桜才学園夏の特別行事として、臨海学校・林間学校のW開催が決定した。ちなみに、どちらに参加するかは生徒の自由だが、参加しないのは認められていない。
「希望者は臨海学校の方が多いようですね」
「そうだねー」
ちなみに、我々生徒会役員+コトミは、臨海学校に参加希望を出している。
「それにしても、男子の殆どが臨海学校とは……そんなに水着が視たいのか?」
「俺に聞かれても知りませんよ……」
タカトシが臨海学校に参加希望を出した理由は、横島先生や畑さん、コトミがこちらに参加する気満々だったからである。さすがにこのメンバーをタカトシ無しで黙らせるのは、私たちだけでは不可能だからと萩村が頼み込んだのだ。
「ウチの男子は虫が苦手なヤツが多いですから、それも原因なのでは? 山の中は虫が多いですし」
「軟弱な男どもだなー。タカトシは問題ないんだろ?」
「まぁ特に苦手なものはいませんね。かといって、台所のアイツを頻繁に見たいわけではありませんが」
「それはまぁ……私たちも見たくはないな」
むしろあれを見たがる人間などいるのだろうか? 少なくとも女子であれが好きだという人間は、私が知る限りいたことが無い。
「とりあえず今度の休みに、我々も臨海学校に備えた買い物をしようではないか!」
「楽しみだね~」
「それって俺もですか?」
「アンタがいないと、この二人が暴走しちゃうでしょ!」
「はぁ……また義姉さんにコトミの事を頼むか……」
「補習は免れたんじゃなかったの?」
「リーチ懸かってるのには変わりないから……」
力なくうなだれたタカトシに、私たちはかける言葉が見つからなかった。
買い物当日。コトミの事は義姉さんにお願いしていて、俺は待ち合わせの場所で三人を待っていた。途中で畑さんがいるのに気づいたので、何かしでかしたらすぐに捕まえられるようにしておこうと心に決めたのだった。
「悪いな、待たせてしまって」
「いえ、女子の買い物に俺がついていくのもあれですから」
「せっかくタカトシ君に新しい水着を選んでもらおうと思ったのにな~」
「水着売り場に男一人と言うのは、かなりの拷問だと思うんですけど」
「タカトシ君なら気にしないでしょ?」
「俺は兎も角、周りの女性が気にするでしょうが……」
不本意ながら、そういう場所に行くのに慣れてしまっているので、今更ドキドキもしないけど、他の客が俺を見てどう思うかは、恐らく想像通りだろう。
「慣れてるって、私たちそんなにタカトシの事を連れまわした覚えはないぞ?」
「コトミの下着を買ったり、義姉さんに付き合わされたりしてるんです」
「あぁ……主夫だったな、タカトシは」
いい加減自分で買いに行けと言っているんだが、アイツに金を持たせるとろくなことが無いから、最近は義姉さんにお願いして買ってきてもらう事にしたんだが、何故か義姉さんは俺を連れていきたがるのだ。
「(副会長はEDっと)」
「何してるんですかね?」
何だかまったくの出鱈目を書かれた気がして、俺は畑さんに鋭い視線を向けた。その視線に気付いた畑さんが、慌ててメモ用紙を破り捨てたのを見て、とりあえずは放置する事にした。
「そう言えば私、枕が変わると寝られないんだよね」
「ですが、さすがに枕を持っていくのはかさばるのでは?」
「そうだよね……シノちゃんは平気だっけ?」
「ああ。私はどんな枕でも寝られるぞ」
「(会長はビッチだった……)」
「限定的な枕にするな!」
「シノちゃん、どうしたの?」
「いや、なんだか誰かに貶された気がしてな……」
会長も感じ取ったようで、俺は音も無く畑さんの背後に回り込み、彼女を会長の前に突き出した。
「やっ」
「お前か……言っておくがそういう類の枕じゃないからな」
「会長はどんな枕を想像したんですかね~?」
「というか、何処から覗いてたんですか……」
畑さんの存在に気付いていなかったスズが、驚きを隠せない表情で畑さんを見ているが、何時もの事かと自己完結してそれ以上興味を向けなかった。
臨海学校出発の朝、私はタカトシとコトミを迎えに行くために津田家を訪れた。タカトシ一人なら心配ないんだけど、コトミはね……タカトシ一人だと苦労するかと思って来ただけで、ポイントを稼ごうとか思って無いから!
「誰に言い訳してるんだ?」
「な、何でもないわよ」
「コトミちゃん、忘れ物は無い?」
「大丈夫でーす」
「気を付けてね」
「お土産楽しみにしててね」
「それじゃあ、行ってらっしゃい」
「「「行ってきます」」」
当たり前のように見送られたからスルーしたけど、何でこんな時間に魚見さんがいるんだろう……
「義姉さん、昨日から泊ってるんだよ。留守中は家の事を任せたし、着替えも置いてあるから」
「そうなんだ……って、私声に出してた?」
「スズ先輩は顔に出やすいから~。私でも分かりましたよ」
「そ、そんな露骨じゃないわ!」
確かに気になったりはしたけど、そんな露骨に顔に出した覚えは……
「(無いと言い切れる自信が無かった……)」
ちょっとだけ嫉妬してたから、コトミに対して強く出られなかった自分が恥ずかしい……というか、タカトシに見られた……穴があったら――
「挿入りたい!」
「余計な文字を付けるな!」
「貴様、良く分かったな」
だんだんと毒されてる自覚はあるけど、何で分かっちゃったんだろう……
畑さんとコトミはあんまり変わってないな……