桜才学園での生活   作:猫林13世

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神が買い物に来るわけがないと思う


購買部のお手伝い

 購買部のおばちゃんが急用で出かける事になったので、我々生徒会役員が代理を務める事になった。

 

「何々、接客の心得か……お客様は神様…は大袈裟ですが、自分の店を養ってくれる存在と思い、しっかりと敬意を払いましょう、か」

 

「さっきから何を読んでるんですか?」

 

 

 バイトで接客しているタカトシなら緊張しないんだろうが、私はやったことが無いのだ。こういったマニュアルを見ても不思議ではないと思うんだが……そう思い無言で表紙を見せると、タカトシは納得したように表へ向かう。

 

「よし、これでバッチリだ!」

 

 

 マニュアルを読み終えて、私もタカトシに続き表に出た。

 

「いらっしゃいませ、ご主人様」

 

「ほぅ」

 

「今の無し。もう一回やらせて」

 

 

 な、何か間違えたのだろうか……畑のカメラのレンズが光ったかと思ったら、タカトシがすぐさま畑を取り押さえてから、私に耳打ちをしてきた。

 

「何をどう解釈したらあんな挨拶が出るのかは置いておきますが、ふざけるのなら裏方をお願いします」

 

「ま、待て! ちゃんとやるから」

 

 

 せっかく接客するチャンスなのに、裏に回されたらそれはそれで大変じゃないか。何より、せっかくアリアや萩村と話し合って、タカトシと接客するチャンスを勝ち取ったというのに、裏に回されたらアリアか萩村にこのポジションを取られてしまうじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タカトシ君とシノちゃんだけではさばききれなくなったようなので、私とスズちゃんも表で接客のお手伝いをする事になった。

 

「お昼時は混むんだな」

 

「普段利用しないから分からなかったですが、こうしてみると高校の購買も忙しいんですね」

 

「一列に並ばないから、誰の注文を受ければ良いのか悩むよね~」

 

「だが、途中でタカトシが一睨みしたら、大人しく一列に並んだからビックリしたな」

 

「この学校の女子なら、タカトシ君に命じられれば一発だよ~」

 

 

 男子は男子でタカトシ君に逆らえないようだし、女子でタカトシ君の命令に逆らおうと考える人はいないもんね。そのお陰で、私たち三人で接客する事になったんだけど。

 

「ありがとうございました~」

 

「先輩たち、結構様になってますね。接客に向いてるんじゃないですか~?」

 

「そうかな~?」

 

 

 早弁をしたことでお昼が無いコトミちゃんが買い物に来て、私たちの接客態度を褒めてくれた。誰だろうと褒めてくれるって言うのは嬉しいよね~。

 

「というか、随分と上から目線だけど、あんたはどうなのよ?」

 

「私ですか? 私は名前を変えて生きていくので」

 

「結婚の事を随分と大袈裟に言ってるな……というか、お前弁当はどうしたんだ?」

 

「今日の体育はマラソンでさ~。お腹すいちゃって」

 

「その金は何処から出てきたんだ? たしか、もう小遣いを使い切って前借を頼みに来てた気がするんだが?」

 

「それは~……」

 

 

 視線を明後日の方へ向けたコトミちゃんに、タカトシ君の冷たい視線が突き刺さる。誤魔化しきれないと判断したコトミちゃんは、素直に頭を下げて白状した。

 

「マキに借りました」

 

「……はぁ」

 

 

 ため息を吐いて、タカトシ君がポケットからお財布を取り出し、コトミちゃんにお金を渡す。

 

「迷惑料も込みで、これを八月一日さんに返しておいてくれ。来月のコトミの小遣いから天引きしておく」

 

「そりゃないよ、タカ兄!?」

 

「だったら無駄遣いを控え、八月一日さんや時さんに迷惑を掛けないように気を付けるんだな。それから、義姉さんから貰ったお金も、小遣いから天引きするからな」

 

「な、何でそれをタカ兄が知ってるの!? 内緒だって言ったのに……」

 

 

 タカトシ君には逆らえないコトミちゃんは、その場に崩れ落ち、そしてトボトボと教室に戻っていった。可哀想だけど、これもコトミちゃんの為だもんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 在庫チェックを終え、購買のおばちゃんも無事戻ってきたので、私たちのお手伝いはここまでとなった。

 

「いやー、結構疲れたな」

 

「そうだね~。何時もこれだけの人の相手をしてる購買の人を尊敬するよ~」

 

 

 私とアリアで感想を言い合っていると、奥の方で寝息が聞こえてきた。

 

「萩村は寝てしまったのか」

 

「そうみたいですね」

 

 

 タカトシの肩に寄りかかって寝ている萩村を見て、私はなんだか起こしにくい空気を感じ取った。

 

「気持ちよさそうに寝ているのを起こすのは、なんだか心苦しいが、萩村は寝起きがいいから、大丈夫だろう」

 

 

 誰に聞かせるでもなくそう呟いてから、私は萩村を起こす事にした。

 

「萩村、起きろ。私たちも帰るぞ」

 

「むぅ」

 

「な、なんだか寝起きが悪いな……何かあったのか?」

 

「いえ別に」

 

 

 事情は何となく分かるが、萩村のそれも抜け駆けになるんじゃないのか? というか、私だけタカトシにもたれかかった事が無いんだが……

 

「はい、これは御駄賃ね」

 

「ありがとうございます」

 

 

 おばちゃんがくれたジュースをそれぞれが受け取り、それで乾杯する事にした。

 

「お疲れ様!」

 

「「「お疲れさまでした」」」

 

 

 私の音頭に合わせて、三人がジュース缶を突き出す。なんだか中年サラリーマンみたいな感じがするが、これはこれでいいな。




労働の対価がジュース一本……まぁ手伝いですからこれで良いのかもしれませんが

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