桜才学園での生活   作:猫林13世

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タカトシの迫力があってこその事故……


ヤンチャの代償

 またしてもストレスが溜まってきたので、ヤンチャでもして発散しよう。

 

「本日のヤンチャタイムは、いたずら描きだ!」

 

「はぁ」

 

 

 なんだかんだ付き合ってくれるタカトシに感謝しつつ、私は手頃な枝を拾った。

 

「でも壁に描くのはいけないので、土の地面に描こう」

 

「何で俺の正面から線を描いてるんですか?」

 

「こうやって描けば、遠目にはタカトシがここで立小便をしたように見えるだろう?」

 

「今すぐ消せ」

 

「は、はいぃ……」

 

 

 タカトシに怒られたので、私はすぐにイタズラ描きを消し、教室に逃げ帰った。

 

「はぁ、怖かった……」

 

 

 最近はタカトシに怒られる回数も減っていたので忘れていたが、アイツを本気で怒らせるとお漏らしをしそうになるんだったな……

 

「というか、コトミはしょっちゅう怒られていて何で大丈夫なんだ?」

 

 

 そんなことを考えながら作業していたら、油性マジックが頬についてしまった。

 

「タカトシを怒らせた罰なんだろうか……」

 

 

 そんなことを考えながら、私は今日一日何とかして目立たないようにしなければと決意したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会室に行くと、会長と七条先輩が何かを話し合っていた。

 

「どうかした――あれ? 会長、ほっぺどうしたんですか?」

 

「うっかり油性ペンをつけてしまってな……やっぱり目立つのか」

 

「まぁ多少は……ですが、そういう時に赤とか明るい色の物を身に着けると、相手の注意をそこに逸らす事が出来ますよ。誘目性が高いそうです」

 

「そうなのか。だが、都合よくそんな物を持っていないしな……」

 

「何か探してきましょうか?」

 

「いや、別に良いんだが……タカトシに見られるの恥ずかしい」

 

 

 乙女心というやつなのだろう。私は一度生徒会室から出て、廊下でタカトシが来るのを待った。

 

「あれ? 何してるの」

 

 

 少し待つとタカトシがやってきたので、私は事情を説明した。

 

「――というわけで、会長が凹み気味」

 

「じゃあ俺は気づかないフリをすればいいのか?」

 

「意識してる異性に指摘されるのは恥ずかしいからね」

 

「了解」

 

 

 意識されてる云々について、タカトシは特に触れる事はしなかった。まぁコイツも会長や私たちの気持ちを知っていながら何時も通りの対応をしてるんだから、今更そんなことで慌てたりはしないわよね。

 

「戻りました」

 

「では会議を始めよう」

 

 

 私と一緒に現れたタカトシをちらりと見て、会長は何か言いたげだったがとりあえず会議を始める事にしたようだった。

 

「――以上が風紀委員からの報告になります」

 

「そうか」

 

「それで、こちらは嘆願書なのですが――」

 

 

 すらすらと会議を進めていくタカトシをじっと見ながら、会長は何か複雑そうな表情を浮かべている。

 

「――というわけなので、検討してみては如何でしょうか……あの、何か俺の顔についてるんですか?」

 

 

 あまりにもジッと見られていたので、タカトシがそんなことを会長に尋ねた。

 

「タカトシって私の顔を全然みてないんだな!!」

 

「はぁ……マジックがついてると指摘されたかったんですか?」

 

「気付いてたのかっ!?」

 

「生徒会室に入った時にチラリと見えたので。ですが、指摘するのは会長に恥をかかせる事になるのではないかと考え指摘しなかったのですが」

 

「そ、そうか。ならいい」

 

 

 不貞腐れた会長の機嫌を上手くとって、タカトシは理不尽な誹りを受ける事は無かった。

 

「ところで、それどうしたんですか?」

 

「さっきイタズラ描きをしてタカトシに怒られただろ?」

 

「はぁ」

 

「あの後慌てて教室に戻って作業してたんだが、つい上の空になってしまい」

 

「それで誤って油性マジックが頬についたわけですか」

 

「そういうわけだ」

 

「完全に落とすのは難しいですが、水で洗ったりして目立たなくしたりはしなかったのですか?」

 

「……そういえば何で洗おうとしなかったんだろうか。落ちないにしても、目立たなくなったかもしれないのに」

 

 

 普通に洗うという事を失念していた会長が、その場で凹んでしまった。タカトシは困ったような顔を私に見せたけど、私はフォローする事が出来なかった。

 

「っ! そう言えば報告があったんでした」

 

「何だ?」

 

 

 私はさも今思い出した風を装って、大袈裟に声を上げた。そのお陰で俯いていた会長の顔が私に向けられた。

 

「校舎の隅にハチの巣が出来ていると柔道部から報告がありました」

 

「ハチの巣? スズメバチか?」

 

「いえ、ミツバチの巣でしたので、必要以上に近づかなければ危険性は低いそうですが、興味本位で近づく生徒がいるかもしれないので注意を促して欲しいと、確認した横島先生から言われました」

 

「我々より横島先生が直接注意を促せばいいのではないか?」

 

「先生曰く、自分が言うよりも会長やタカトシが言った方が説得力が増す、との事でした」

 

「教師としてそれでいいのか?」

 

 

 会長の疑問に、私たちは首をひねったけど、あの先生ならそれでも仕方ないのかもしれないと無理矢理納得する事にした。

 

「タカトシ。悪いが新聞部に行って畑と協力して注意を促すよう手配してくれ」

 

「分かりました」

 

「では、我々は残りの仕事を片付けるとしよう」

 

 

 何故タカトシを派遣したのかは分からないけど、とりあえずはハチに対してはこれで何とかなるわね。




教師としての威厳が無い横島先生でした

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