんていないよ?」

 

「年頃の淑女が、そのような姿で異性に抱きつけば、注意するのも従者の務めですよ」

 

「相変わらずタカトシ君は真面目だね。じゃあ、後で私のお願いを聞いてくれれば、ここは退散してあげる」

 

「内容にもよりますね」

 

「膝枕をしながら耳かきをして欲しいの」

 

「まぁ、それくらいなら……」

 

 

 完全に執事の仕事ではないだろうが、この事を言いふらすと言い出さない為にも、ここは素直に言う事を聞いておこう




掃除に集中してたので、気配を見落とすとは……

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