桜才学園での生活   作:猫林13世

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気付かなくてもしょうがない


不機嫌な萩村

 アリアと二人で生徒会室にやってくると、何故か萩村がご立腹で、タカトシが困ったような表情で頬を掻きながら書類を処理していた。

 

「萩村と喧嘩したのか?」

 

「いえ、なんだか急に機嫌が悪くなったようでして……」

 

「急に? それは珍しいな」

 

 

 タカトシが何か無神経な事をした、なんてことは無いだろうし、いったい何が原因なのだろうか……

 

「萩村、いったいどうしたというんだ?」

 

「いえ、先ほど高い所の物を取ろうとして踏み台に乗ったんですけど、ちょっとバランスを崩しまして……」

 

「怪我は無かったのか?」

 

「はい。タカトシが受け止めてくれましたから」

 

「なら何で機嫌が悪くなってるんだ?」

 

 

 タカトシに受け止めてもらったのなら、むしろ機嫌がよくなると思うのだが……

 

「その時に胸タッチハプニングを起こしておきながら、気付かないんです!」

 

「あー……」

 

 

 確かに萩村の胸なら、触っても気づかない事もあるかもしれないな……現に、この間私がタカトシの後ろで馬に乗っていた時も、胸が当たっても気にしなかったし……

 

「思い出したら何だか腹が立ってきたな……」

 

「どうしたの~?」

 

 

 私と萩村は、タカトシにではなく、アリアの胸に鋭い視線を向ける。この胸が当たった時、タカトシは若干ではあるがアリアを意識したんだよな……

 

「とりあえず、タカトシが何らかの謝罪をしてくるまで、私は許しませんから!」

 

「まぁまぁ、生徒会の仲が拗れたままだと大変だから、手を繋いで仲直りだ!」

 

 

 そう言ってタカトシの右手を私が、左手をアリアが繋ぎ、アリアのもう一方の手と萩村の手を繋いだ。

 

「むぅ!」

 

「何だか余計に機嫌が悪くなってませんか?」

 

 

 タカトシに指摘されて、これでは萩村が嫉妬するだけだと気が付き、私たちは繋いだ手を離したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当はタカトシが悪いんじゃないって分かってるんだけど、女として意識している相手に胸を触られて無反応だという事実を受け入れるのに抵抗があるのだ。

 

「ところで、タカトシは萩村が突然不機嫌になった割には落ち着いているな」

 

「子供の頃、コトミが良く訳が分からない拗ね方をしていたので」

 

「なるほど、慣れているんだな」

 

「(妹扱いかよ!)」

 

 

 タカトシの中で私がどう思われているのかを知り、私はますます機嫌を損ねた。まぁ、タカトシのような人から見れば、私なんてお子様なんでしょうけどもね!

 

「スズちゃん、口をとがらせてどうしたの?」

 

「何でもありません!」

 

「あっ、スズ口か!」

 

「タカトシの前以外でも止めろ!」

 

 

 出数は減ってきているとはいえ、七条先輩の下ネタ発言は勘弁願いたいのよね……ツッコむ度に、私の中で何かが崩れていくような感覚があるから。

 

「こんな時に頼むのもあれなんだが、二人で倉庫整理をしてきてくれないか? また横島先生が散らかしたらしいんだ」

 

「何で馘にならないんですかね、あの人は……」

 

 

 タカトシは特に気にしてないようだけど、この状況で二人きりははっきり言って避けたい。私が勝手に気まずくなっているのは分かっているんだけど、それでも何とかして誰かと変わってもらいたかった。

 

「私とアリアは、これから新聞部に行く用事があるからな」

 

「また何かしたんですか?」

 

「コーラス部への取材要請がしつこいと苦情がきてな。とりあえず注意という形をとるから、私とアリアで十分だと判断した。タカトシが行くと説教になるし、萩村では畑相手にやりにくいだろ?」

 

「それは、まぁ……」

 

 

 仮にも先輩に対して強く出るのは、私もやりにくいけど……だけど何でこのタイミングでそんな事になるのよ!

 

「さて、さっさと片づけを終わらせるとするか」

 

「そうね」

 

 

 タカトシの方は気まずさなんて全く感じてない様子で、テキパキと片づけを進めていく。こうなれば私も、気にしないようにしなければ。

 

「この段ボール、重っ……」

 

「俺が持とうか?」

 

「いいっ!」

 

 

 ここでタカトシに頼るのも何となく癪だったので、私は無理矢理段ボールを持ち上げようとして――

 

『ブチっ』

 

 

――何かが切れる音を聞いた。

 

「へっ?」

 

 

 音がした方に視線を向けると、スカートのホックが壊れたみたいで、ものの見事にパンツが丸見えになっていた。不幸中の幸いなのか、タカトシの方からは段ボールの陰になって私のパンツは見えていないようだが。

 

「(どうしたら良いんだ……)」

 

 

 逃げだすにしても、この状況で外に出るわけにもいかないし、かといってタカトシに代わりのスカートを取ってきてもらうのも恥ずかしいし……

 

「スズ?」

 

「な、何でもない!」

 

 

 頬を赤らめながら必死に答える私を見て察したのか、タカトシは自分のブレザーを脱いで私に渡してくれた。

 

「それでとりあえず隠して。保健室で替えのスカートに履き替えれば」

 

「それしかなさそうね……」

 

 

 タカトシのブレザーは、私が着ると丁度スカートを履いている時と同じくらいの長さになる。だから当面を凌ぐには最適のアイテムだ。

 

「その……ありがとう」

 

「どういたしまして、で良いのかな? 特に何もしてないけど」

 

 

 こう言ったときにこういう事が普通に出来る男子がどれくらいいるのか、タカトシは分かっていないようだ。まぁ、この行動に免じて、胸タッチハプニングについては不問にしてあげようかしらね。




スズ程度じゃ気付かn……

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