桜才学園での生活   作:猫林13世

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熱中症になりそうな感じがする


暑い日の草むしり

 美化委員の活動の一環として草むしりに参加した我々は、暑くなったので上着を脱いで作業していた。

 

「少しの時間を空けただけで、随分と草も伸びな」

 

「この時期は油断するとすぐ伸びますから、こまめに刈るのが一番なんですけどね」

 

「そんな暇もなかなか無いでしょうし、学校のとなると尚更面倒だと思う人が大勢いるんでしょうね」

 

 

 萩村の感想に、タカトシが嘆かわしげに首を振り、作業を再開する。

 

「しかし、前も思った事だが、目の届かないところに手を突っ込むというのは、なかなか度胸がいるな」

 

「シノちゃんって結構ビビりだもんね~」

 

「なっ!? そ、そんなことはないぞ!」

 

 

 アリアに冷やかされたからか、私は慌てて指を切ってしまった。

 

「痛っ!」

 

「なにやってるんですか……」

 

「め、面目ない」

 

 

 タカトシから絆創膏を受け取り、近くの水場で切り口を軽く洗ってから絆創膏を貼った。とりあえずこれなら作業を続ける事も出来るし、周りに血を垂らす事も無いだろう。

 

「もう終わりますので、会長は大人しくしててください」

 

「私も手伝うぞ?」

 

「今は止血を優先してください。傷口を心臓より高い位置で動かさない事が、とりあえず簡単な止血法ですから」

 

「わ、分かった……」

 

 

 タカトシの雰囲気に負け、私は大人しくすることにした。まぁ殆ど終わってるから、後は三人に任せても問題はないのだが、なんだか申し訳ない気分になるのはどうしてだろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょっとしたアクシデントはあったが、とりあえず草むしりを済ませ、私たちはタカトシがお茶を買いに行ってくれている間休憩を取っていた。

 

「ごめんなさいね、シノちゃん」

 

「アリアが悪いわけではない。私の不注意が招いた結果だ」

 

「タカトシ君が絆創膏を持っててくれてよかったよ~。シノちゃん一人で保健室に向かわせるわけにもいかないしね~」

 

「それは、私が頼りないと言っているのか? 一人で保健室に行っても、自分で処置出来ないと言っているのか?」

 

 

 会長が七条先輩に詰め寄ろうとするが、下手に指を動かさないようにしている為か実際に詰め寄ることはしなかった。

 

「お待たせしました」

 

「すまないな」

 

「いえ」

 

 

 特に気にした様子もなくタカトシが私たちにお茶を配り、自分も近場に腰を下ろしてお茶を飲み始める。

 

「それにしても、ボランティアを募ったはずだったのだが、我々と美化委員以外いないとはどういう事だ?」

 

「参加してもメリットが無かったからではないでしょうか。ましてやこの暑い中草むしりなんてやりたがる生徒がいるとは思えません。それでも、一人二人くらいは参加してくれると思ったのですが……」

 

「まぁ、コトミちゃんたちに参加を持ち掛けてみても断られちゃったしね」

 

「アイツが来ても仕事が増えるだけですから、来なくても良かったんですが、参加者ゼロだったとは思いませんでした。とりあえず終わりましたが、想定していた時間よりかなりかかりましたね」

 

「花壇の手入れだけじゃなく、結構本格的に草むしりをしてたから仕方ないだろ。途中アクシデントもあったわけだしな」

 

「そうですね」

 

 

 お茶を飲み終えたタカトシが、近場のゴミ箱に缶を捨てる。タカトシの運動神経なら投げても入りそうだったが、しっかりと立ち上がって捨てに行く辺りに、タカトシの行儀のよさが窺い知れる。

 

「とりあえず私たちも生徒会室に戻るとするか。美化委員の終了の挨拶も終わったようだしな」

 

「というか、私たちが待っている必要はあったのでしょうか?」

 

「一応、最後までいた方が良いだろ。例え美化委員の挨拶に私たちが関係してなくてもな」

 

「そうですかね」

 

 

 私はイマイチ納得しなかったけども、会長が決めたことだし、七条先輩もタカトシも特に文句無さそうだし、これでいいのかもしれないと思い始めた。

 

「とりあえず各自のブレザーをちゃんと持って帰らないと――背が縮んだ!?」

 

「それは俺のです」

 

「というか、何故私を見ながら言った?」

 

 

 嫌味なのかと疑いの目を向けたが、会長は素知らぬ顔で誤魔化した。

 

「てか、何時まで着てるんですか」

 

「あ、あぁ……すまない。つい、君の匂いがするなと思って」

 

「そんなに臭いますか?」

 

「いや、そっちの意味じゃないから安心してくれ」

 

 

 タカトシが自分の体臭を確認したのを見て、会長は慌ててタカトシにフォローを入れた。ちょっと汗臭いかもしれないけど、タカトシの体臭なら私だって嗅ぎたい――って!

 

「変態かっ!」

 

「「っ!?」」

 

「スズ、どうしたの?」

 

「い、いや……ちょっと自己嫌悪中」

 

「はぁ……」

 

 

 会長と七条先輩は何となく理解したようだったけど、タカトシはイマイチ意味が分からないと言いたげな顔で首を傾げていた。

 

「タカトシ君には分からなくても仕方ないと思うよ。そう言った欲求があんまり無いんだし」

 

「何の話ですか、全く……」

 

「お願いだから気にしないで」

 

 

 私が懇願するように言うと、タカトシは何となく申し訳なさそうな表情で頷いて、私が叫び出した理由を聞くのを止めてくれた。取り合えず良かったけど、会長と七条先輩がニヤニヤ顔を向けてくるのが、何となく居心地が悪かったわね……




美化活動に参加する生徒なんているのか?

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