生徒会業務を済ませ家に帰ると、コトミがリビングでゲームをしていた。割と何時も通りなのだが、宿題は終わったのだろうか……
「やっぱり剣はかっこいいなー」
「家帰ってもゲームしかやらないなら、部活でもやったらどうだ? 多少なりとも内申点を稼げるだろうし」
自分で言っておきながら、コトミが部活に勤しむ姿など想像出来ない。だから冗談のつもりだったのだが、何故かコトミが勢いよくこちらを振り返り、そして思いがけない事を言い出した。
「やる!」
「えっ?」
何を思い立ったのか分からなかったが、その疑問は翌日の登校後に明らかになった。
「ヘヴィファイト部を作りたい? てゆーか、何それ?」
「本物の甲冑を着て剣で叩きあう、中世を意識したスポーツです。かっこいいでしょう?」
「昨日言ってたのはこれか……」
またゲームに影響されたのかと呆れる一方で、興味があるものの知識はしっかりと持ち合わせているのかと少し感心してしまった。
「でも肝心の甲冑はどうやって用意するのよ?」
「だから、今頼みに来てるんですよー」
どういう意味だと首を傾げるスズを他所に、コトミはアリア先輩の前に移動して頭を下げた。
「部のスポンサーになってください!」
「あぁ……そういえばアリア先輩の家に甲冑の置物があったな」
「てか、最初から人頼みって……」
スズのツッコミに俺は同意を示したが、アリア先輩がノリノリで出島さんに電話をかけ始めたので、とりあえずは様子見をすることに決めた。
放課後、七条家に足を運んだ我々は、とりあえず甲冑が置いてある部屋に案内された。
「とゆーわけで、まずヘヴィファイトというものを体験してみよう」
「そしてその教官役を務める出島です。武器は木製ですが激しい競技です。安全にしっかり配慮し、遊び半分でやらないように」
「言ってる出島さんが遊び半分のような気もしますが」
確かにタカトシの言う通り、出島さんは上半身は鎧、下半身はスカートというなんとも言えない恰好をしている。これじゃあ安全を考慮していないと思われても仕方ないだろう。
「お、重い……」
タカトシがツッコミを入れている横で、コトミが鎧の重さに膝をついていた。
「安全性の為にフル装備必須ですからね。20kg以上あります」
「ひぇー」
コトミが苦労している横で、タカトシは平然と鎧をフル装備し、軽く動いていた。
「そういえば、会長は着ないんですか?」
「いや、私は……」
どう答えたものかと考えていたら、横からアリアが口を挿んできた。
「安全性の為にサイズ合わせなきゃならないの。胸囲とか」
「しーっ!」
何で主にそこを言い渋ってるような感じで言うのだ! べ、別に恥ずかしくて言ってないわけじゃなくて、アリアとかコトミとか大きい人間と比べられたくないから言ってないだけで、というか恥ずかしい数字ではないのだ、私だって!
「……心の中で何を言い訳してるんですか?」
「な、何でもない……」
そう言えばタカトシは読心術が使えると噂されているんだったな……叫ばなくてもバレるのなら、いっそのこと大声で言い訳すればよかったかもしれない……
鎧を装備して、まずはタカ兄と剣を合わせる事にした。
「行くよ、タカ兄! とー」
「随分と気の抜ける掛け声だな……」
私の掛け声に呆れながらも、タカ兄はしっかりと剣を合わせてくれた。
「くー! この剣でクロスを描く鍔迫り合いに憧れてたんだー」
「だったら剣道でも良かったんじゃ……」
タカ兄のツッコミを無視して、出島さんが私に共感してくれた。
「分かります。私もムチでクロスを描くのが好きです」
「今は武器の話を……まぁムチも武器だけど」
「それではコトミさま。兜を被り試合と行きましょう」
「待ってました!」
出島さんの準備が完了したので、私はついにヘヴィファイトを体験する事になった。
「たー!」
「こいやー!」
私の掛け声に合わせ出島さんも声を出してくれた。
「ふん」
「ぐぇ!?」
何度か攻撃を繰り出したが全ていなされ、そして反撃され私は膝をついた。
「まいった」
負けを認め剣を収めると、会長たちが拍手をしてくれた。
「初めてにしては頑張ってたな」
「若干動きが鈍かったけど、それでも凄いわよ」
「これを続けられれば、お前も体力がつくんじゃないか?」
タカ兄だけ若干違う感想だったけど、ヘヴィファイト体験は無事に終了した。しかし翌日――
「全身筋肉痛だ……」
――全身運動だったので筋肉痛に悩まされた。
「結局断念か」
「イタタ……ゲームしよう」
タカ兄の呆れているのを隠そうともしない言葉に気付かないふりをして、私はゲームをする事にした。
「暫く鎧は見たくないな……」
そう言いながら私は、キャラの装備画面を開き鎧を外していく。ついでに籠手や兜なども見たくないので外してと。
「これでよし!」
「何で剣以外を外したんだ?」
「ゲームでも鎧とか見たくなかったし、どうせなら露出プレイにしようかなーって」
「くだらない事に頭を使うのなら、しっかりと勉強しろ。今日は宿題あるんだろ」
「何でタカ兄が私の宿題の有無を知ってるのさ!? って、先生から聞いてるんだっけ……」
タカ兄に怒られる前に、私はゲームを止めて宿題をする為に部屋に向かおうとして、筋肉痛の前に撃沈したのだった。
長続きしないコトミ……