桜才学園での生活   作:猫林13世

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傘を右手で持つから左側がびしょびしょ


雨の日の登校

 生徒会に上がってくる案件は、日々増えている。今日も保健委員から相談を持ち掛けられ、我々で協議する事になった案件がある。

 

「最近、保健室の私的利用が目立っているそうだ」

 

「私的利用、ですか?」

 

「具体的には、仮眠をとるために使われているらしいの。勉強や部活疲れもあるかもだけど……」

 

「もはや休憩室感覚ですね」

 

「そう言えばこないだ、コトミも保健室で寝てたらしいな」

 

 

 ふと思い出したことをタカトシに確認すると、タカトシは申し訳なさそうな顔で頭を下げた。

 

「妹が申し訳ありませんでした」

 

「いや、別に糾弾するつもりじゃないから、そこまで申し訳なさそうにしなくても良いぞ? コトミだって具合が悪かったとか、そういう理由だったかもしれないし」

 

「夜遅くまで義姉さんに勉強を見てもらってたのは良いんですが、授業中に眠くなって仮病を使ったとか、そんなところだと思いますよ」

 

「あり得そうだな……」

 

 

 さすが長年コトミの兄をやっているだけあるのか、行動理由が手に取るように分かるようだな。

 

「今後保健室の私的利用を防ぐために、保健委員と共同で対策に取り込む事となっている」

 

「普通に注意するだけでは減らないでしょうし、何か罰を設けるというのはどうでしょう?」

 

「具体的には?」

 

「授業をサボっているわけですし、内申に響くのは当然として……サボった分だけ赤点の基準を上げるというのはどうでしょう? そうすればむやみにサボろうとする輩はいなくなると思いますが」

 

「だが、タカトシや萩村のように、頭のいいヤツがサボり始めるかもしれないぞ? その場合はどうするんだ?」

 

 

 タカトシや萩村のようなヤツが他にいるとは思っていないが、ある程度サボっても点数を確保出来る人間はいるかもしれないからな。そういう連中に対する抑止力も考えておかないといけないだろう。

 

「女子だったら大門先生の熱血指導、男子だったら横島先生の邪な指導はどうです?」

 

「……絶対に嫌だな、その罰は」

 

 

 タカトシが考える罰則に、私たちは顔を顰めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 珍しくタカ兄が早く出かけなかったので、今日は私も一緒に登校する事が出来た。と言っても、タカ兄に起こしてもらって漸くなんだけど……

 

「この時期は雨ばっかりで嫌になるな……洗濯物も乾きづらいし」

 

「よし、占ってみようっ!」

 

 

 タカ兄の主夫的発言は兎も角として、確かに毎日雨ばかりだと気が滅入ってくるもんね。

 

「あーした天気になーれ!」

 

 

 履いていた革靴を前に蹴りだし、靴占いをする。これで晴れが出れば、タカ兄の気分も少しは晴れてくれるかな。

 

「おい、靴が濡れるぞ」

 

「あっ」

 

 

 雨が降ってるのにそんなことをすれば靴が濡れるのは当然だったが、私はその事を失念していた。しかも運が悪い事に、占いの結果は晴れだった。

 

「ど、どうしよう……」

 

「洗濯物を増やすな……」

 

 

 タカ兄には呆れられるし、靴の中に雨水は溜まっていく一方だし、私は踏んだり蹴ったりな結果に憤慨した。

 

「おはよう……って、何でコトミちゃんは怒ってるの?」

 

「靴占いをしたら晴れが出やがったんです!」

 

「え? それなのにキレてるの?」

 

「靴がびしょびしょで、その靴を履いた所為で靴下もびっしょりに……」

 

「あー……」

 

 

 スズ先輩にも呆れられちゃったし、靴占いはろくな結果を招かなかった。

 そんな事があった翌日、占い通りなのかは分からないが、見事な晴天となっていた。

 

「ねぇトッキー」

 

「何だ?」

 

「私昨日『プールも雨で中止。どうせ濡れるんだから雨でもやればいいのに』って言ったよね?」

 

「あぁ。そんな事言ってたな。だが、何で今そんなことを?」

 

 

 晴れたお陰でプールの授業も出来たので、私はトッキーと昨日の会話を思い返していた。

 

「だから、もう濡れてるんだし、わざわざトイレに行く必要も――」

 

「横着しないで早く行け!」

 

 

 トッキーに怒られ、私は仕方なくトイレに向かった。なんであそこまで怒ったんだろう……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会の決定に納得がいかなくて、私は生徒会室に対抗案を持っていきました。

 

「――こればっかりは譲れません! 同意してくれるまでこの場を動きませんから!」

 

「しかしだな、これでは男子生徒に一方的ではないか?」

 

 

 私が持ってきた対抗案に目を通し、天草会長の意見はこれでした。確かに少し男子生徒に負担を掛け過ぎかもしれないという自覚はありますが、これくらいしなければ風紀は改善されないのです。

 

「まぁ、お茶でも飲んで落ち着いてください」

 

「あ、ありがとう」

 

 

 タカトシ君がお茶を差し出してくれたので、私は反射的にそのお茶を受け取り、それを飲もうとして廊下から視線を感じた。

 

「何してるんですか、貴女は」

 

「いえ、動かない風紀委員長に水分を摂らせ、お漏らしをさせようとしている副会長を撮ろうと……」

 

「そんな事考えるわけ無いだろうが」

 

「何だ、つまらない」

 

 

 タカトシ君が畑さんを撃退し、呆れた表情でこちらに振り返ったのを見て、私は安心してお茶を飲むことにした。実はちょっとだけ、私も畑さんと同じような事を思ったのだけど、タカトシ君にバレてないよね?




邪な人が多い空間だ……

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